3つの助成金を申請し、合計1,740万円の高額受給に成功!
今回ご紹介するのはIT企業の事業主であるAさんが実際に取得した助成金です。Aさんは「キャリアアップ助成金」の〔正社員化コース〕、「職場定着支援助成金」、「介護離職防止支援」の3つを申請し、合計1740万円の助成金取得に成功しました。 事業が軌道にのり、雇用の拡大を行うことや、従業員が働きやすい就労環境を作ることで、より良い環境の会社づくりを行うことができます。なぜAさんが高額受給を行うことが出来たのか、また、IT企業が利用できる助成金にはどのようなものがあるのか、この点を詳しく解説していきます。
1.Aさんの状況
IT企業を営むAさんの会社は、前年の業績がよかったため、新しく契約社員やアルバイトを20名ほど雇用しました。半年間は非正規の従業員として20名を雇用し、その後勤務態度や業務の成績をみて、20人のうち15人を正規の従業員として雇用しました。
ですがAさんは、従業員を雇用することによって増加する〔給料の支払い〕、日々の残業や長時間のPC操作の疲労による〔従業員の離職〕、高齢の家族と同居している従業員が多いため〔介護による離職〕などで頭を抱えている状況でした。
問題点の改善を考えたAさんは、実質返済の必要がない助成金を活用することを決めました。
2.キャリアアップ助成金の正社員化コースを活用
キャリアアップ助成金の正社員化コース
厚生労働省が行うキャリアアップ助成金の正社員化コースでは、従業員の雇用形態を「正規雇用労働者」などに転換もしくは直接雇用した場合に、助成を受けることが出来る制度です。
企業が申請できる上限人数は最大で20人までとなり、従業員1人あたりの受給額上限は下記の通りです。
※〔〕→生産性の進展が認められる場合
① 有期雇用労働者 → 正規雇用労働者の場合 |
1人当たり57万円〔72万円〕 (中小企業以外:42万7,500円〔54万円〕) |
② 有期雇用労働者 → 無期雇用労働者の場合 |
1人当たり28万5,000円〔36万円〕 (中小企業以外:21万3,750円〔27万円〕) |
③ 無期雇用労働者 → 正規雇用労働者の場合 |
1人当たり28万5,000円〔36万円〕 (中小企業以外:21万3,750円〔27万円〕) |
また、下記項目に当てはまる場合には、それぞれ加算額が適用されます。
(1)
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①と③に該当: 1人当たり28万5,000円〔36万円〕 |
(2)
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①に該当: 1人当たり95,000円〔12万円〕
②と③に該当: 47,500円〔60,000円〕 |
(3)
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①と③に該当: 1つの事業所当たり95,000円〔12万円〕 (中小企業以外:71,250円〔90,000円〕) |
受給を受けるためには、申請対象の従業員が〈正規雇用労働者などのように雇用することが約束された有期雇用労働者ではないこと〉などの9項目の条件、事業者が〈それぞれの雇用労働者に転換することが、就業規則などの規定に該当すること〉などの16項目の条件を満たしていることが必要となるため、最新の「キャリアアップ助成金」に関するパンフレットを確認し、申請を行いましょう。
厚生労働省:『キャリアアップ助成金のご案内(令和2年7月31日更新)』
【Aさんの場合・・・】
Aさんがこの助成金を申請した当時は、年間で最大15人が対象となる制度でした。また、受給できる金額は対象の従業員ひとりあたり最大50万円で、東京都の場合1人あたり60万円が上乗せで支給され、合計で一人あたり110万円の受給が可能だったのです。
Aさんは、非正規の従業員20人のうち15人を正規の従業員として雇用したので、110万円×15人で1,650万円の助成金を受給することができました。
申請方法
(1)キャリアアップ計画を作成し、認定を受ける
まずは雇用保険適用事業所ごとに、「キャリアアップ管理者」の配置をする必要があります。キャリアアップ管理者は、その企業に雇用されており、有期契約労働者などのキャリアアップに必要な、知識や経験が十分にある方、事業主や役員などがなることが出来ます。
その後、労働組合等の意見を聞き、「キャリアアップ計画」を作成し、管轄の労働局に提出をします。提出したキャリアアップ計画が、労働局長からの認定を受けることが出来れば、次の手続きに移ります。
また提出は、転換や直接雇用を実施する前日までに行うことを覚えておきましょう。
(2)転換制度を規定
就業規則・労働協約・これらに相当するその他に転換制度を規定します。キャリアアップ計画の提出前に、転換制度を既に規定していた場合、〔試験等の手続き〕〔対象者要件〕〔転換実施時期〕に関する規定を確認したうえで対象となります。
(3)転換制度に規定した試験の実施
就業規則などに規定している転換制度の試験などを行います。
(4)転換もしくは直接雇用の実施
対象となる労働者を正規雇用などへ転換、もしくは直接雇用を行います。この際に、労働者に対して、転換後の雇用契約書および労働条件通知書を交付しましょう。
また転換後の適用となる、就業規則の規定に従って、労働条件や待遇を行うことが必要であり、転換前の賃金6ヶ月分と転換後の賃金6ヶ月分を比較し、5%以上の増加が見られることが必要です。
(5)転換後の賃金6ヶ月分を支給・支給申請
支給申請は、賃金の支給日の翌日から計算し、2か月以内に行いましょう。
(6)審査と支給の決定
融資とは異なり、多くの企業が助成金を活用している、また働き方改革などの推進もあり、審査には6ヶ月を有することもあります。
3.職場定着支援助成金(現在:人材確保等支援助成金)を活用
職場定着支援助成金(人材確保確保等支援助成金)
キャリアアップ同様に厚生労働省が行うこの制度は、雇用管理の改善に努め、雇用管理制度の導入、従業員が離職してしまう環境から、職場へ定着する環境つくりを行った場合に助成を受けることが出来る制度です。平成30年4月以降、職場定着支援助成金は、「人材確保等支援助成金」と統合され下記の11コースに分類されるようになりました。
- 雇用管理制度助成コース
- 介護福祉機器助成コース
- 介護・保育労働者雇用管理制度助成コース
- 中小企業団体助成コース
- 人事評価改善等助成コース
- 設備改善等支援コース
- 働き方改革支援コース
- 外国人労働者就労環境整備助成コース
〔建設分野として下記の3コース〕
- 雇用管理制度助成コース
- 若年者及び女性に魅力のある環境づくり事業コース
- 作業員宿舎等設置助成コース
Aさんが活用したのは、この11コースの中でも、新しく雇用管理制度の導入を行い、従業員の離職率の低下が見られた場合に助成を受けることができる〔雇用管理制度助成コース〕にあたります。
助成金額は、制度が定める目標に達成した場合に、一律で57万円〔生産要件を満たす場合、72万円〕が受給されます。制度が定める目標というのが、下記の通りです。
① 下記5つの制度の導入を行い、導入内容となる「雇用管理制度整備計画」の作成を行い、管轄労働局の認定を受ける (1)評価・処遇制度 (2)研修制度 (3)健康づくり制度 (4)メンター制度 (5)短時間正社員制度(保育事業主のみ)
② 認定を受けた雇用管理制度の導入および実施を、「雇用管理制度整備計画」の期間内に行うこと
③ ①と②の結果、期間終了から1年経過後までの離職率を、「雇用管理制度整備計画」の提出以前の1年間と比べて、下記数値まで低下していること
|
受給を受けるためには、「雇用保険の適用事業の事業主である」などの12項目の条件を満たすことが必要となるため、下記パンフレットをご確認の上、申請を行いましょう。
厚生労働省:『雇用管理制度助成コースはこちら』
【Aさんの場合・・・】
日々の残業による疲労や、PCの長時間操作による疲労などから離職率が高いと言われるIT業界ですが、Aさんも会社の業績があがる反面、離職率が高いことに悩んでいました。そのため従業員がより働きやすい職場環境になるよう整え、離職率を下げるために雇用管理制度の導入を行いました。
Aさんがこの助成金を申請した当時は、雇用管理制度の5つの制度のうち、1つの制度を導入するごとに10万円を受給することができる制度でした。Aさんは「評価・処遇制度」「メンター制度」「研修制度」を導入し、助成金を申請、結果30万円を受給することができました。
申請方法
(1)雇用管理制度整備計画の作成と提出
定められた提出期間内(計画を開始した日から計算し、6カ月前から1か月前の日の前日まで)に、管轄の都道府県労働局へ提出を行います。郵送の場合は、計画や申請書類が、決められた期限までに到達している必要があるため確認しておきましょう。
(2)雇用管理制度の導入
提出を行い、労働局からの認定を受けた雇用管理制度整備計画に基づいた、雇用管理制度を導入します。この際に、労働協約もしくは就業規則に規定されていることが必要です。
(3)雇用管理制度の実施
(2)で導入した制度を計画通りに実施します。
(4)助成の支給申請
制度で定められた目標を達成していることを確認し、申請を行いましょう。雇用管理制度整備計画の期間終了後12ヶ月の算定期間を経て、2ヶ月以内に申請を行う必要があります。
申請は(1)と同様の都道府県労働局へ行いますが、地域によってはハローワークへの提出が可能となる場合もあるため、管轄している労働局へ問い合わせてみると良いでしょう。
(5)助成金の支給決定
この制度の金額にあたる57万円(生産要件を満たす場合、72万円)が支給されます。
4.介護離職防止支援助成金(現在:両立支援等助成金)を活用
介護離職防止支援助成金(両立支援等助成金)
厚生労働省が行うこの制度は、家庭内の介護が原因となって離職してしまう労働者の、職業と家庭の両立を支援することを目的とし、企業が介護休業や職場復帰など、環境整備に取り組んだ際に助成を受けることができる制度です。
平成29年度以降、介護離職防止支援助成金は「両立支援等助成金」として統合され、下記の6コースに分類されるようになりました。
- 出生時両立支援コース
- 介護離職防止支援コース
- 育児休業等支援コース
- 再雇用者評価処遇コース
- 女性活躍加速化コース
- 事業所内保育施設コース
Aさんが活用したのは、この6コースの中でも、介護休業を取得しやすくなるような取り組み、職場復帰後の労働者に対する取り組みなどを行い、実際に取得者や利用者がいた場合に助成を受けることができる〔介護離職防止支援コース〕にあたります。
介護離職防止支援コースは、介護支援プランに基づいて介護休業を取得もしくは職場復帰した場合の〔介護休業〕、介護支援プランに基づいて仕事と介護の両立に役立つ制度を利用した場合の〔介護両立支援制度〕、新型コロナウイルス感染症への対応として家族の介護のために有給休暇を取得した場合の〔新型コロナウイルス感染症対応特例〕の3つの種類に分けられます。助成金額はそれぞれ、下記の通りです。
〔介護休業〕
※1事業主につき、1年度それぞれ5人までが対象
〔介護両立支援制度〕
※1事業主につき、1年度5人までが対象
〔新型コロナウイルス感染症対応特例〕
※半日や時間単位取得の場合は、3時間以上取得した日について取得時間数を含めることも可能 ※1事業主につき、合わせて5人までが対象 |
受給を受けるためには、介護休業の定義、介護支援プラン、などを満たす必要があるため、下記にウェブサイトにてご確認ください。
厚生労働省:『仕事と家庭の両立支援に取り組む事業主等のみなさまへ』
【Aさんの場合・・・】
Aさんの職場では、従業員の中に高齢の家族と同居している方が多かったため、介護による離職を防ぐために介護離職防止支援助成金を活用しました。
仕事と介護が両立できる就労環境を整え、実際に介護休業などの制度を利用する従業員がいたため、介護離職防止支援助成金を申請し、Aさんが申請した当時の受給額で、60万円の受給に成功しました。
申請方法
(1)申請書の提出
申請したい助成金の必要書類を厚生労働省のHPからダウンロードし、事業所の管轄である労働局へ期限内に提出しましょう。
〔介護休業〕
〔介護両立支援制度〕
〔新型コロナウイルス感染症対応特例〕
※令和2年6月15日以前に有給休暇の取得をしている対象者については、いずれにおいても令和2年8月15日が申請期限となる
『厚生労働省HP:両立支援等助成金の申請書』 |
(2)申請書の受付
郵送にて提出を行う場合には、配達記録が残る状態で提出を行いましょう。
また、消印の日付が申請の期間内であっても、労働局へ到着した日付が申請期限を過ぎていた場合、申請されたと認められなくなってしまうため、余裕をもって提出を行いましょう。
(3)支給の決定
支給・不支給に関わらず、労働局から通知が送られてきます。
支給が決定となった場合には〔両立支援等助成金支給決定通知書〕、不支給が決定となった場合には〔両立支援等助成金不支給決定通知書〕、また、不正受給が発覚した場合には不支給措置期間として〔両立支援等助成金不支給措置期間通知書〕という名で届きます。
5.IT企業で活用できる助成金
Aさんは3つの助成金を活用し、合計1740万円の受給に成功しました。助成金は、申請数が限られていることや、返済不要の資金であることから支給要件が細かく設定されていますが、活用できるものを見つけて活用することで、企業の将来を助けてくれるものとなります。
IT企業を営む事業主の方が活用できる助成金には、他にも下記の種類の制度が存在するため、資金調達にお悩みの事業主の方は、是非ご参考ください。
特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)
高齢者・障害者・母子家庭の母などの就職困難者を、ハローワークからの紹介しよって断続的に雇用する場合に受給ができる制度です。
雇用対象者の状況により、受給額は異なりますが、30~240万円の受給があります。
厚生労働省:『特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)のご案内』
トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)
通常雇用を前提に、経験不足、就職困難、などの理由で職を求める者の3か月間の試行雇用を行った事業者が受給できる制度です。
受給額は対象者1人につき、最大で4万円(月額・最長3ヶ月)となります。
厚生労働省:『トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)のご案内』
働き方改革推進支援助成金(勤務間インターバル導入コース)
この制度は2019年4月から、働き方改革の一部法案施行に伴い、努力義務化がされた制度です。勤務終了後から次の勤務まで、「休息時間」として一定時間を空けることで、労働者の生活や睡眠を確保、また健康保持や過重労働の防止を行うことで受給ができる制度です。
受給額は休息時間数によって異なりますが、40~100万円の受給があります。
また、賃金引上げを成果目標として制度に加えた場合には、引き上げ人数に応じて、5~80万円の加算額があります。
厚生労働省:『働き方改革推進支援助成金(勤務間インターバル導入コース)のご案内』
まとめ
今回はIT企業を営むAさんが実際に受給した助成金についてと、IT企業の方が利用できる助成金についてご紹介しました。Aさんが申請したころに比べて、制度内容が異なるものも存在しますが、働き方改革の推進などにより、新しい制度も導入されています。
支給を受けるためには、働く環境の整備や導入、労働者のことを考えたより良い就業環境を考えることが求められます。
また助成金はIT企業に関わらず、様々な分野の企業でも活用できる多様な種類が存在するため、会社の資金調達の一部として、助成金を考えることも一つの方法です。
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