日本政策金融公庫から融資を受けたいと考えている人の中には、保証人が必要かどうか気になる人もいるかもしれません。日本政策金融公庫の融資制度を見てみると、担保・保証人の欄に「お客さまのご希望を伺いながらご相談させていただきます。」と記載されているため、保証人の要否に関する実態が知りたい人もいるでしょう。
当記事では、保証人なしでも日本政策金融公庫から融資を受けられるのかどうかを解説します。保証人を立てずに融資を受けたいと考えている人は参考にしてみてください。
保証人なしでも融資を受けられる可能性がある
保証人がいなくとも、日本政策金融公庫から融資を受けられる可能性はあります。従来は法人の代表者が連帯保証人となる借入が一般的でしたが、「 経営者保証に関するガイドライン」が策定されたことにより、経営者保証に依存しない融資の仕組みが整備されてきたからです。
経営者保証に関するガイドラインとは、中小企業が過度な個人リスクを負わずに資金調達できるようにするため、2013年に金融庁と中小企業庁が策定した指針です。 「法人と個人の資産の明確な分離」「財務の透明性」などの要件を満たすことにより、経営者保証を求めない融資を後押しする目的があります。
日本政策金融公庫もこの経営者保証に関するガイドラインに沿って、保証人に依存しない融資を推進しています。 そのため、中小企業やスタートアップ企業などの法人の代表者は、個人が連帯保証せずとも日本政策金融公庫から融資を受けられる可能性があります。
なお、経営者保証に関するガイドラインでは、「保証人=法人代表者による連帯保証」を指しています。日本政策金融公庫が親族や知人などの第三者を連帯保証人として徴求するケースは少ないため、日本政策金融公庫から融資を検討している人はその前提を留意しておきましょう。
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日本政策金融公庫の無保証融資に関する実績
日本政策金融公庫が実施した無保証融資に関する実績は以下のとおりです。日本政策金融公庫の公式サイトには、該当年度において新規に無保証で融資した件数や割合が掲載されているため、日本政策金融公庫の無保証融資に取り組んでいる実績が知りたい人は参考にしてみてください。
【日本政策金融公庫の無保証融資に関する実績】
年度 | 法人に対する無保証融資の割合 | 法人+個人企業に対する無保証融資の割合 |
令和4年度 | 42.3% | 69.6% |
令和5年度 | 53.0% | 74.4% |
※日本政策金融公庫「保証人に依存しない融資」をもとに株式会社SoLaboが作成
法人への融資全体に占める無保証融資の割合は約40%~50%です。令和5年度においては、約半数の法人が日本政策金融公庫から代表者の連帯保証なしで融資を受けており、経営者個人のリスクを軽減する動きが広がっていることがうかがえます。
また、法人および個人企業を含めた全体で見ると、無保証融資の割合は約70%に達しています。法人単体と比較して高い割合となっていることから、個人企業においては、「親族」「知人」などの第三者の保証人を求めない融資がすでに主流となっていると考えられます。
日本政策金融公庫では、経営者保証に関するガイドラインにもとづき保証人に依存しない融資に取り組んでいます。日本政策金融公庫から無保証で融資を受けたいと考えている人は、制度要件を確認の上、融資担当者に相談してみてください。
保証人なしでも借りられる主な方法
保証人なしでも借りられる方法は2つ挙げられます。特定の融資制度を利用する方法と、経営者保証を免除する制度を併用する方法に分けられるため、それぞれの方法の内容を確認してみましょう。
【保証人なしでも借りられる主な方法】
項目 | 内容 |
特定の融資制度を利用する方法 | ・小規模事業者経営改善資金を利用する ・生活衛生改善貸付を利用する ・挑戦支援資本強化特別貸付を利用する |
経営者保証免除の制度を併用する方法 | ・上記3つ以外の融資制度の利用+経営者保証免除特例制度を併用する |
日本政策金融公庫から保証人なしで融資を受ける方法として「特定の融資制度を利用する方法」もしくは「経営者保証免除の制度を併用する方法」の2通りが挙げられます。それぞれの融資制度と経営者保証免除特例制度の概要を紹介するので、保証人なしで融資を受けたい人は参考にしてみてください。
なお、災害や社会情勢の影響により特別な貸付を実施する場合も、無保証人での融資が受けられる可能性があります。これらは一時的に実施される融資制度となる関係上、制度内容が変更されることも考えられるため、最新の情報を知りたい人は日本政策金融公庫の公式サイトを確認してみてください。
小規模事業者経営改善資金を利用する
無保証人による融資が受けられる方法のひとつは、小規模事業者経営改善資金を利用する方法です。一般的にはマル経融資と呼ばれており、商工会や商工会議所などの推薦が必要となる融資制度となっています。
【小規模事業者経営改善資金(マル経融資)の概要】
項目 | 内容 |
推薦要件 | ≪規模要件≫ 主たる事業の業種において、従業員数が下記の範囲内であること ・製造業の場合、20名以下 ・商業・サービス業の場合、5名以下 ・宿泊業・娯楽業の場合、20名以下 ≪指導要件≫ 商工会議所等から原則6ヶ月以上の経営指導を受けること ≪居住要件≫ 管轄地域内で1年以上経営していること ≪納税要件≫ 税金を原則としてすべて完納していること ≪業種要件≫ 商工業者であり、かつ日本公庫(国民生活事業)の非対象業種等でないこと |
融資限度額 | 2,000万円 |
融資利率(年) | 1.80%※2025年6月2日時点 |
担保・保証人 | 無担保・無保証人 |
※日本商工会議所の公式サイトをもとに株式会社SoLaboが作成
小規模事業者経営改善資金は、小規模事業者向けの融資制度です。従業員数が要件の範囲内であれば法人も対象となるため、法人が小規模事業者経営改善資金を利用して日本政策金融公庫から融資を受ける場合、代表者の連帯保証が不要となります。
また、小規模事業者経営改善資金は商工会議所等からの推薦が必要です。推薦を受けるためには原則6ヶ月以上の経営指導を受けなければならないため、急な資金需要や創業時の借入には適さない可能性があります。
商工会議所等からの推薦が必要となる関係上、商工会や商工会議所への入会が必須となります。地域ごとに管轄が異なるため、小規模事業者経営改善資金を利用したい人は管轄地域の商工会議所等へ相談するところから始めてみてください。
生活衛生改善貸付を利用する
無保証人による融資が受けられる方法のひとつは、生活衛生改善貸付を利用する方法です。「飲食店」「美容院」などの生活衛生関係の事業を営む人のうち、生活衛生同業組合等の推薦を受けた人が利用できる融資制度となっています。
【生活衛生改善貸付の概要】
項目 | 内容 |
推薦要件 | ≪規模要件≫ 常時使用する従業員数が5人(旅館業及び興行場営業を営む方は20人)以下の会社または個人 ≪指導要件≫ 生活衛生同業組合または生活衛生営業指導センターから経営指導を受けること ≪業種要件≫ 生活衛生関係の業種であること |
融資限度額 | 2,000万円 |
融資利率(年) | 1.80%※2025年6月2日時点 |
担保・保証人 | 無担保・無保証人 |
※東京都保健医療局の公式サイトを参考に株式会社SoLaboが作成
生活衛生改善貸付は、生活衛生関係の業種を営む小規模事業者向けの融資制度です。「飲食店」「理容室」などの生活衛生関係の業種を営み、従業員数が要件の範囲内であれば法人も対象となるため、法人が生活衛生改善貸付を利用して日本政策金融公庫から融資を受ける場合、代表者の連帯保証が不要となります。
また、生活衛生改善貸付は生活衛生同業組合もしくは生活衛生営業指導センターの推薦が必要です。「飲食業の組合」「サービス業の組合」など、業種ごとに組合が分かれているため、生活衛生貸付を利用したい人は該当する組合の公式サイトから問い合わせることになります。
なお、生活衛生貸付(一般貸付)と生活衛生改善貸付は異なります。生活衛生貸付を利用して500万円以上の設備資金を調達する場合は都道府県知事の推せん書が必要となりますが、生活衛生改善貸付の推せん書とは異なるため留意しておきましょう。
挑戦支援資本強化特別貸付(資本性ローン)を利用する
無保証人による融資が受けられる方法のひとつは、挑戦支援資本強化特別貸付を利用する方法です。資本性ローンとも呼ばれ、スタートアップや新事業展開・海外展開・事業再生等に取り組む法人または個人企業が利用できる融資制度となっています。
【挑戦支援資本強化特別貸付の概要】
項目 | 内容 |
特徴 | ①期限一括返済 最終回の一括払いとなるため、それまでの間は、利息のみの支払となる。 ②業績に応じた金利設定 業績が低調なときは、金利負担が小さい設定となっている。 ③疑似出資 資本性ローンによる借入金は、金融機関の資産査定上、自己資本とみなすことができる。 |
融資限度額 | 7,200万円 |
融資利率(年) | 0.50%~3.95% ※業績や借入期間に応じて異なる |
担保・保証人 | 無担保・無保証人 |
※日本政策金融公庫の公式サイトをもとに株式会社SoLaboが作成
挑戦支援資本強化特別貸付は、企業の新たな挑戦を支援する目的で設けられた融資制度です。革新的な事業にチャレンジする企業に対し、経営者個人のリスクを軽減させる意図のもと無担保・無保証人での借入が可能な融資制度となっています。
挑戦支援資本強化特別貸付は、返済条件が通常の融資とは異なります。「期限一括返済」「業績に応じた金利設定」など、革新的な事業にチャレンジする企業の資金繰りや資金調達の負担を軽減させる意図のもと、返済条件が変則的になっています。
ただし、挑戦支援資本強化特別貸付を利用できる企業は限られており、誰でも利用できるわけではありません。企業の新たな挑戦を支援する背景がある以上、一定の審査基準を満たす必要があるため、挑戦支援資本強化特別貸付を希望する場合は、日本政策金融公庫の窓口に相談し、評価基準や対象要件などを確認することも検討してみてください。
経営者保証免除特例制度と併用する
無保証人による融資が受けられる方法のひとつは、経営者保証免除特例制度と併用する方法です。経営者保証免除特例制度の対象者であれば、融資条件に無保証が含まれていない融資制度においても、法人代表者の連帯保証なしで融資を受けられる可能性があります。
【経営者保証免除特例制度の対象者】
要件 | 詳細内容 |
1.経営が安定している | 税務申告を2期以上実施し、以下の3要件を満たす法人 ①法人と代表者の一体性が解消されている(貸付金等がない) ②公庫との取引に問題がない(延滞なし) ③「直近2期の減価償却前経常利益が連続して赤字でない」もしくは「直近の決算において債務超過でない」 |
2.物的担保を提供している | 以下の2要件を満たす法人 ①物的担保を提供している ②法人と代表者の一体性が解消されている(貸付金等がない) |
3.新規性が見られる | 以下の4要件を満たす法人 ①創業後おおむね5年以内 ②技術・ノウハウなどに新規性がある ③法人と代表者の一体性が解消されている(貸付金等がない) ④公庫との取引に問題がない(延滞なし) |
4.取引金融機関の協力がある | 以下のどちらかの要件を満たす法人 ・取引金融機関において代表者保証の免除に関する協調対応が見込める ・取引金融機関から代表者保証を免除された借入の残高がある |
5.事業承継に取り組む | 「事業承継・集約・活性化支援資金」または「生活衛生事業承継・集約・活性化支援資金」を利用する法人 |
6.新たに開業する | 創業前もしくは創業後税務申告を2期終えていない法人 |
7.ソーシャルビジネスに取り組む | 「ソーシャルビジネス支援資金」を利用するNPO法人 |
経営者保証免除特例制度の対象項目は7つに分類されます。いずれか1項目の要件に該当していれば、他の融資制度と併用して代表者の連帯保証不要で借入できるため、経営者の保証免除を希望する人は該当する項目があるかどうかを確認してください。
経営者保証免除特例制度は、日本政策金融公庫のおおよその融資制度と併用できます。公式サイトでは、「一般貸付」「セーフティネット貸付」などの個別の融資制度ごとに経営者保証免除特例制度の併用可否が記載されているため、経営者の保証免除を希望する人は制度の併用可否を確認してください。
なお、審査の結果次第では経営者保証免除特例制度を利用できない可能性があります。「経営状況等から借入返済が見込まれるかどうか」も適用可否を決める判断基準となるため、経営者の保証免除を希望する人は返済計画を担当者に説明することも検討してみてください。
経営者保証免除特例制度を併用する場合は金利の上乗せがある
経営者保証免除特例制度を併用する場合は、金利の上乗せがあります。経営者保証を免除することにより、併用する前の融資制度で定められている金利に上乗せした利率が適用されるため、経営者保証免除特例制度を検討している人は確認しておきましょう。
【経営者保証免除特例制度による上乗せ利率】
項目 | 上乗せ利率 |
「1.経営が安定している」に該当する人 | 0.3% (前1(3)のいずれの要件も満たす場合は0.2%) |
「2.物的担保を提供している」に該当する人 | 0.2% (十分な物的担保の提供がある場合は上乗せなし) |
「3.新規性が見られる」または「7.ソーシャルビジネスをおこなう」に該当する人 | 0.1% |
「4.取引金融機関の協力がある」または「6.新たに開業する」に該当する人 | 0.2% |
「5.事業承継に取り組む」に該当する人 | 上乗せなし |
たとえば、基準利率が適用される融資制度を利用する場合、「経営が安定している」項目要件を満たすことより経営者保証免除特例制度を併用すると、基準利率に0.2%もしくは0.3%上乗せされることになります。
また、特別利率Aが適用される融資制度を利用する場合、「新規性が見られる」項目要件を満たすことにより経営者保証免除特例制度を併用すると、特別利率Aに0.1%上乗せされることになります。
なお、「事業承継に取り組む」項目要件の場合は、金利の上乗せがありません。「事業承継・集約・活性化支援資金」または「生活衛生事業承継・集約・活性化支援資金」を利用する法人の場合は、金利の上乗せがなく経営者の保証を外せるため、該当する人は積極的に活用してみましょう。
金利の負担額が知りたい人は返済シミュレーションを活用する
経営者保証免除特例制度による金利の負担額を知りたい人は返済シミュレーションを活用してみましょう。今回は「一般貸付(金利2.70%)」「融資金額500万円」「返済期間5年間」の条件で借入した場合と、同条件で経営者保証免除特例制度を利用した場合を比較しました。
【日本政策金融公庫の返済シミュレーションの例】
年数 | 金利2.7%の場合 | 金利2.9% (0.2%上乗せされた場合) |
1年目 | 122,628円 | 131,708円 |
2年目 | 95,628円 | 102,709円 |
3年目 | 68,625円 | 73,708円 |
4年目 | 41,624円 | 44,708円 |
5年目 | 14,623円 | 15,708円 |
利息合計額 | 343,128円 | 368,541円 |
上記のシミュレーションによると、金利2.7%と金利2.9%を比較した場合、2.9%のほうが利息を合計25,413円多く支払うことになります。融資条件によって利息合計額は異なりますが、経営者保証の免除に伴う支払いの負担は、今回の条件の場合は約25,000円といえます。
金利の上乗せによる負担額は、借入金額が大きく返済期間が長くなればなるほど重くなります。上乗せ利率が0.2%だとしても、1,000万円を10年で借りた場合は負担額の差が10万円を超えるケースもあるため、経営者保証の免除に伴う支払いの負担は、融資条件によって大きく左右されます。
経営者保証免除特例制度は、法人代表者の個人リスクを軽減できるメリットがある反面、金利の負担が重くなるというデメリットがあります。利用を考えている人は金利の負担額を事前にシミュレーションし、メリットとデメリットを踏まえたうえで検討してみてください。
まとめ
保証人がいなくとも、日本政策金融公庫から融資を受けられる可能性はあります。従来は法人の代表者が連帯保証人となる借入が一般的でしたが、「 経営者保証に関するガイドライン」が策定されたことにより、経営者保証に依存しない融資の仕組みが整備されてきたからです。
保証人なしでも借りられる方法は2つ挙げられます。特定の融資制度を利用する方法と、経営者保証を免除する制度を併用する方法に分けられるため、それぞれの方法の内容を確認してみましょう。
経営者保証免除特例制度を併用する場合は、金利の上乗せがあります。法人代表者の個人リスクを軽減できるメリットがある反面、金利の負担が重くなるというデメリットがあるため、利用を考えている人は金利の負担額を事前にシミュレーションし、メリットとデメリットを踏まえたうえで検討してみてください。
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平成27年12月、株式会社SoLabo(ソラボ)を設立し、代表取締役に就任。
お客様の融資支援実績は、累計6,000件以上(2023年2月末現在)。
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