後継者への事業承継を考えている人の中には、承継にかかる資金を日本政策金融公庫から調達したい人もいるでしょう。もしくは、事業を譲り受けて創業したい人もいるかもしれません。
当記事では、日本政策金融公庫の事業承継・集約・活性化支援資金を解説します。対象要件や利用に際しての留意点も解説しているため、事業承継を検討している人は参考にしてみてください。
事業承継・集約・活性化支援資金の対象要件
事業承継・集約・活性化支援資金とは、事業承継やM&Aに取り組む事業者を支援する目的のもと設けられた日本政策金融公庫の融資制度です。5つの対象要件がありますが、いずれか1つに該当すれば利用できるため、事業承継を検討している人は要件の内容を確認してみましょう。
【事業承継・集約・活性化支援資金の対象要件】
対象要件 | 内容 |
---|---|
中期的な事業承継計画を策定している方 | 後継者(候補含む)と共に事業承継計画を立て、10年以内に事業承継の実施が見込まれること |
事業承継・集約の当事者 | 安定的な経営権の確保等により、事業の承継・集約を行う方もしくは承継・集約される方 |
経営承継円滑化法の認定者 | 同法第12条第1項の認定を受けた中小企業者や個人 |
保証免除により資金調達が困難な方 | 事業承継に際して、取引金融機関に保証免除を申し入れたことが原因で資金調達が難しくなっている方 |
第二創業やPMIに取り組む方 | 承継後に事業転換やM&A後の経営統合計画などに取り組む方(5年以内) |
※日本政策金融公庫「事業承継・集約・活性化支援資金」を参考に株式会社SoLaboが作成
対象要件は5つありますが、いずれも事業承継を実施する予定の事業者が利用対象となっています。後継予定者と事業承継計画を立てていれば事業承継前でも申請できるため、承継の時期に合わせて柔軟に申請できる点が特徴です。
また、事業承継する側とされる側のどちらも制度の対象となります。M&Aを通じて事業を引き継ぐケースも含まれるため、親族内承継に限らず第三者承継にも利用できます。承継の形式にかかわらず活用できる点が特徴といえます。
事業承継に取り組む事業者であれば、おおむね対象となりやすい融資制度といえます。承継計画の立案や引き継ぎ先の選定など、制度の申請準備には時間がかかるため、日本政策金融公庫や専門家に早い段階で相談しておくことも検討してみてください。
なお、当サイトを運営する株式会社SoLabo(ソラボ)では、事業資金に関する融資サポートを実施しています。8,000件以上の融資サポートの実績から無料診断できるため、日本政策金融公庫の事業承継・集約・活性化支援資金を受けられるか気になる人は無料診断を試してみてください。
事業承継・集約・活性化支援資金の融資条件
事業承継・集約・活性化支援資金の融資条件は以下の通りです。一般貸付よりも融資条件が緩和されているため、詳細を確認してみましょう。
【事業承継・集約・活性化支援資金の融資条件】
項目 | 内容 |
---|---|
融資限度額 | 最大7,200万円(うち運転資金は4,800万円) |
返済期間 | ≪設備資金≫ 20年以内(据置5年以内) ≪運転資金≫ 10年以内(据置5年以内) |
利率(年) | 基準金利(2.7%程度) 特別利率A(2.30%程度) 特別利率B(2.05%程度) ※対象者区分により異なる ※2025年7月現在の金利をもとに記載 |
経営者保証 | 経営者保証免除特例制度と併用可能 |
※日本政策金融公庫「事業承継・集約・活性化支援資金」を参考に株式会社SoLaboが作成
事業承継・集約・活性化支援資金では、一般貸付よりも融資限度額や返済期間の条件が緩和されています。「株式や営業権の買い取り費用」「引継後の仕入資金や人件費」など、事業承継に取り組むうえで大規模な資金調達が必要な場合にも活用できます。
事業承継・集約・活性化支援資金の金利は対象者区分によって異なります。5つの対象要件のうち、どれに該当するかによって適用金利が決まるため、詳細は日本政策金融公庫に確認することになります。
なお、事業承継・集約・活性化支援資金を利用する場合は経営者保証免除特例制度と併用できます。経営者保証が免除されることにより、後継者のリスクを減らせる可能性があるため、事業承継・集約・活性化支援資金を検討している人は留意しておきましょう。
日本政策金融公庫の経営者保証に関する情報が知りたい人は「保証人なしでも日本政策金融公庫から融資を受けられるのか?」の記事も参考にしてみてください。
事業承継・集約・活性化支援資金に必要な書類
事業承継・集約・活性化支援資金の申請には、通常の融資とは別にいくつかの書類が必要になります。対象要件の区分によって必要な書類が異なる場合があるため、自身が必要となる書類を確認しておきましょう。
【事業承継・集約・活性化支援資金の必要書類】
たとえば、対象要件の区分が「中長期的な事業承継計画を策定している方」の場合は、「事業承継計画書」を提出します。「事業の方向性」「株式」「後継者教育」など、事業承継にあたり必要なステップを後継者と計画的に実施することが求められます。
また、対象者区分が「事業承継・集約の当事者」の場合は、「付加価値向上計画書」を提出します。安定的な経営権の確保等により事業承継を実施する場合は、承継前の経営課題を踏まえつつ事業の改善や拡大に関する定量的な数値計画の提出が求められます。
事業承継・集約・活性化資金を利用するためには、通常の融資申請書類に加え、対象要件の区分ごとに必要な計画書等を提出することになります。日本政策金融公庫の「各種書式ダウンロード」より、各書類を確認してみてください。
事業承継・集約・活性化支援資金の留意点
事業承継・集約・活性化支援資金を利用する際は、制度の目的や審査のポイントを踏まえて準備を進めることが重要です。要件に合致していない場合や準備不足のまま申請すると、融資が否決されるおそれもあるため、事業承継・集約・活性化支援資金の留意点を押さえておきましょう。
【事業承継・集約・活性化支援資金の留意点】
- 融資対象とならないケースがある
- 計画の整合性・実現性が問われる
事業承継・集約・活性化支援資金の留意点として「融資対象とならないケースがある」「計画の整合性・実現性が問われる」点が挙げられます。事業承継・集約・活性化支援資金の利用を検討している人はそれぞれの内容を確認してみましょう。
融資対象とならないケースがある
事業承継・集約・活性化支援資金は、すべての承継に使えるわけではありません。「承継の実態が不明確」「買収の目的が曖昧」「資金使途が単なる借換」などに該当すると、融資の対象外となる可能性があるため、制度の趣旨に合致しているかを確認することが重要です。
【融資対象とならないケースの例】
- 契約が未確定なM&A
- 買収の目的が不透明
- 借入金の返済のみが目的
- 事業の継続意志が曖昧
たとえば、M&Aで買収する意思はあっても、契約や引継ぎの時期が不明確な場合は実態が不十分と判断されることがあります。「契約書の写しがない」「後継者の関与が不十分」といった状態では、事業承継計画の具体性が不足しているとみなされる可能性があります。
また、事業承継に際して新たな付加価値が見込めない場合は、融資対象とならない可能性があります。「既存の借入返済のみ」「営業活動が伴わない買収費用のみ」など、事業承継を通じて新たな設備投資や雇用創出を目指す計画がない場合は、制度本来の目的に合わないとされることがあります。
事業承継・集約・活性化支援資金を利用する際は、承継の内容や資金の使い道について説明できるよう整理しましょう。自社のケースが融資対象となるか不安な場合は、日本政策金融公庫の窓口や専門家に相談することも検討してみてください。
計画の整合性・実現性が問われる
事業承継・集約・活性化支援資金では、提出する計画書の整合性と実現可能性が重視されます。通常の融資では、財務状況や資金使途を中心に審査されますが、事業承継・集約・活性化支援資金の場合は計画書を提出することになるため、計画書の内容も審査の判断材料となるからです。
たとえば、売上の増加を目標に掲げながら、具体策が示されていない場合、実現性に疑問を持たれる可能性があります。「販路拡大の方法」「新規事業の立ち上げ」など、売上増加に向けた行動案が示されていない場合、計画数値の根拠が薄いと判断されかねません。
また、後継者や買収後の責任者のスキルや経験が明示されていないと、承継後の体制に疑問を持たれる可能性があります。承継される側の引継ぎ意向や承継前後の協力体制も含めて、事業をスムーズに承継できる体制が構築されていることを伝える必要があります。
計画書の作成時には、将来の数字だけでなく、施策の根拠や人的体制の裏付けを丁寧に記載しましょう。数値目標に加えて、実際の施策や実行体制を明確に記載することにより、承継後の持続性と発展性を論理的に説明できるため、計画書を作成するときは留意してみてください。
日本政策金融公庫の事業承継マッチング支援の利用も検討する
日本政策金融公庫では、融資だけでなく事業承継そのものを支援するためのサービスを提供しています。事業の引継ぎに関する相談や後継者探しをサポートしているため、事業承継を検討している段階の人は公庫の事業承継マッチング支援の利用も考えてみましょう。
【事業承継マッチング支援の概要】
項目 | 内容 |
---|---|
支援内容 | 譲渡希望企業と譲受希望者のマッチング支援 |
掲載方式 | ノンネーム型(匿名)・オープンネーム型(実名)から選択可能 |
利用対象 | 事業を譲渡したい中小企業者・創業を検討する譲受希望者 |
利用料 | 無料(専門家費用などが発生する場合あり) |
支援の流れ | 申込→秘密保持契約→情報提供→面談・交渉 |
※日本政策金融公庫の「事業承継マッチング支援」を参考に株式会社SoLaboが作成
事業承継マッチング支援では、公庫の専門担当者が双方の条件に合った事業者を紹介してくれます。マッチングサイトにオープンネームで情報公開している企業もあるため、譲受希望者はサイトから事業者を探すこともできます。
事業承継マッチング支援の利用は無料です。ただし、公庫はあくまで紹介のみおこなうため、事業の譲渡・譲受に関する交渉や契約手続きに関する支援が必要な場合は、税理士や弁護士等の専門家に依頼することになる関係上、別途費用が発生する可能性があります。
サイト上では、事業承継マッチング支援の成約事例も確認できます。実際にサービスを活用して譲渡・譲受が実現したケースが掲載されているため、事業承継を検討している段階の人は情報収集の一環として活用してみてください。
事業承継・M&A補助金との併用も検討する
事業承継・集約・活性化支援資金を活用する場合、補助金制度との併用も検討してみましょう。事業承継・引継ぎ補助金は事業承継に取り組む経費の一部を支援する制度であるため、公庫融資とあわせて活用することで資金面の支援を厚くできる可能性があります。
【事業承継・M&A補助金の概要】
支援枠 | 概要 |
---|---|
事業承継促進枠 | 5年以内に事業承継を予定している場合の設備投資などを支援。補助上限は800〜1,000万円。中小・小規模企業は最大2/3を補助。対象は建物・設備・システム導入費等。 |
専門家活用枠 | M&A時のFA(フィナンシャルアドバイザー)や仲介者の活用費用を支援。買い手型支援は最大2,000万円、元オーナー型は800万円が上限。補助率は最大2/3。 |
PMI推進枠 | M&A後の経営統合(PMI)に関わる設備投資・専門家費用を支援。上限は1,000万円で、補助率は最大2/3。外注費やPMI専門家費用などが対象。 |
廃業・再チャレンジ枠 | 事業承継・M&Aに伴う廃業費用(原状回復費・在庫処分など)を支援。上限は150万円で、補助率は最大2/3。他枠との併用申請が可能。 |
※令和7年3月時点の「事業承継・M&A補助金リーフレット」を参考に株式会社SoLaboが作成
事業承継・M&A補助金は、承継前・承継時・承継後と段階に応じた支援が用意されています。たとえば、設備投資には「事業承継促進枠」、PMIには「PMI推進枠」といったように、自社のタイミングや目的に合った枠を選ぶことで、必要な資金負担を軽減することができます。
補助金の上限や補助率は支援枠ごとに異なり、とくに中小・小規模企業者は補助率が優遇されています。ただし、申請には要件確認や専門家の関与が必要なケースもあるため、早い段階で制度内容を確認し、自社の計画に合致するか検討が必要です。
なお、補助金は申請から交付までに時間を要するため、費用は原則として先に立て替える必要があります。資金繰りが不安な場合は、日本政策金融公庫の融資制度を併用し、事業承継にかかる費用の負担を分散することも検討してみてください。
まとめ
事業承継・集約・活性化支援資金とは、事業承継やM&Aに取り組む事業者を支援する目的のもと設けられた日本政策金融公庫の融資制度です。5つの対象要件がありますが、いずれか1つに該当すれば利用できるため、事業承継を検討している人は要件の内容を確認してみましょう。
事業承継・集約・活性化支援資金の申請には、通常の融資とは別にいくつかの書類が必要になります。対象要件の区分によって必要な書類が異なる場合があるため、自身が必要となる書類を確認しておきましょう。
なお、日本政策金融公庫では、融資だけでなく事業承継そのものを支援するためのサービスを提供しています。事業の引継ぎに関する相談や後継者探しをサポートしているため、事業承継を検討している段階の人は公庫の事業承継マッチング支援の利用も考えてみましょう。
資金調達マニュアルについてもっと見る(一覧ページへ)>
平成24年8月以降 副業で税理士事務所勤務や広告代理事業、保険代理事業、融資支援事業を経験。
平成27年12月、株式会社SoLabo(ソラボ)を設立し、代表取締役に就任。
お客様の融資支援実績は、累計6,000件以上(2023年2月末現在)。
自身も株式会社SoLaboで創業6年目までに3億円以上の融資を受けることに成功。
【書籍】
2021年10月発売 『独立開業から事業を軌道に乗せるまで 賢い融資の受け方38の秘訣』(幻冬舎)
【運営サイト】
資金調達ノート » https://start-note.com/
創業融資ガイド » https://jfc-guide.com/
経営支援ガイド » https://support.so-labo.co.jp/
融資支援実績 6,000件超独立・開業・事業用資金の資金調達を
ソラボがサポートします。
- 独立するための資金調達をしたい
- 金融機関から開業資金の融資を受けたい
- 手元資金が足りず資金繰りに困っている
中小企業庁の認定を受けた認定支援機関である株式会社SoLabo(ソラボ)が、
あなたの資金調達をサポートします。
ソラボのできること
新規創業・開業の相談受付・融資支援業務、既存事業者の融資支援業務(金融機関のご提案・提出書類作成支援・面談に向けたアドバイス・スケジュール調整等)