国はさまざまな節税制度を用意しています。
今回ご紹介するのは、「経営力向上計画」という経済産業省が実施する中小企業者(中小企業+個人事業主)向けの制度です。
利用することで、節税などのメリットがあります。今回の記事では、税制優遇を受けるための事業者の条件(審査基準)について触れていきます。
1.経営力向上計画とは?
①中小企業経営強化法に基づいた、中小企業支援の制度
経営力向上計画とは、中小企業自らが経営力を強化するために立てる任意の計画のことです。日本経済の復興のため、国(経済産業省)では中小企業に対し、具体的な数値目標と戦略を立てることを推奨しています。
推奨のきっかけとなった法律は、平成28年7月1日に施行された「中小企業等経営強化法」という法律です。既に、これまで84,666件の事業が国から経営力向上計画として認定を受けています。(平成31年3月31日減在の数値)
②経営力向上計画に認定されると得られるメリット
計画を立てるかどうかは任意ですので、計画を立てないとしても事業主の自由です。けれども、この計画を立てて認定された中小事業主(経営力向上計画認定企業)にはその分ご褒美があります。
具体的には、①税金が安くなる(税制優遇)②金融支援を受けられる(事業融資の金利優遇など)③法的支援を受けられるという3つの支援措置が与えられます。
2. 経営力向上計画に認定されるための審査条件とは?
①経営力向上計画に申請するための条件をすべて満たしていること
認定を受けるためには、まず対象業者としての基準をあなたが満たしている必要があります。
すべての申請者に対する基本的な条件は以下となります。資本金または従業員数のどちらか一方のみを、以下の数値を満たしていれば第一段階はクリアです。
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①会社または個人事業主 ②医業・歯科企業を主にする医療法人 ③社会福祉法人、特定非営利活動法人(NPO法人) |
資本金 |
10億円以下 ※③は除く |
従業員数 |
2,000人以下 |
【参照】中小企業庁|経 営 力 向上計画 策定の手引きの3ページの表
次に、あなたが受けたい支援措置ごとにそれぞれ基準が設定されていますので、支援措置ごとの基準を満たす必要があります。
<税制優遇を受けたい場合の条件>
税制優遇とは、あなたが申請する事業の法人税または所得税が減ることです。どのように減らすのかについては「①青色申告書を提出する事業主」が「②決められた事業(指定事業)で決められた期間」に「③一定の設備を新規で購入する」場合に「(ア)即時償却」または「(イ)取得価額の10%の税額控除を受けられる」という方法で行われます。以下、順番にご説明します。
①青色申告書を提出する事業主への税制優遇=「中小企業経営強化税制」
計画を立てさせ数値をきちんと把握させることで日本の中小企業の経営強化を推進している中小企業庁。まず大前提として「青色申告書を提出」していることを、この経営力向上計画では税制優遇を受けたい中小企業へ条件としています。名付けて、中小企業経営強化税制です。中小企業経営力強化税制では最大10%の税額控除が受けられますが、その他「中小企業投資促進税制」「商業・サービス業・農林水産業活性化税制」の税額控除とあわせて最大20%までが適用可能です。
②決められた事業(指定事業)と決められた期間とは?
指定事業は以下の事業です。ほとんどの事業が当てはまると思います。
農業、林業、漁業、水産養殖業、鉱業、建設業、製造業、ガス業、情報通信業、一 般旅客自動車運送業 、道路貨物運送業、海洋運輸業、沿海運輸業、内航船舶貸渡 業、倉庫業、港湾運送業、こん包業、郵便業、卸売業、小売業、損害保険代理業、 不動産業、物品賃貸業、学術研究、専門・技術サービス業、宿泊業、飲食サービス 業、生活関連サービス業、映画業、教育、学習支援業、医療、福祉業、協同組合 (他に分類されないもの)、サービス業(他に分類されないもの)
決められた期間は平成29年4月1日から令和3月31日までの期間限定となります。
③一定の設備を新規で購入とは?
経営力向上計画で税制優遇の対象となっている設備は中古品ではいけません。また、既存のものを修理するからその費用を申請して税金を安くしたいな~というのもNGです。設備を新規で購入する場合は、ジャンルごとに以下の基準を満たさなければいけません。
購入する設備は「A類型:生産性向上設備」または「B類型:収益力強化設備」の2つに分類することができます。生産性向上設備では、指定期間内に生産性を1%以上向上する必要があります。収益力強化設備は、年平均の投資利益率が5%以上になると経済産業省からお墨付き(認定)を受けた設備でなくてはいけません。
【A類型:生産性向上設備とは?】
設備の種類(用途、最低価額、販売開始時期) |
機械装置(すべて、160万円以上、10年以内) |
器具備品・工具(測定及び検査、30万円以上、5年以内) |
ソフトウェア(情報収集および分析・指示機能、70万円以上、5年以内) |
建物付属設備(すべて、60万円以上、14年以内) |
あなたが購入する設備(機械など)が上記の金額を超えていないと、税制優遇は受けられません。例えば、機械装置の購入金額の条件は160万円以上とされていますので、150万円の設備を購入して申請した場合は経営力向上計画に認定されません。また、販売時期が古いものも生産性向上には適さないという背景から適用外となっています。
生産性は何を持って1%と計算すればいいのかと言うと、よく使われるのは「労働生産性」です。労働生産性は、従業員一人あたりでどれぐらいの営業利益を生み出しているかを知るための数値です。以下の計算式で求められます。
- 労働生産性
(営業利益+人件費+減価償却費)÷労働投入量(労働者数または、労働者数×一人当たりの年間就業時間)
※設備金額が税抜きか税込みかについては、事業所の経理の方法が税抜きの場合は税抜き価格、税込みの場合は税込み価格となります。
【B類型:収益力強化設備とは?】
設備の種類(用途、最低価額) |
機械装置(すべて、160万円以上) |
器具備品・工具(すべて、30万円以上) |
ソフトウェア(すべて、70万円以上) |
建物付属設備(すべて、60万円以上) |
B類型はA類型と違い販売開始時期については規定がありませんが、前述した通り、「年平均の投資利益率が5%以上になると経済産業省からお墨付き(認定)を受けた設備」である証明を提出しなければいけません。この手続きは、中小企業経営強化税制の収益力強化設備(B類型)確認申請と言います。経営力向上計画を申請する前に、経済産業省から確認申請を取得し、経営力向上計画を合わせて提出するという流れになります。
では、購入しようとする設備が基準を満たすかどうか(投資利益率5%以上)をチェックするにはどうすればいいのでしょうか。以下の計算式を満たす場合、基準を満たしていると言えます。
投資利益率
=各年度で増加する営業履歴と減価償却費の合計額÷設備取得をする年度におけるその取得する設備の取得価額の合計額
確認申請書は以下のURLよりダウンロードできます。確認書を申請してから発行されるまでは最大1か月かかるので、時間に余裕を持って提出しましょう。
【参照】中小企業等経営強化法の経営力向上設備等のうち収益力強化設備(B 類型) に係る経産局確認の取得に関する手引き
(ア)即時償却とは?
即時償却とは減価償却の一種です。通常の減価償却とは、土地などの大きな買い物をした際に一気に固定資産税がかかるのを防ぐため、確定申告することで数年に分けて固定資産税を支払うことができる税金の制度です。これに対し、即時償却では大きな買い物をした年には固定資産税がかかりません。支払う税金額は減価償却と変わらず、翌年以降に分割して支払わなければいけないのですが、「今年はどうしても固定資産税を払うのが難しい」と考える事業主は利用を検討してもよいでしょう。
(イ)取得金額の10%の税額控除とは?
1,600万円の土地を購入し、固定資産税が1.4%かかるとしましょう。10%の税額控除がない場合は、22万4千円の固定資産税(地方税)がかかります。けれども、10%の税額控除が適用された場合は1,600万円×(100-10=90%)=1,440万円となり、1,440万円に1.4%をかけると20万1,600円となり、22万4千円-20万1,600円=22,400円の節税となります。
なお、資本金が3000万円以上1億円以下の法人の税額控除の%は10%ではなく7%と低くなります。
②申請書に漏れがないこと
助成金の場合も当てはまりますが、政府系のオトクな制度を利用する場合、申請書が1つだけではなく複数あります。それらをきちんと準備するためには、制度をきちんと把握していなくてはいけません。
経営力向上計画の申請に必要な書類は以下の通りです。
- 申請書(原本)
- 申請書(写し)※都道府県に提出する場合のみ
- チェックシート
- 返信用封筒(宛先と切手貼付のもの)
③【番外編】製造業・建設業の場合は有利?過去の認定事業者をチェックしよう
経営力向上計画の制度の性質上か、過去の認定事業者84,666件中36,049件と4割以上は製造業という結果が出ています。次いで、建設業が17,991件となっています。経営力向上計画に認定された事業者の名前や住所は以下のサイトで公表されています。
中小企業庁|中小企業等経営強化法に基づく「経営力向上計画」の認定状況について
※上記URLをクリックすると、中小企業庁のサイトへリンクします
あなたの事業に似ている事業者がどの指針で認定を受けたのかは認定企業一覧をダウンロードすれば調べられます。似たような事業で認定されているのであれば、あなたの事業も認定される可能性があると言う事です。
3 .経営力向上計画の公式資料はこれを見よう!
ネットは手軽に情報を調べられて便利ですが、その反面、古い情報も消されずに残っていることもよくあります。
経営力向上計画など日本政府の行う税制優遇制度や助成金などは、頻繁に制度が変わります。現時点(2019年5月20日時点)で最も新しい公式の手引きのリンクは以下となります。実際に計画を提出する際の参考にしてみてください。
【参照】中小企業庁|中小企業等経営強化法に基づく 支援措置活用の手引き ( 平成3 1 年度税制改正対応版 )
4. 認定支援機関とは?
経営力向上計画に認定されるために手引きを見ていると、それだけでかなり時間がとられてしまいます。「節税のために申請したいけど、これでは本末転倒」という事業者の声も聞こえてきそうです。
日本政策金融公庫の融資などを認定支援機関の認定を受けた税理士が事業者との間に入りサポートしているように、経営力向上計画についても認定支援機関が設けられています。中小企業庁の認定を受けた認定支援機関は全国各地に存在し、以下のリンクから調べることが可能です。
※上記URLをクリックすると、中小企業庁のサイトへリンクします
弊社SoLaboは認定支援機関として、経営力向上計画の申請書作成サポートを実施しております。「申請書の書き方がわからない」「自分で書類作成できるか不安」という方は、まずは一度ご相談ください。
お問合わせの際は「経営力向上計画の件」とお伝えいただくとスムーズです。
まとめ
経営力向上計画に認定されるためには、①対象事業者の条件をクリアしていること②申請用紙をもれなく記入していること、そして③認定支援機関を上手に利用していることという3つがポイントとなります。
全容を理解するためには専門用語があり少々難解ですが、大型の設備購入をする場合には利用を検討してみてもよいでしょう。
資金調達マニュアルについてもっと見る(一覧ページへ)>平成24年8月以降 副業で税理士事務所勤務や広告代理事業、保険代理事業、融資支援事業を経験。
平成27年12月、株式会社SoLabo(ソラボ)を設立し、代表取締役に就任。
お客様の融資支援実績は、累計6,000件以上(2023年2月末現在)。
自身も株式会社SoLaboで創業6年目までに3億円以上の融資を受けることに成功。
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2021年10月発売 『独立開業から事業を軌道に乗せるまで 賢い融資の受け方38の秘訣』(幻冬舎)
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資金調達ノート » https://start-note.com/
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