多くの建物・堤防等が損壊した東日本大震災からまもなく10年が経とうとしています。
復興に向けて日々作業をしてくれたのは自衛隊や消防署の職員だけではありません。 毎日遺体を見ながら懸命に作業してくださった建設業の方々のおかげで、被災地の住まいやインフラ整備はほぼ9割が完了しました。 計画的に作業できた背景には、彼らの精神力や責任感やプロ意識とともに、作業宿舎の設置もあったことをご存知でしょうか。
今回の記事では、被災地などで建設業の事業主が作業員宿舎などの設備を設置する際に使える人材確保等支援助成金(建設分野)についてお話します。
なお、当サイトでは同助成金の「若年者及び女性に魅力ある職場づくり事業コース」についても以下のリンクでご紹介しております。
【参照URL:建設事業主等に対する助成金(旧建設労働者確保育成助成金)パンフレット】
1.作業宿舎の設置は建設現場での人員確保や円滑な施工に関係する
ここ日本ではここ10年、東日本大震災だけでなく熊本地震や台風10号など大型の自然災害に見舞われ続けています。大型の自然災害によるインフラ整備を行うには、通常の建設計画だけではなく、地方公共団体や建設協会との連携など、国と地方との協力や資金援助などが不可欠です。
以下は、各都道府県主管部局長あてに国土交通省土地・建設産業局が出した東日本大震災時の作業宿舎の増設支援のお願いの文書です。
【参照:国土交通省|東日本大震災の復旧・復興に係る作業員宿舎建設に関する支援制度についてhttps://www.mlit.go.jp/common/000217149.pdf
この文書の中では、国土交通省が東日本大震災の作業宿舎を建設する建設業者に対しては「債務保証制度」(建設業振興基金)が使えるから、地域の建設業者にも作業宿舎の建設にもこの制度が使えることを周知してほしい、というような内容が書かれています。
建設業は一般的にお金がかかる事業です。しかし、助成金などの公的な支援を上手に使うことで、事業を効率的に改善・進化させることができます。
2.建設労働者確保育成助成金→建設事業主に対する助成金へリニューアル
以前は「建設労働者確保育成助成金」という名前の助成金がありましたが、平成30年(2019年)4月からは「建設事業主等に対する助成金」という名前に変更になりました。
建設事業主等に対する助成金は、現在、以下の3つの助成金を含む総称です。
【建設事業主に対する助成金は3つの助成金のことを言います】
- トライアル雇用助成金(建設業)(1コース)
- 人材確保等支援助成金(建設業)(3コース)⇒今回のテーマはコレ!
- 人材開発支援助成金(建設業)(2コース)
3つの助成金はさらに全6コースに分かれています。どのコースを選ぶかにより、申請書類や支給のための条件(支給要件)は異なります。
3つの助成金の名前にわざわざ(建設業)と書かれてあるのは、他の業種と区別をつけるためです。上記の3つの助成金を製造業や小売業など別業界の方が使う場合は、(建設業)と書かれていない方の助成金(例、トライアル雇用助成金)に申請しましょう。
3.人材確保等支援助成金(建設業)と3つのコース
労働者が働きやすい環境を事業主が整備することでもらえるのが人材確保等支援助成金です。どのように働きやすい環境をつくるかにより、以下の3つのコースに分かれています。
【人材確保等支援助成金の3つのコース】
①雇用管理制度助成コース |
雇用管理制度(評価・処遇制度、研修制度、健康づくり制度、メンター制度等)の導入をして従業員の離職率低下や雇用の推進に取り組んだ事業主がもらえる助成金 |
②若年者及び女性に魅力ある職場づくり事業コース |
若年者及び女性に魅力ある職場づくり事業に取り組む事業主がもらえる助成金 |
③作業員宿舎等設置助成コース ⇒今回のテーマはコレ! |
被災三県(岩手県、宮城県、福島県)に所在する工事現場での作業員宿舎、賃貸住宅、作業員施設の賃借事業を行った事業主がもらえる助成金 |
作業員宿舎などを被災地で建設する予定の事業主の方は、以下の内容を読み、ぜひこの人材確保等支援助成金(建設業)(作業員宿舎等設置助成コース)を狙ってみてください。
4.Aの中小建設事業主、Bの中小建設事業主って何?
この助成金に申請できるのは条件を満たした中小建設事業主ですが、中小建設事業主の中でもAの中小建設事業主またはBの中小建設事業主でなくてはいけない、というルールがあります。
Aの中小建設事業主、Bの中小建設事業主について説明しましょう。以下の図をご覧ください。
AやBの区別の基準はズバリ雇用保険適用利率です。雇用保険の適用利率って、業種によって細かく分けられているんですよね。
例えば、以下は令和2年度(2020年度)の雇用保険適用利率の一部を表した表です。
Aの建設事業主の場合は「建設の事業」の利率が適用されており、事業主負担は8/1000です。一方、一般の事業の場合は事業主負担が6/1000となっており雇用保険適用利率が異なることがわかります。
助成金は厚生労働省が主催しているもので、厚生労働省は雇用保険やハローワークと密につながっているため、助成金申請者がどのように雇用保険を支払っているかは気になる点なのでしょう。
ちなみに、同助成金の「若年者及び女性に魅力ある職場づくり事業コース」では助成金の知将はAの建設事業主のみと限定されています。しかし、作業員宿舎等設置助成コースではAの建設事業主およびBの建設事業主も支給対象となっています。
さらに、助成金の対象となるには以下の規定もあります。
Aの建設事業主 |
自ら雇用する建設労働者又は直接の下請のAの中小建設事業主が雇用する建設労働者を寄宿させるために賃借により整備すること |
Bの建設事業主 |
自ら雇用するAの事業所に雇用される建設労働者又は直接の下請のAの中小建設事業主の建設労働者を寄宿させるために賃借により整備すること |
このことを分かりやすく図にすると、以下になります。
【Aの建設事業主の場合】
【Bの建設事業主の場合】
対象の労働者は、Aの建設事業主が直接雇用する場合労働者でもAと下請け関係にあるBの建設事業主が雇用する労働者でもOKです。彼らが被災3県で工事するための作業宿舎を建設する場合が助成金の対象となります。
6.作業員宿舎等設置助成コースの2種類の助成とは?
このコースには以下2種類の助成があります。1つずつ確認していきましょう。
①作業員宿舎等設置助成
被災3県の復興等の工事作業のために作業員宿舎などを設置する事業主が使える助成(支援)です。
利用するための条件は以下となります。
(1)ひとり親方など、ひとを雇っていない事業者は対象外
人材確保等支援助成金という名前をみると、てっきり「労働者(人材)を雇う(確保)ことでもらえる助成金」と思う方もいるかもしれません。実は、この助成金はそうではなく「労働者の職場環境を改善した事業主に向けて支払われる助成金」です。
そのため、そもそも人を雇っていないひとり親方や従業員が家族のみの家族経営の方は対象外となっています。
(2)大前提として雇用保険適用事業主であること
厚生労働省が主催している助成金はすべて「雇用保険適用事業主」に向け支払われます。現在、新型コロナウイルス感染症の影響によりコロナ関係の助成金は雇用保険適用事業主でなくてもOKの助成金もありますが、それ以外の助成金は原則、雇用保険適用事業主であることはマストの条件です。
(雇用保険適用事業主とは?)
労働者を雇っている事業主であれば、ほとんどの事業主が雇用保険適用事業主と言えます。例外は農林水産業の個人事業主で常時雇用の従業員が5名以下の場合のみ。雇用保険適用事業所なので労働者の1/2以上が雇用保険を希望しているのに加入していない場合、その事業主は助成金を受け取ることはできません。
(3)雇用管理者を選任していること
雇用管理者とは、労働者の採用から技能の向上、勤怠管理、福利厚生、名簿の作成までを一貫して行う者のことを言います。
一般的な会社では人事や総務がこれに当たると思いますが、建設業で現場作業の場合は「現場監督」という言い方をします。
雇用管理者になるには特に資格は必要ありませんが、厚生労働省による無料の「雇用管理研修」が実施されていますので、雇用管理者を選任する際には雇用管理研修も同時に受けてもらうとよいでしょう。
(4)対象事業の実施に関する計画を立てる中小建設事業主であること
他の助成金でもそうですが、助成金をもらう際には事前に「計画」を立てて管轄の労働監督署などに提出して「認定」してもらう必要があります。
作業員宿舎等設置助成コースの場合は、被災三県(岩手県、宮城県、福島県)の工事現場での作業員宿舎、賃貸住宅、作業員施設の賃借に係る計画を立てて認定される必要があります。
また、事業主の規模は中小建設事業主が対象であり、大手の建設事業者は対象外です。中小建設事業主については、以下の表の①の業種の中小事業者の部分をご参照ください。
【参照:中小企業庁|FAQ「中小企業の定義について」https://www.chusho.meti.go.jp/faq/faq/faq01_teigi.htm#q1】
また、作業宿舎等の貸借については以下のような規定があります。
- 宿舎を利用する期限があらかじめ決まっており(有期)、宿舎は被災地三県の工事現場に必要な宿舎等でなければならない。
万が一不正受給を行った場合は助成金の返還や1年以内の再受給ができなくなるなどの措置がとられる可能性があります。
②女性専用作業員施設設置経費助成
建設業界での女性の進出も徐々に進められています。建設業ってちから仕事だけと思われがちですが、意外にちから仕事以外の仕事もたくさんあります。
この助成についての条件をみていきましょう。
- (1)ひとり親方など、ひとを雇っていない事業者は対象外
- (2)大前提として雇用保険適用事業主であること
- (3)雇用管理者を選任していること
- (4)建設工事を施工主から受注し、自ら施工管理する当該建設工事現場に女性専用の作業員施設を賃借により整備するAの中小建設事業主
女性用の施設については、ロッカーを設けること、脱衣所を設けること、などの規定があります。詳細は、以下のパンフレットの27ページをご覧ください。
【参照URL:建設事業主等に対する助成金(旧建設労働者確保育成助成金)パンフレット】
7.作業宿舎・賃貸住宅・作業員施設の設置基準
このコースの条件となる施設は、作業宿舎・賃貸住宅・作業員施設の3つです。いずれも既に建てられた宿舎ではなく、これから新たに建てられる宿舎でなくていけません。また、以下の設置基準を満たす必要があります。
①作業宿舎の設置基準
まず、作業宿舎の設置を見てみましょう。
【作業宿舎の設置基準】
1 |
入居者数→1室の入居者数は2名以下であること |
2 |
1人あたりの居住面積→4.8㎡以上であること。ただし、1室に世帯として入居する場合は1室の居住面積が20㎡以上であること |
3 |
入居者の所属事業所→収容能力人員の7割以上が自社の建設労働者又は直接の下請のAの中小建設事業主又はAの事業所に雇用される建設労働者であること |
4 |
居住費の負担限度額→原則無料または光熱費程度の経費を上限とすること |
5 |
トイレ→大便用は女性用と別に設置するのが望ましい |
6 |
収納設備→ロッカーを使用しても可。ただし、ロッカーを設置した場合は居住面積がいとする |
7 |
建築基準法上の確認申請書→建築法上、確認申請が必要な作業宿舎は法律にのっとること |
8 |
敷地所有者の承諾書 →設置に関する敷地所有者との承諾書(土地使用契約書、土地賃貸借契約書など)を必要とすること。 |
9 |
その他→作業員宿舎の居室部分のみを整備した場合の食堂、浴場及び便所は、同一敷地内に他の建設労働者と共同に使用できるものがあれば足りること。 |
②賃貸住宅の設置基準
被災3県で新たに労働者を雇うために賃貸住宅が必要な場合、以下の基準に沿っている貸借であれば助成金の対象となります。
- 被災地3県内に所在する賃貸住宅であること
- 新たに雇い入れた労働者を居住させるための賃貸住宅を貸借する中小建設事業者
また、居住させる労働者と中小建設事業者との雇用関係は、作業宿舎と同じく直接雇用または下請け業者による雇用となります。
賃貸住宅の物理的な条件やルールは以下の通りです。
1 |
新たに雇い入れた建設労働者の直前の住居から当該賃貸住宅までの距離が60㎞以上であること |
2 |
新たに雇い入れた建設労働者は、ハローワークの紹介により採用した者であること |
3 |
新たに雇い入れた建設労働者は、助成対象期間を通して雇用保険一般被保険者であること |
4 |
賃貸住宅1物件あたりに居住する算定対象となる建設労働者は1人のみであること |
5 |
1人あたりの居住室(玄関、台所(炊事場)、トイレ、浴室、廊下等を除き7.4㎡以上のもの)が一室以 上あること |
6 |
1人あたりの居住室(玄関、台所(炊事場)、トイレ、浴室、廊下等を除き7.4㎡以上のもの)が一室以 上あること |
7 |
賃貸住宅の賃貸人から自己の雇用する建設労働者に無償で賃貸することについて承諾を得ているもので あること |
やはり、ここでも厚生労働省の助成金らしく居住させる新規の労働者はハローワークを通じて採用した方であり、なおかつ雇用保険一般被保険者でなければいけないというルールがあります。
③作業員施設の設置基準について
作業員施設とは、工事現場で労働者が快適に作業するための食堂、シャワー室、更衣室、浴室などを備えた施設のことを言います。
作業員施設の設置には、食堂や休憩室などについて物理的な条件やルールがあります。
詳細は以下のパンフレットの24ページを参照してみてください。
【参照URL:建設事業主等に対する助成金(旧建設労働者確保育成助成金)パンフレット】
作業員施設を設置する場合、以下のような項目が支給対象経費です。
・屋内上下 水道及び ガス配管 工事費・屋内電気 配線 工事費・冷暖房設 備(原則 として固定されたもの)・くつ・ 雨具等の 収納設備・湯沸器 など
④支給対象外となる設置基準
なお、助成対象のこれらの施設は以下に該当する場合は支給対象外となってしまいます。ご注意ください。
【助成金対象外の条件】
- 作業宿舎を利用する労働者の配偶者や1親族等内の血族の所有する建物の場合
- 作業宿舎を利用する労働者が法人の場合
- 作業宿舎の敷地面積のうち1/2以上が工事に関係のない目的で使われる設備の場合
- 被災3県以外を経由して宿泊する労働者を集め、労働者に宿泊料の負担を間接費として支払わせている場合
8.作業員宿舎等設置助成コースでキャッシュバックしてくれる経費
助成金とはタダでもらえるお金ではなく、あなたが助成金の条件を満たして、さらに対象の経費を使った場合にキャッシュバックされる制度です。
そのため、条件をクリアしていても使った経費が支給対象経費に当てはまらなければ、助成金を支給することはできません。
では、この助成金の対象経費をみていきましょう。
【作業員宿舎等設置助成コースの支給対象経費】
支給対象経費の名前 |
備考 |
作業宿舎の貸借料 |
設置場所、構造・規模等について、類似の作業員宿舎の賃借料と比較して社会通念上適正なものでなければならないこと |
資機材の搬入に係る運搬費 |
- |
設置又は据え付け、組立に係る工事費 |
- |
設置基礎、付帯設備に係る工事費 |
- |
壁、床及び天井に接続し又は固定されたものに係る費用(賃借に限る) |
例)例えば、床に固定された調理台及びガス台、壁に固定された 換気扇、テレビ用集合アンテナ及びエアコンなど |
ポイントとして、必ず貸借ではなければいけないという点があります。「えっ!作業宿舎のレンタルなんてできるの?」と思われた方もいるかもしれません。
できます、できます。「作業宿舎 レンタル」で検索すると、ユニットハウス・プレハブルーム設置の業者さんを見つけることができます。
【参照:モバイルスペース|宿舎のレンタル・販売】
9.助成金の支給額と助成期間について
支給対象費用の2/3に相当される額が支給されます。1事業年度につき上限は200万円です。ただし、賃貸住宅については、1人最大1年間かつ月 額3万円を上限です。
助成金額と助成割合 |
支給対象経費の2/3 (※1事業年度で上限200万円) |
10.手続きについて
①計画の提出
この助成金に申請する場合、まずは事業の計画を規定の書式に記入して、事業所を管轄するハローワークまたは労働局へ提出します。
計画の提出の締め切りは、作業宿舎、作業設備の場合は事業を始める2週間前まで、新たに雇用する労働者用に賃貸住宅の場合は1ヶ月前までとなります。
計画届のダウンロードはコチラから
建設事業主等に対する助成金申請様式ダウンロード(平成31年度)
計画届がハローワーク・労働局で受理されると、計画の写しが事業主に返送されます。返送されたら、計画に沿って事業(宿舎を借りたりして工事をすることなど)をスタートしましょう。
②事業終了の3ヶ月以内を目安に支給申請を行う
この助成金は通年で行っていますので、事業主によってスタートや終了時期が異なります。概ね、あなたが事業(18カ月以内)を終了した3ヶ月以内に、またハローワーク・労働局へ「支給申請書」を提出することになります。
申請書のダウンロードも、上記でご紹介した申請様式ダウンロードのページから取得できます。
まとめ
建設業が使える助成金の中で、人材確保等支援助成金の作業員宿舎等設置助成コースについて解説しました。貸借する設備の条件などをクリアすれば、確実に狙える助成金だと思います。
ぜひ、建設業と被災3県の未来のために有効にお役立てください。
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