助成金の中小企業の定義は、中小企業庁が定める”中小企業の基準”とは異なる
既に事業活動を行う事業主や企業、今後事業を行おうとしている事業主や企業の支援をしているのが中小企業庁です。中小企業庁でも、資本金や出資額、常に雇用する従業員数などによって、中小企業として区分される定義を公開しています。
しかし、中小企業庁が公開している中小企業の定義は、あくまで原則であり、助成金の支給要件に当てはまる中小企業とは、異なる場合があります。
今回は、助成金の支給要件である中小企業について、どのような規模でどのような企業が中小企業に当てはまるのか、大企業はなぜ対象外なのか、また雇用や発展などの目的に応じて受給できる助成金制度についても解説していきます。
1.助成金を受給できる事業主要件
厚生労働省が行う助成金は、〔雇用関係〕が対象となる助成金、〔労働条件関係〕などが対象となる助成金の2種類に大きく分けられます。中小企業の定義の前に、受給対象となる事業主を確認しておきましょう。
〔雇用関係助成金〕の対象事業主
■ 雇用保険適用事業所となる事業主である 労働者を1人でも雇っている事業所は、雇用保険の適用事業となり、労働者の雇用を1人でも行った場合は、必ず加入する必要があります。 ■ 支給のために必要な審査に協力する
上記のような各審査に協力することが条件にあります。 ■ 各制度で定められた申請期間内に申請を行う それぞれの助成金制度には、申請期間が設けられているため、期間内にきちんと申請することも、条件の1つとなっています。 |
〔労働条件等関係助成金〕の対象事業主
■ 中小企業主である 前提として、中小企業主であることが条件にあり、中小企業主の定義については、後程解説していきます。 ■ 各制度で定められた申請期間内に申請を行う それぞれの助成金制度には、申請期間が設けられているため、期間内にきちんと申請することも条件の一つとなっています。 ※ 対象となる事業主の人数は、国が決める予算額によって決められるため、申請期間であっても受付が締め切られる可能性があります。 |
〔雇用関係助成金〕については ”受給できない事業主” についての記載もあるため、合わせて確認しておきましょう。
〔雇用関係助成金〕にて受給できない事業主
※下記①~⑨のうち、1つでも当てはまる項目がある場合は、受給不可 ① 平成31年4月1日以降に、雇用関係に関する助成金の申請を行ったが、不正受給によって不支給決定、もしくは支給決定となったが支給の取り消しを言い渡されたことがあり、その日(不支給決定日もしくは支給決定取り消し日)から、5年が経過していない。(平成31年3月31日以前のものは3年の経過が必要) また、年数の経過を満たしているが、不正受給による請求金が未納の場合も、申請が不可。(時効となっている場合は対象外) ② 平成31年4月1日以降に申請を行った雇用関係に関する助成金において、申請する事業主の役員等に、他で役員等として不正受給に関わったことがある役員がいる ③ 支給申請日となる年度の前年度より前の保険年度で、労働保険料が未納である ④ 支給申請日の1日前の日から1年前の期間で、労働関係法令にて違反を行った ⑤ 性風俗関連の営業、接待を行う飲食等関連の営業、これら一部の営業を行っている ⑥ 事業主本人もしくは役員等に、暴力団と関りをもつ者がいる ⑦ 事業主本人もしくは役員等に、破壊活動防止法第4条にて定められた暴力主義的破壊活動を行う危険性がある、もしくは行った団体に所属している者がいる ⑧ 支給申請を行う日、支給が決定した日の時点で会社が倒産している ⑨ 不正受給発覚時の、事業主名や役員氏名の公表等に承諾していない |
2.助成金が定める中小企業の範囲
次に〔雇用関係〕〔労働条件等関係〕、それぞれ2つの助成金で定められている中小企業の範囲です。資本金額や出資総額、もしくは常に雇用している労働者の人数のどちらか一方に該当していることで中小企業に当てはまります。
※制度によっては、業種や出資金額の決まりが無く、常に雇用している労働者の人数のみで中小企業に当てはまる場合もあります。
〔雇用関係助成金〕で定められている中小企業の範囲
【基本】
|
資本金額や出資総額 |
常に雇用する労働者に人数 |
飲食店含む小売業 |
5000万円以下 |
50人以下 |
サービス業 |
5000万円以下 |
100人以下 |
卸売業 |
1億円以下 |
100人以下 |
その他の業種 |
3億円以下 |
300人以下 |
【人材確保等支援助成金(中小企業団体助成コース)】
本助成金を申請する場合は、【基本】の表に加え、下記のいずれかに該当する企業は中小企業者に当てはまります。
|
資本金額や出資総額 |
常に雇用する労働者の人数 |
ゴム製品製造業 |
3億円以下 |
900人以下 |
ソフトウェア業 もしくは 情報処理サービス業 |
3億円以下 |
300人以下 |
旅館業 |
5000万円以下 |
200人以下 |
【特定求職者雇用開発助成金(障害者初回雇用コース)、両立支援等助成金(女性活躍加速化コース)】
本助成金を申請する場合は、業種や出資金額等に関係なく、常に雇用する労働者数が300人以下であれば、申請可能となります。
〔労働条件等助成金〕で定められている中小企業の範囲
〔雇用関係助成金〕で定められている【基本】の中小企業の範囲と同等の範囲が、〔労働条件等助成金〕でも中小企業の定義として定められています。
|
資本金額や出資総額 |
常に雇用する労働者の人数 |
飲食店含む小売業 |
5000万円以下 |
50人以下 |
サービス業 |
5000万円以下 |
100人以下 |
卸売業 |
1億円以下 |
100人以下 |
その他の業種 |
3億円以下 |
300人以下 |
”常に雇用している労働者の人数” の定義について
表中に出てくる、”常に雇用している労働者の人数” については、厚生労働省のHPにも記載があり、下記①~③の中の1つに当てはまることで、人数に含まれることになります。
【”常に雇用している労働者の人数” に含まれる労働者条件】
① 期間の決まりがなく雇用されている労働者である ② 2か月以上の期間が決まっていて、雇用されている労働者である ③ 1か月以内という期間が決まっていて雇用されている、もしくは日々雇用されている労働者で、該当する年の前の年の11月~12月の各月に、それぞれ18日以上の雇用をされた労働者である |
雇用形態には、正社員、パート、アルバイトなどの様々な形があるため、どのような雇用形態の労働者を人数に含めるべきか、悩む方も少なくありませんが、上記のように厚生労働省が決めた定義に当てはまる労働者であれば、”常に雇用している労働者の人数” に含めて良いことになります。
その反面、パート、アルバイトという雇用形態で、臨時的に雇用を受けた場合は、”常に雇用している労働者の人数”に含まれませんので、注意しましょう。
3.大企業が助成金の対象外となる理由
助成金の支給対象は、”資本金額や出資金額” ”常に雇用している労働者の人数” のいずれかに当てはまる〈中小企業〉となっています。
そのため、大企業は助成金の対象ではないということが分かります。実際に大企業の定義が存在するわけではなく、国は基本的な中小企業の定義を定め、その定義に該当しない企業を大企業として分類しているのです。
厚生労働省が助成金制度を行う目的としては、制度ごとの細かい目的は異なるにしても、労働者のことを考えた職業の安定や、資金力の無い企業でも将来の発展を見据えて新たな技術を生み出すことへの資金援助などです。
たとえば、世の中の経済状況が日々変わる中で、売上が傾き、労働者への休業手当も払えない状況に陥った時に、労働者へ離職を言い渡さなければならない企業も多く存在します。このような企業を少しでも減らし、労働者を守るための制度として雇用に関する助成金などが存在しています。
そんななか、厚生労働省は ”大手企業は、自社でまかなえるほどの資金余力がある” という見解をし、このことから大企業が助成金の対象外となっているのです。
4.大企業のグループ会社は助成金の対象となる?
大企業に比べて従業員の人数も資本金の額も少なく、助成金の定める中小企業の範囲にも当てはまる会社だが、親会社が大企業である場合があります。このような会社を、大企業のグループ会社、子会社、みなし大企業といいます。
助成金の定める中小企業の範囲には属しているものの、大企業が関与することができるため、助成金の種類によっては、”グループ会社は除く” のように記載されていることもあります。
しかし、全ての助成金で、グループ会社が対象外となるわけではなく、申請が可能な助成金も存在します。申請の際には、募集要件をよく確認したうえで申請を行いましょう。
【グループ会社でも申請可能な助成金の種類】
・労働者のことを考えた雇用の促進を目的とした助成金 ・男性の育児休暇、テレワークの環境整備などの職場環境改善を支援する目的の助成金 ・環境の保護や文化財を守るなどの公共性を目的とした助成金 etc・・・ |
5.目的別の助成金制度
助成金は大きく、雇用に関係するものと、労働条件に関係するものの2種類が存在し、それぞれの助成金でどのような制度があるのかを見ていきましょう。厚生労働省HPには、各制度の詳細がパンフレットにも記載されているため、気になる制度は下記パンフレットにて確認してみましょう。
『 雇用・労働分野の助成金のご案内 』
〔雇用関係助成金〕
助成金の目的 |
該当する助成金分野 |
経営が悪化している状況下でも、労働者の雇用を維持することが目的 |
雇用維持関係の助成金 |
離職する労働者の再就職を支援することが目的 |
再就職支援関係の助成金 |
期間の決まりがない雇用や起業などにより転職者を支援することが目的 |
転職・再就職拡大支援関係の助成金 |
新しく労働者を雇用することが目的 |
雇入れ関係の助成金 |
労働者の職場環境を改善することが目的 |
雇用環境整備等関係の助成金 |
家庭と仕事の両立を支援することが目的 |
両立支援等関係の助成金 |
労働者のスキルアップや能力の向上が目的 |
人材開発関係の助成金 |
〔労働条件等関係助成金〕
助成金の目的 |
該当する助成金分野 |
生産性の向上などを通じた最低賃金引上げの支援が目的 |
業務改善助成金 |
労働時間などの改善を支援することが目的 |
働き方改革推進支援助成金 |
労働者の健康を考え受動喫煙防止対策の支援が目的 |
受動喫煙防止対策助成金 |
産業保健活動の支援が目的 |
産業保健関係助成金 |
退職金制度の確立などの支援が目的 |
中小企業退職金共済制度に係る新規加入等掛金助成 |
まとめ
助成金で定められている中小企業の範囲は、中小企業庁が定める基準とは異なり、資本金や出資金額、もしくは常に雇用している労働者の人数のどちらかが当てはまることで、中小企業として申請が可能となることが分かりました。
また大企業が助成金の対象にならない理由について、自社でまかなえるほどの資金余力があるため、とされています。中小企業に比べて申請可能な助成金は少ないものの、大企業やグループ会社でも申請できる助成金制度もあるため、利用の際には募集要項を確認したうえで申請を行いましょう。
資金調達マニュアルについてもっと見る(一覧ページへ)>平成24年8月以降 副業で税理士事務所勤務や広告代理事業、保険代理事業、融資支援事業を経験。
平成27年12月、株式会社SoLabo(ソラボ)を設立し、代表取締役に就任。
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