建設業で退職金の準備をするなら、建退共への加入という選択肢があります。
建退共とは「建設業退職金共済制度」の略で、事業主が従業員に支払う退職金を毎月の掛金で積み立てられ、万が一経営がうまくいかなくなっても退職金が支払われる制度です。厚生労働省の助成金に申請して通れば、掛金の一部がキャッシュバックされます。
今回の記事では、建設業退職金共済制度の概要や申込方法、そして、事業所が一人親方や外国人の場合はどうなるの?という素朴な疑問について解説していきます。
1.建退共とは
以下は、建設事業者と建退共と従業員の関係・仕組みを表した図となります。
【参照:建退共制度の手続き等の流れ|建退協岡山県支部
http://okayama-kentaikyo.jp/system.html】
建退共は、大雑把に言うと退職金の保険と考えればいいでしょう。ただし、一般的な保険と違って国が設立した公的な保険です。
民間の保険会社は自社の利潤追求を目的としていますが、共済の場合はそこに属する組合員や社員の相互扶助の目的で設立されています。
保険会社の種類 |
設立目的 |
アフラック、第一生命など(民間) |
自社の利潤追求 |
中退共、建退共、コープ共済(公的機関、大企業、非営利団体) |
組織に属する従業員、社員、組合員の相互扶助 |
建退共は(独)勤労者退職金共済機構により運営されており、本部は東京都豊島区東池袋、その他に支部が各都道府県にひとつずつ設置されています。(新型コロナの影響で休業していましたが、6月1日より業務再開しています)
建設業は他業界と比べて資金繰りが厳しい業界です。第一に、扱う商品がビルや道路など大きなものなのでコストが非常にかかります。次に、元請けと下請けという建設業ならではの関係により、支払いがスムーズに行われず資金繰りに影響することがあります。
そこで、国は建設労働者の安定した生活や建設事業者の資金繰りを守るため、中小企業退職金共済と共に「建設業退職金制度(建退共)」をつくりました。
建退協は建設業の業界全体の共済制度であり、複雑な建設業界の雇用(現場事務員、現場ドライバーetc)で退職金の対象から外される方がでないことを目的としています。
2.建退協の特徴&メリット
①掛金日額310円で退職金を準備できる
建設事業主が建退共に加入すると、建設事業者には「共済契約者証」を、雇用する建設労働者には1名1冊「共済手帳」が支給されます。
※共済手帳はひとりの建設労働者につき1冊のみ支給されますので、現場を変わった場合も建設労働者は持参します。(建設事業者は新たに雇用した労働者へ手帳を持っているか確認します)
【参照:1.建退協制度の特徴|建退協へようこそ!】
掛金の金額は日額310円(建設労働者1名につき)で、全額事業主負担です。10日分で3,100円、1ヶ月分(30日分)だと約9,300円です。
掛金の支払いは共済証紙取扱機関(都市銀行、地方銀行など)で行い、窓口で共済証紙(上記画像の下)を受け取ります。(従業員数が300名以下の事業所=赤い証紙、従業員数が300名超の事業所=青い証紙)
建設事業主は毎月漏れなく労働者の持つ共済手帳へ共済証紙の貼付を実行します。共済証紙に日付と事業所名の入った消印がない場合は有効となりませんので、忘れないように注意しましょう。
②働いた日数に応じて働く企業が違っても退職金を通算できる
建設業ではプロジェクトにより現場が変化し、働く労働者を雇用する事業主もプロジェクトごとに変わります。
建設労働者の働く現場がどこであっても雇い主が誰であっても、建設労働者が建退協に加入している建設事業者に共済手帳を見せれば、働いた日数に応じた共済証紙を貼ってくれます。そして、退職金は共済手帳に貼られた証紙の枚数に応じて計算され、建設労働者の銀行口座へ直接振り込まれます。
具体的にどれぐらいの退職金が支払われるのかをみてみましょう。被共済労働者としての年月が長ければ長いほど、退職金の額は増えていきます。
退職金加入年数 |
退職金額 |
1年 |
23,436円 |
1年半 |
48,174円 |
2年 |
76,167円 |
2年半 |
156,240円 |
3年 |
234,360円 |
3年半 |
316,386円 |
4年 |
410,781円 |
③建退共に加入すると公共事業の受注に有利
高速道路やインフラ整備などの公共事業を受注できると、建設業者として安定した収入や評価につながります。建退共に加入・履行する建設業者は公共事業の入札に参加する際の「経営事項審査」で加点評価の対象となります。
④掛金は損金・経費扱いでき非課税
建設労働者のために支払う毎月の掛金は非課税です。また、掛金は法人の建設事業者は「損金」、個人事業主の場合は「経費」として扱うことが可能です。
※損金=資産の減少につながる原価、費用や損失のこと。税務上、損金を多く計上すると節税となる
⑤退職金共済手続きは事務組合が代理でできる
小規模の建設事業者が集まって組合をつくれば、各事業所で退職金共済手続きを行うのではなく、一括して組合内の建設事業者の退職金共済事務を行うことが可能です。(この組合のことを事務組合という)
事務組合を設立する場合は、各種申請書を建設業退職金共済事業本部または支部へ提出する必要があります。
詳細は、以下のリンクの「事務組合による事務代理方式について」より下の部分をご参照ください。
⑥外国法人も外国人労働者も加入できる
建退共は日本国内で事業を行う外国人法人も加入できます。また、日本国内で働く外国人建設労働者であれば誰でも加入できます。
英語版|Kentaikyo outline of kentaikyo
3.建退共のデメリット
①一部の従業員のみを加入させることはできない
中小企業退職金共済の場合も同様ですが、建退共を利用する建設事業所は雇用するすべての建設労働者を退職金共済制度に加入させなくてはいけません。アルバイトやパート、事務員だとしても建設業の現場で働くのであれば対象者です。
ただし、以下に該当する方は建退協の加入対象者から外れます。
- 既に建退協や中退共などの退職金共済制度に加入している方
- 建設業の現場ではなく本社事務などを行っている方
②一人親方は加入できない。ただし、組合をつくれば加入できる
中退共の場合も同じですが、原則、一人親方はひとを雇っていないため建退協には加入できません。しかし、ひとり親同士で組合をつくり、その組合として建退協に加入することは可能となっています。
ひとり親方の場合は、共済手帳にじぶんで共済証紙を貼るのではなく、組合により共済証紙を貼ることが義務付けられています。
【参照:制度について|建設業退職金共済事業本部】
4.建退共への申込みと手続き
①まずは最寄りの支部を検索しよう
建退共の本部は東京都の東池袋にありますが、支部は全国各地の各都道府県にひとつずつあります。
事業所の最寄りの支部を検索してみましょう。
②申込書類のダウンロードと記入
最寄りの支部を探せたら、次は申込書類を準備しましょう。必要な書類は①建設業退職金共済契約申込書と②建設業退職金共済手帳申込書の2種類です。もし新たに雇用する労働者が既に手帳を持っていたら、手帳の申込書は必要ありません。その代わり、「手帳申込をしない理由書」という書類を提出します。
・建設業退職金共済契約申込書(様式第001号)
・建設業退職金共済手帳申込書(様式第002号)
・手帳申込みをしない理由書
各書類のダウンロードはコチラから
③申し込みは極力、郵送で!
現在、新型コロナの影響で3密を避けることが社会的なマナーとされています。記入した申込書は返信用の封筒を同封の上、建設業退職金共済本部または支部へ郵送しましょう。また、不明点がある場合も電話で確認しましょう。
5.掛金の免除とは?新たに加入する建設労働者の掛金の助成
①条件
厚生労働省により「建設業退職金制度共済制度に係る掛金」助成が行われています。この助成金を受けるには、以下の条件を満たす必要があります。
- 助成金を申請する事業主は建設事業を営む中小企業者であること
- 建退共制度に新たに加入する事業主または既に加入している事業主であること
中小企業者とは、以下の図の①行目に該当する資本金、従業員数の事業者を指します。
②助成額
この助成金では、対象労働者が建退共制度の被共済者となった月から12か月相当分の掛金額(日額310円)の1/3(50日分)を支給します。
例えば、対象労働者のAさんが2020年6月から共済者となった場合にもらえる助成金を計算しましょう。
310円×50日=15,500円
上記のように、Aさん1名の助成金で15,500円を受け取れることがわかりました。
③助成金の申請はどうすればいいの?
この助成金は一般的な他の助成金とシステムが異なり、助成金の申請書を提出するものではありません。掛金免除欄が設けられた退職金共済手帳をお使いいただくことで助成を受ける仕組みとなっています。掛金免除欄が設けられた手帳のことを「掛金助成手帳」と言います。
【掛金助成を受ける段取り】
①新規労働者へ承諾を得て、建退協で新規加入手続きを行う
②新規労働者へ承諾を得て建退協で共済手帳申込書を提出し、掛金助成手帳を交付してもらう
、、これでOKです。掛金助成手帳にはあらかじめ50日分が免除されるような記載があるため、51日目分から共済証紙を貼るということになります。
まとめると、建退協の共済手帳には通常の共済手帳と掛金助成手帳の2種があり、これから始めて手帳をもらう方は「掛金助成手帳」をもらうことになります。掛金助成手帳はひとりにつき1冊までなので、2冊目からは通常の共済手帳を利用することになります。
まとめ
建設業退職金共済制度は、労働者の生活と業界を守る相互扶助の制度です。
新たに加入する事業者の方は、1名の労働者につき50日分の掛金は免除されると覚えておきましょう。
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