日本政策金融公庫から融資を受けるときは、団体信用生命保険(団信)への加入希望の有無を確認されます。団信は返済期間中の途中加入ができないため、融資契約時に団信へ申込するかどうかも決めなければなりません。
当記事では、日本政策金融公庫における団体信用生命保険の概要と、加入を検討するためのポイントを解説します。公庫の融資を受けるにあたって、団信への加入を迷っている人は参考にしてみてください。
日本政策金融公庫における団体信用生命保険の概要
日本政策金融公庫の団体信用生命保険は、融資を受ける人の万が一の事態に備えるための保険制度です。日本政策金融公庫からの借入金を返済中、死亡や高度障がいなどの万が一の事態が発生した場合、借入残高を保険金で弁済する制度となっています。
【団体信用生命保険の概要】
項目 | 内容 |
制度の運営者 | 公益財団法人 公庫団信サービス協会 |
保険内容 | 死亡・高度障害になった場合に残高のすべてが弁済される |
掛金(特約料) | 年払いの掛捨て |
加入の可否 | 任意 |
日本政策金融公庫の団体信用生命保険は「公庫団信サービス協会」により運営されている制度です。日本政策金融公庫から融資を受ける人のリスクを保障する目的により設立されており、住宅ローンの団信とは保障内容や保険料などが異なります。
また、団体信用生命保険を利用する場合は掛金が必要です。掛金は年払いの掛捨てとなる関係上、金利とは別にコストがかかるため、団体信用生命保険を利用する場合は「掛金お支払い額シミュレーション」を活用しながらおおよその掛金を把握しておくことになります。
なお、団体信用生命保険への加入は任意です。加入の有無による融資審査への影響はないため、日本政策金融公庫の団体信用生命保険の利用を検討している人はその前提を踏まえつつ、万が一のための保障として団信に入るかどうかを考えてみましょう。
団信に加入すると万が一の場合に返済が免除される
団信に加入すると万が一の場合に返済が免除されます。公庫団信サービス協会が定める所定の事由に該当する場合、生命保険会社から支払われる保険金によって、日本政策金融公庫の借入残高が完済される仕組みとなっています。
【返済が免除となる事由】
項目 | 内容 |
死亡した場合 | 保障開始日以降に被保険者が死亡したとき |
高度障がい状態になった場合 | 保障開始日以降の傷害または疾病により、以下の状態に該当されたとき 1.両眼の視力を全く永久に失ったもの 2.言語またはそしゃくの機能を全く永久に失ったもの 3.中枢神経系または精神に著しい障がいを残し、終身常に介護を要するもの 4.胸腹部臓器に著しい障がいを残し、終身常に介護を要するもの 5.両上肢とも、手関節以上で失ったかまたはその用を全く永久に失ったもの 6.両下肢とも、足関節以上で失ったかまたはその用を全く永久に失ったもの 7.1上肢を手関節以上で失い、かつ、1下肢を足関節以上で失ったかまたはその用を全く永久に失ったもの 8.1上肢の用を全く永久に失い、かつ、1下肢を足関節以上で失ったもの |
返済が免除となる事由のひとつは「被保険者が死亡した場合」です。借主である被保険者が亡くなった場合、保険金によって公庫への債務が弁済されるため、遺族が返済義務を負うことはなく相続時の経済的負担の軽減につながります。
返済が免除となるもうひとつの事由は「被保険者が高度障がい状態になった場合」です。借主である被保険者が傷害や疾病により高度障がい状態と判断される場合は、保険金によって公庫への債務が弁済されるため、家族や関係者の対応負担を一定程度軽くすることができます。
なお、日本政策金融公庫の団体信用生命保険には疾病保障はありません。住宅ローンの団信と異なり、がんや3大疾病などの病気に対する保障プランは用意されていないため、保障内容が不足していると感じる場合は、民間の保険に加入することも検討してみましょう。
団信に入っていない人が死亡した場合は家族に債務が引き継がれる
団体信用生命保険に入っていない人が死亡した場合は、原則として家族に債務が引き継がれます。借入金のような負債は法的に相続財産の一部として取り扱われるため、原則として法定相続人となる家族へ債務が相続されるためです。
【団信に入っていない人が死亡した場合の債務の取り扱い】
項目 | 内容 |
個人事業主の場合 | 事業の借入金も個人の債務となるため、原則として相続人に引き継がれる |
法人の代表者の場合 | 借主はあくまで法人となるが、代表者が連帯保証人の場合、原則として保証債務が相続人に引き継がれる |
個人事業主の人が借入の返済中に亡くなった場合、その債務は相続人である家族に引き継がれます。個人の資産と負債は一体となって相続される関係上、事業のための借入金であっても、個人の負債として相続の対象となるため、相続人である家族が債務を引き継いで返済していくことになります。
また、法人の代表者が借入の返済中に亡くなった場合、代表者の保証債務を相続人である家族が引き継ぐ可能性があります。借主はあくまで法人となるため、相続人がその債務を引き継ぐことはありませんが、代表者が連帯保証人となっている場合は、その保証債務を相続人が引き継ぐことになります。
なお、法的手続きにより債務を引き継がない方法もあります。 団体信用生命保険に入っていない人が死亡した場合は原則として相続人に債務が引き継がれますが、「相続放棄」「限定承認」などの法的手続きをとることにより債務を引き継がない方法もあるため、団体信用生命保険へ加入しない場合は万が一のときの手続き方法や相談先を確認することも検討しましょう。
団体信用生命保険の利用要件
日本政策金融公庫における団体信用生命保険は利用要件が定められています。要件に当てはまらない場合は団信制度を利用できないため、団体信用生命保険を検討している人は自身が対象となるかどうかを確認しておきましょう。
【団体信用生命保険の対象要件】
項目 | 内容 |
対象となる融資制度 | 日本政策金融公庫の普通貸付または生活衛生貸付 ※経営改善貸付や生活衛生改善貸付など、一部の特別な貸付は対象外となる。 |
対象となる人 | つぎのいずれかに該当し、かつ生命保険会社の承諾を得た人。 ・個人事業主 ・法人の代表者であり、かつ連帯保証人であること |
対象となる人の年齢 | 加入申込日(告知日)現在において満15歳以上満68未満の方 |
団体信用生命保険の対象要件のひとつは「融資制度」です。日本政策金融公庫の普通貸付または生活衛生貸付は対象となりますが、「経営改善貸付」「生活衛生改善貸付」など、一部の特別な貸付は対象外となるため注意が必要です。
また、団体信用生命保険の対象要件のひとつは「対象となる人の年齢」です。加入申込日時点において満15歳以上満68歳未満の人が申し込めるため、対象年齢に該当しない場合は申込ができません。
なお、団体信用生命保険を利用するためには生命保険会社の承諾が必要です。申込書において健康状態を告知するため、過去に傷病歴がある場合や現在の身体の状態によっては団体信用生命保険に加入できない可能性があることを留意しておきましょう。
団信への加入を検討するときのポイント
団体信用生命保険への加入を検討するときは、いくつかのポイントがあります団信への加入は任意のため、自身が入るべきかどうか悩んでいる人は参考にしてみてください。
【団信への加入を検討するときのポイント】
- 借入金額の大きさや返済期間の長さ
- 家族構成
- 事業への影響度
- 他に加入している保険の有無
団体信用生命保険は途中加入ができません。 日本政策金融公庫の融資契約を結ぶときにしか加入のタイミングはないため、団信への加入を検討している人は検討材料としていくつかのポイントを確認してみてください。
借入金額の大きさや返済期間の長さ
借入金額の大きさや返済期間の長さは、団体信用生命保険の加入を検討するときのポイントのひとつです。借入金が多額であったり、返済が長期にわたる場合は、そのぶん万が一の事態が発生した際の債務負担が重くなるリスクが高く、経済的な影響も大きくなるためです。
たとえば、創業時に融資を受ける場合は借入金額が大きくなりやすいです。創業時は物件の初期費用や機械設備の購入費など、500万円以上のまとまった資金を借入する傾向にあるため、万が一の事態になった際に債務が多く残ることから、団信への加入を検討する余地があります。
また、事業の転換を図る時期に融資を受ける場合は返済期間が長くなりやすいです。「大型の設備導入」「経営改善計画に伴う運転資金」など、返済期間が10年を超える借入を組む場合は、返済中に健康状態や外部環境が変化する可能性を考慮し、団信での備えを検討する余地があります。
借入金額の大小や返済期間の長短に対する感じ方は人それぞれです。「自己資金でカバーできるかどうか」「継続的な安定収入があるかどうか」など、自身や家族にとってどの程度のリスクを許容できるかを踏まえて、団信への加入を検討してみましょう。
家族構成
家族構成は、団体信用生命保険の加入を検討するときのポイントのひとつです。万が一の事態を想定した場合に、残された家族の状況によって経済的な影響が異なるからです。
たとえば、扶養している子供がいる場合は、生活費に加え教育費がかかります。万が一の事態になったときに、生活費と教育費に借入金の返済が加わると、残された家族の経済的な負担が大きくなるため、団信への加入を検討する余地があります。
一方、扶養している家族がいない場合は、経済的な影響は少ない可能性があります。「子供が独立している」「配偶者が働いている」などの状況であれば、相続人である家族の経済的な影響が少ない可能性があるため、団信への加入を不要とする考え方もあります。
なお、家族の状況は変化する可能性も考慮しておきましょう。「子供の進学」「配偶者の病気」など、返済期間中に家族の状況が変化することも考えられるため、長期的なライフプランを設計しつつ、団信による備えが必要かどうかを検討してみましょう。
事業への影響度
事業への影響度は、団体信用生命保険への加入を検討するときのポイントのひとつです。万が一の事態を想定した場合に、事業の継続や資金繰りへの影響の大きさによって、団信による保障が必要かどうか異なるからです。
たとえば、事業運営が経営者個人の力に依存している場合は、万が一の事態になったときに事業の継続性が危ぶまれます。「個人事業主」「代表者のスキルや人脈による事業運営をしている企業」などは、万一の事態になった際に事業の立て直しや円滑な整理を行うため、団信への加入を検討する余地があります。
一方、事業運営が経営者個人の力に依存していない場合は、万が一の事態になったときでも事業への影響が少ない可能性があります。「組織体制が確立した法人」「潤沢な資産がある企業」などは、代表者不在でも事業を再建できる可能性があるため、団信への加入を不要とする考え方もあります。
なお、事業への影響度を判断する際は、事業承継の状況を基準とする方法もあります。「息子へ代替わりする」「事業を売却する」など、事業の引継ぎ方針が明確であれば事業への影響度も把握しやすくなるため、団信の加入を迷っている人は事業承継の方針から考えることも検討してみてください。
他に加入している保険の有無
他に加入している保険の有無は、団体信用生命保険への加入を検討するときのポイントのひとつです。 万が一の際に備える保障がすでに十分ある場合は、新たに団信へ加入する必要性が低い可能性があるからです。
たとえば、生命保険に加入しており、その保険金で借入金の返済が可能と見込まれる場合は、団信へ加入する必要性が低いかもしれません。保険金の使途に制限がなく、事業の清算や家族の生活費にも対応できる場合は、保障内容が団信と重複するため、団信への加入を不要とする考え方もあります。
一方、他に十分な保障を持っていない場合は、団信による保障の必要性が高い可能性があります。「生命保険に入っていない」「既存の保険では借入金返済に対応しきれない」などの場合では、団信へ加入して保障を付けることを検討する余地があります。
なお、公庫の団体信用生命保険は途中脱退できます。民間の保険でカバーできる融資残高まで減ったら解約するという考え方もできるため、団信への加入を検討している人は他に加入している保険の保障内容を見返し、重複を避けて設計することも検討してみてください。
団信に加入希望する場合は2通りの申込手続きがある
団体信用生命保険への申込方法は2通りあります。日本政策金融公庫の融資契約の方法によって団信への申込方法も変わってくるため、団信への加入を希望する人は2通りの申込手続きを確認してみましょう。
【団体信用生命保険の申込方法】
方法 | 対象者 |
ネット申込 | 日本政策金融公庫の融資契約を電子契約でおこなう人 |
書面申込 | 日本政策金融公庫の融資契約を書面契約でおこなう人 |
日本政策金融公庫の融資契約を電子契約でおこなう人は、団信の申込もネット上でおこないます。融資決定後に送られてくるメールの案内に従って団信のネット申込を完了させたのち、日本政策金融公庫の融資契約を電子契約でおこなう流れになります。
日本政策金融公庫の融資契約を書面契約でおこなう人は、団信の申込も書面でおこないます。融資決定後に融資契約の書類と団信の申込書類が送られてくるため、どちらの書類も日本政策金融公庫あてに返送することにより、融資契約と団信の申込を同時におこなう流れになります。
なお、団信のネット申込をした場合は、融資実行した約2か月後に団信から口座振替の依頼書が届きます。団信の掛金を口座振替するための書類となるため、ネット申込した人は忘れずに手続きするようにしましょう。
まとめ
日本政策金融公庫の団体信用生命保険は、融資を受ける人が万が一の事態に備えるための保険制度です。日本政策金融公庫からの借入金を返済中、死亡や高度障がいなどの万が一の事態が発生した場合、借入残高を保険金で弁済する制度となっています。
日本政策金融公庫における団体信用生命保険は利用対象者が定められています。対象とならない場合は団信制度を利用できないため、団体信用生命保険を検討している人は利用対象者を確認しておきましょう。
団体信用生命保険への加入を検討するときは、いくつかのポイントがあります。「家族構成」「事業への影響度」など、加入を検討するときはさまざまな要素から総合的に判断することになるため、団信への加入を迷っている人は検討材料としていくつかのポイントを確認してみてください。
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