資本金は ”起業時” だけでなく ”起業後” にも関係する大切なもの
会社の規模を見る場合、資本金を基準に考える方は多く、資本金が多ければ多いほど大企業、という見解をする方は少なくありません。また、起業後に銀行からの融資などを行う場合、会社の信用性を見るためにも、融資担当者が資本金額を見ることもあります。
資本金は起業時だけでなく起業後にも関係してくるお金です。
今回はこの資本金に、融資などでの借入金を計上することはできるのか、また、資本金として計上できる費用には何が分類されるのか、資本金の調達方法など、詳しく解説していきます。
1.資本金として計上できる資金分類について
借入金を資本金として計上することはできない
起業に必要な運転資金や設備資金を、自己資金だけではなく、融資などの資金調達で確保する方も多くいますが、公的機関が行う融資やカードローンなどの資金は借入金となり、借入金を使用し、起業を行った場合 『借入金を資本金として計上することはできるのか』 という疑問を持つ方も少なくありません。
しかし、資本金は〔会社の財産〕とも言い換えることができ、借入金は会社の財産ではなく〔返済の必要があるお金〕となります。
このことから、借入金を資本金として計上することは不可能となります。
融資やカードローンの他にも、親や親族、知人等からの借入は、返済の必要があるため資本金に計上することができません。資本金として計上できない借入金は、会計上では〔借入金〕として計上することになります。
また、借入金を資本金として計上することは違法行為とみなされ、詐欺を行ったという見解をされる可能性もあるため、注意しましょう。
資本金に計上できる資金について
資本金として計上できる資金は、主に下記の4種類があります。
① 自己資金 自己資金は自身が貯金をして貯めてきた資金です。そのため、起業を計画的に考え、コツコツ貯金をしていくことで自己資金を大きくすることができ、資本金にも計上することができます。 |
② DESでの振替金 借入金は資本金に計上することができない、とご説明しましたが、役員からの借入金を株式化、その後資本金として振替えることは、資本金として計上することができます。 借入金を株式化し、資本金として計上する方法が〔DES(デット・エクイティ・スワップ)〕と言われるものです。 |
③ 出資金 投資家からの出資金は資本金に計上することが可能です。 ただしこの場合は、株式を発行して投資家に証券として渡すことや、起業後の売上を何割か渡すなどの契約があることが多いため、起業後のことも考え明確にしたうえで行う必要があります。 |
④ クラウドファンディングでの支援金 自身の起業への想い等を、サイトを通じて発信し、その想いに共感してくれたユーザーから支援金という形で支援を募る方法です。 クラウドファンディングで集まった支援金も資本金に計上することができますが、目標とする金額が集まらなければ、1度集まった金額も0円になってしまうため、どのように想いを発信していくのかを考えなければなりません。 |
資本金は基本的に、返済の必要がない資金でなければなりません。また、上記で挙げた資本金に計上できる4種類の資金でも、各注意点が存在します。
次に、4種類の資金の調達方法や注意点を解説していきます。
2.資本金として計上できる資金の調達方法や注意点
① 自己資金
自己資金は自身の貯めてきた資金であるため、毎月の貯金額を決めて貯めていきましょう。ただ貯めるだけではなく、年数ごとに目標を決めて貯めていく方が計画的であり、自身の貯金への意識も高まりやすくなります。
自己資金では足りず、融資を受ける際にも、自己資金額をどのくらい準備できるかによって、受けられる融資金額も変わってきます。日本政策金融公庫の融資では、希望する融資額の10分の1の自己資金が必要となるため、自己資金を多く持っていることで余裕をもって起業することができます。
② DESでの振替金
上記で簡単にご説明しましたが、〔DES(デット・エクイティ・スワップ)〕とは、借入金を株式化し、資本金として計上する方法で、〈負債〉の意味を持つ〔Debt(デット)〕、〈資本〉の意味を持つ〔Equity(エクイティ)〕、〈交換〉の意味を持つ〔Swap(スワップ)〕からくる単語の、頭文字を取って組み合わせた単語です。
この〔DES〕による調達方法は、下記のように手順を踏んで行います。
(1)DESの内容を決定 内容について、下記項目は漏れがないように記載しましょう。
(2)実際にDESを行う役員に提示・承諾 (1)の内容について提示し、出資を行う役員が承諾をします。
(3)株式割り当ての決定・通知 承諾を受けた後に、株式の割り当てを決定し、通知を行います。
(4)登記申請 ここまでの手続きを書面にまとめ、登記申請を行います。登記が完了する期間の目安は7日~10日と思っておきましょう。 |
DESでの振替金を資本金に計上することを考えている場合は、専門家へ相談することも1つの方法です。
【※注意点】
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③ 出資金
出資金は将来的な会社の成長や成功に期待して投資家から出資を受けた資金のことです。投資家からの出資を受けた経営者は、会社に利益が出たときには配当金を受け取る権利や経営に関与できる権利を、出資者へ与えることになります。
出資金の調達方法は、まず投資家と出会うことが必要となり、ここではどのように投資家を見つける方法の一例をご紹介します。
【1】 ピッチイベントへ参加 起業を考えている方や、起業して間もない会社を対象に行われているのが、ピッチコンテストやプレゼンテーション大会です。ここでは自身の思い描くビジネスプランや、起業への想いを発表し、審査員へアピールをします。 審査員や観客の中には投資家も多く、受賞を逃してしまった場合でも、多くの投資家へ自身の存在をアピールすることができるため、共感を受けた投資家から声をかけられる可能性や直接アプローチできる機会にもなります。 コンテストにて受賞した場合には、起業支援や投資家とのマッチングなどを受けることができるます。
【2】 交流会やセミナーへ参加 各自治体や企業支援団体が主催している交流会やセミナーには、企業役員はじめ投資家も多く参加することがあります。起業家に向けた交流会やセミナーであれば、投資家との出会いの確率も高くなります。 また、起業を目指す者同士で繋がることもでき、情報交換の場としても利用することが可能で、交流会で投資家との出会いが無かったものの、投資家が集まる場所、などの情報を得ることができれば、出資に向けて前進することができます。
【3】 SNSを通じて連絡 2020年から流行しているコロナウイルス感染症を受けて、大会や交流会などが制限されるなか、オンラインで投資家と出会うことができるSNSの利用も増えてきています。SNSを通じて自身の起業プランの発信や、投資家へDMやメールを送ってアプロ―チをする方法です。 この方法は直接会ってアプローチすることができない上に、起業前の段階でアプローチをすることになるため、難易度は高くなります。その分細かく起業プランを発信することや、起業への想いを簡潔に分かりやすく伝える事が重要となります。 迷惑と感じて受け付けない投資家もいますが、積極的に行動するという部分を見て、相談に乗ってもらえることもあるため、まずは行動するということを踏まえて、連絡をしてみることも一つの方法です。
【4】 マッチングサイトを利用 投資家を探すことが難しい起業家と、信頼できる起業家を見つけたい投資家、この両者を繋げるためのマッチングサイトが存在します。サイトによってマッチングの仕方には色々あり、個人指名をするサイトもあれば、特に指名をせず多くの投資家に向けて発信するサイトもあります。 サイトを利用する際には、月額10,000円などの利用料がかかりますが、投資家を探したい起業家にとっては自身の起業プランに共感してくれる投資家を探すことができ、利用する側もサイトという安全性がある安心感もあるため、直接出会う機会が少ない起業家にとってはメリットのある方法です。 |
出資金額やその後の運営などについては、投資家との話し合いの末に決定していくことになります。
【※注意点】
~〔議決権〕について~ 議決権とは「株主総会に出席し、会社の経営方針や重要事項などの決議に票を入れることができる権利」のことを指します。 株主総会では、会社の運営や役員の人事、配当に関する事項など重要な事案を決定します。その決議事項に対して、議決権を持っている人が賛成と反対の票を入れることができるのです。 ただし、票の数は選挙のように1人1票入れられるのではなく、100株で1票など株式の保有数に応じて投票できる票の数が与えられます。つまり、多く株式を所有している人が多く投票することができ、会社の経営に口を出せる権利を持っているということになるのです。 自分が代表取締役だったとしても議決権がないのであれば、そこの会社の経営を実質的に支配しているのは多くの株式を所有している出資者になるため、可能であれば2/3以上の議決権を保有しておくことが望ましいです。 最低でも、1/2超の議決権は持っておくと良いでしょう。その理由として、1/2以下の議決権だと、代表取締役を解任させられるリスクが発生するため、このようなリスクを防ぐためにも1/2超の議決権が必要になります。 もしも、出資金が用意できず1/2超の議決権を保有することが困難であれば、資本金は自己資金だけで設定し、借入金で会社運営していくことを視野に入れておきましょう。 |
④ クラウドファンディングでの支援金
インターネットの普及と同時に2001年にアメリカで初めて開始され、その後多くの国でも取り入れられ広まったのがクラウドファンディングです。日本では2011年から始まり、年々クラウドファンディングサイトが増加していきました。
支援者からの支援金を受け取る代わりに、目標金額まで達成し、プロジェクトが成功した際には支援者に対して、お礼を送ることになります。
クラウドファンディングを利用した支援金の調達方法は、下記の手順で行います。
(1)発信するプロジェクトの目標を設定 目標とする支援金額はいくらなのか、支援金をどのように使用するのか、いつまでに目標金額を集めプロジェクト成功を目指すのか、プロジェクトを行う目的は何かを明確にしましょう。 発信前に目標を明確にしておくことで、実際に投稿する際にもプロジェクト内容を分かりやすくまとめることができ、プロジェクト見ている側にも何をしたいのかが伝わりやすくなります。
(2)利用するクラウドファンディングサイトを選択 日本には多くのクラウドファンディングサイトがあり、行うプロジェクト内容に特化したサイトを選ぶことが、成功への第一歩となります。 代表的なクラウドファンディングサイトは下記の通りです。
(3)プロジェクトの投稿 初めに決めた目標を基に、実際にサイトへ投稿をしていきます。 選択したクラウドファンディングサイトによって、どのような内容を投稿するのかは異なりますが、クラウドファンディングを行おうと思ったきっかけや、プロジェクト内容、支援金の使用目的など、基本的なことは必ず投稿することが重要です。 投稿内容をまとめたら、サイトを運営している側の審査があります。サイトの目的とプロジェクト内容が合っているのか、虚偽がないのか、実現不可能なプロジェクトになっていないか、などの審査を受けた後に、プロジェクトの公開となります。 審査が通らなければ公開することもできないため、覚えておきましょう。
(4)支援者へ定期的に活動報告 支援金を集めるために必要なことの1つとして、定期的な活動報告です。 プロジェクトを公開して終わり、というのではなく、定期的にどのような活動を行っているのかを支援者に対して発信し、常に成功に向けて動いていることをアピールしましょう。支援した側は、ちゃんと動いているプロジェクトなのかどうか、などの不安を持つこともあるため、投稿ページを常に更新することも大切です。
(5)プロジェクト終了と支援者へのお礼 設定した期間内に目標金額が達成し、プロジェクトが成功した際には、サイトの運営業者へ支払う手数料を引いた金額が登録口座に入金されます。 また、成功した場合にお礼として支援者に対する感謝の気持ちや、支援金と引き換えにお返しとして設定した商品やサービスの郵送もしくは実施を行います。 |
【※注意点】
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3.資本金を多く見せることのメリットとデメリット
ここまで、資本金に計上可能な資金についてご紹介しましたが、資本金を多く見せることが会社にとってメリットになることばかりではありません。
次に、資本金を多く見せることでどのようなメリットやデメリットがあるのかをご紹介いしていきます。
メリット
信頼を得ることができる
事業を行っていくうえで、どの業種でも取引先との関係は少なからずあります。初めての取引をする際に相手先は、”取引できる体力があるのか” ”きちんとお金を支払ってくれるのか” のように不安を抱くことが多く、その判断基準として資本金を見ることは珍しくありません。
資本金は会社の体力や信用を意味するため、高い資本金額に設定することで、倒産リスクがない信用できる会社と判断されやすくなります。
反対に、事業のなかで取引が少ないことや、個人との取引で成り立っている場合は、資本金額が低くても事業に支障をきたしにくいと言えます。
融資を受けやすくなる
事業が軌道に乗り、事業拡大を行うとなった際には、まとまった資金が必要となり、融資を検討することもあります。
融資担当者は融資を行うか行わないかの判断として資本金額を見る傾向にあり、資本金額が少ない会社に対して ”貯金をしてこなかったのではないか” ”起業への考えが甘い” などのような不信感を抱き、融資を受けられないこともあります。
また審査に通ったとしても、資本金額の2倍の額しか借りられない状況になることも少なくありません。
起業時だけでなく、会社の将来を見込んで高い資本金額に設定することで、事業拡大時でも資金調達に悩むことなく進めることができるでしょう。
デメリット
消費税の免税対象から外れる可能性がある
法律上、会社を設立してから2期目までは、消費税の免税対象とされています。
しかし、消費税の免税対象となるのは資本金1000万円未満の会社です。そのため、1000万円を超える資本金に設定する場合には、消費税納付の義務があるということを覚えておきましょう。
法人住民税が高くなる可能性がある
上記の消費税と同様に、1000万円を超える資本金に設定する場合、法人住民税が高くなるということについても注意が必要です。法人住民税の均等割では、資本金と雇用する従業員の人数によって税額が変動します。
〈東京23区を例に〉
資本金 |
従業員数 → 均等割額 |
1000万円以下 |
50人以下 → 7万円 50人超え → 14万円
|
1000万円超~1億円以下 |
50人以下 → 18万円 50人超え → 20万円 |
表を見ても分かる通り、1000万円を超えるだけで倍以上の税金を納付しなければならないことが分かります。“法人住民税”は資本金額が高ければ高いほど上がる” ということを頭に入れ、会社にとって無理のない資本金額に設定するようにしましょう。
まとめ
返済の必要があるお金は、資本金として計上することができず、借入金を資本金として計上した場合には、違法行為とされ、処罰される可能性もあるため、覚えておきましょう。
資本金に計上できる資金には、自己資金・DESによる振替金・投資家からの出資金・クラウドファンディングでの支援金、が当てはまります。しかし自己資金以外では、注意点も存在するため、計画のある起業を目指し、コツコツと貯金をして資本金に充てることが望ましいです。
また、1000万円を超える資本金に設定することで、税金面でのデメリットも発生してくるため、起業後のことも考え慎重に設定しましょう。
資金調達マニュアルについてもっと見る(一覧ページへ)>平成24年8月以降 副業で税理士事務所勤務や広告代理事業、保険代理事業、融資支援事業を経験。
平成27年12月、株式会社SoLabo(ソラボ)を設立し、代表取締役に就任。
お客様の融資支援実績は、累計6,000件以上(2023年2月末現在)。
自身も株式会社SoLaboで創業6年目までに3億円以上の融資を受けることに成功。
【書籍】
2021年10月発売 『独立開業から事業を軌道に乗せるまで 賢い融資の受け方38の秘訣』(幻冬舎)
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