日本政策金融公庫からの融資を検討している人の中には、「中小企業事業」と「国民生活事業」の違いが分かりにくいと感じている人もいるかもしれません。それぞれの制度にどんな特徴があり、どちらを利用すべきか迷うケースもあるでしょう。
当記事では、日本政策金融公庫における中小企業事業の概要や国民生活事業との違いを解説します。融資の相談先を検討する際の参考にしてみてください。
中小企業事業とは公庫にある3事業部のうちのひとつ
日本政策金融公庫は3つの事業部に分かれており、そのうちの1つが中小企業事業です。3事業が連携し、日本経済の成長や発展、地域活性化への貢献やセーフティネット機能を発揮する役割を担っています。
【日本政策金融公庫における3事業の概要】
項目 | 概要 |
---|---|
国民生活事業 | 個人事業主や小規模・中小企業を中心に、小口融資や創業支援をおこなう。また、子育て世帯に対し教育ローンも取り扱っている。 |
中小企業事業 | 法人格を持つ中小企業や中堅企業を中心に、長期の大型融資をおこなう。また、信用保険業務や証券化支援業務もおこなっている。 |
農林水産事業 | 農業や林業、漁業を営む事業者を中心に経営資金や設備資金の融資をおこなう。 |
中小企業事業では、とくに長期的な資金ニーズや規模の大きな設備投資への対応が可能です。 国民生活事業が個人や創業者向けの少額融資を扱う一方で、中小企業事業はすでに一定の事業規模を有する法人向けの支援をおこなっています。
中小企業事業の業務は「融資」「信用保険業務」「証券化支援業務」に分かれています。主力である融資業務に加え、信用保険業務や証券化支援業務を通じて、中小企業への資金供給を間接的に支援しています。これにより、金融システムの安定や資金流通の円滑化にも寄与しています。
なお、中小企業事業の前身は「中小企業金融公庫」です。1953年に発足し、2008年の組織統合により日本政策金融公庫の一部となった背景があるため、事業としての歴史は長く、現在もその専門性を活かして政策的役割を担いながら中小企業の資金調達を支え続けています。
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中小企業事業の役割
中小企業事業の役割は、民間金融機関だけでは対応が難しい資金ニーズに応えることにあります。長期の設備投資や経営基盤の強化といった課題に対し、国の政策にもとづいた柔軟な資金支援をおこなうことにより、中小企業の持続的な成長をサポートしています。
【中小企業事業の特徴】
項目 | 内容 |
---|---|
長期資金に対応 | 5年超の融資が全体の約7割を占める。設備投資や継続的な運転資金の融資をおこなっている。 |
民業補完の立場 | 景気低迷期には融資数が多くなり、景気回復期には少なくなっている。民間金融機関を補完するという姿勢のもと、事業資金を安定的に供給している。 |
政策にもとづいた特別貸付を実施 | スタートアップ、事業承継、海外展開などの政策性の高い分野に対して融資制度を用意している。また、災害時や社会情勢の影響を受けた事業者に対するセーフティ貸付も適宜実施している。 |
中小企業事業の特徴として「長期資金に対応」「民業補完の立場」という点が挙げられます。民間金融機関がカバーしきれない融資分野に重点を置いており、こうした姿勢は制度設計にも反映されています。とくに、5年を超える長期融資が全体の約7割を占めている点は、短期資金を中心とする民間とは異なる特徴です。
また、政府の経済政策に沿った特別貸付を実施している点も中小企業事業の特徴です。スタートアップや事業承継といった分野だけでなく、災害や社会情勢の影響を受けた企業への緊急対応も行うことで、中小企業の経営安定と地域経済の維持に貢献しています。
中小企業は日本の全企業の99%以上を占め、経済や雇用を支える存在です。その一方で、民間金融機関だけでは資金調達が難しいなどの制約も抱えています。こうした背景に対応するため、中小企業事業では長期資金の安定供給とセーフティネットの機能を果たしており、政策金融としての役割を担っています。
国民生活事業と中小企業事業の違い
日本政策金融公庫の国民生活事業では、小規模事業者から中小企業に対しても融資をおこなっています。事業内容としては似ている部分があるため、中小企業事業との違いが分かりにくい人もいるかもしれません。以下に国民生活事業と中小企業事業の違いを記したので参考にしてみてください。
【国民生活事業と中小企業事業の違い】
- 融資制度
- 融資先数や平均融資残高
- 支店数
国民生活事業と中小企業事業の違いとして、「融資制度」「融資先数や平均融資残高」「支店数」などの点が挙げられます。違いを確認することにより、自社に合った制度の理解や選択の助けになるため、日本政策金融公庫から融資を検討している人はそれぞれの項目を確認してみましょう。
融資制度
国民生活事業と中小企業事業の違いのひとつは「融資制度」です。国民生活事業と中小企業事業では、それぞれ独自の融資制度が設けられています。今回は、両事業で共通して設けられている「女性や若者、シニア層の起業支援に関する融資制度」を例に取り、具体的な違いをわかりやすく比較します。
【融資制度の比較】
項目 | 中小企業事業 | 国民生活事業 |
---|---|---|
制度名 | 女性、若者/シニア起業家支援資金 | 新規開業・スタートアップ支援資金(女性、若者/シニア起業家支援関連) |
対象者 | 女性、35歳未満、または55歳以上で創業予定または創業後おおむね7年以内の方 | 女性、35歳未満、または55歳以上で創業予定または創業後おおむね7年以内の方 |
融資限度額 | 直接貸付:7億2,000万円 代理貸付:1億2,000万円 |
7,200万円(うち運転資金4,800万円) |
返済期間 | ≪設備資金≫ 20年以内(据置2年以内) ≪運転資金≫ 7年以内(据置2年以内 |
≪設備資金≫ 20年以内(据置5年以内) ≪運転資金≫ 10年以内(据置5年以内 |
※日本政策金融公庫「女性、若者/シニア起業家支援資金」「新規開業・スタートアップ支援資金(女性、若者/シニア起業家支援関連)」を参考に株式会社SoLaboが作成
この融資制度における中小企業事業と国民生活事業の違いのひとつは「融資限度額」です。中小企業事業は直接貸付で最大7億2,000万円、代理貸付でも1億2,000万円までと大口の資金調達に対応しています。一方、国民生活事業は7,200万円(うち運転資金4,800万円)までの小口融資が中心です。
また、返済期間も異なります。設備資金の返済期間は両事業で最大20年と共通していますが、据置期間は国民生活事業が最大5年と長く設定されている一方、中小企業事業は据置期間2年以内に抑えられています。運転資金の返済期間も国民生活事業のほうが長く設定されています。
融資対象者は共通しているものの、制度の詳細には違いがあります。中小企業事業では大きな資金ニーズに対応できるよう高額の融資限度額や長期的な設備投資向けの条件が整えられている一方で、国民生活事業はより少額・小規模な事業者向けに柔軟で利用しやすい制度設計となっていると考えられます。
融資先数と平均融資残高
国民生活事業と中小企業事業の違いとして、「融資先数」や「平均融資残高」が挙げられます。中小企業事業と国民生活事業では、融資先の性質が異なるため、融資先数や平均の融資残高にも違いが特徴的に表れています。
【融資先数と平均融資残高】
項目 | 中小企業事業 | 国民生活事業 |
---|---|---|
融資先数 | 5.8万先 | 117万先 |
平均融資残高 | 1億3,500万円 | 877万円 |
中小企業事業の融資先数は約5.8万先に対し、国民生活事業ではおよそ117万先と、国民生活事業のほうが圧倒的に多くなっています。これは、国民生活事業が比較的小規模な事業者を主な対象としていることが背景にあります。日常的な運転資金や小規模な設備投資といった少額ニーズにも広く対応しているため、多くの事業者が利用しています。
一方で、平均融資残高は中小企業事業が1社あたり約1億3,500万円であるのに対し、国民生活事業はおよそ877万円と大きな差があります。中小企業事業では、比較的規模の大きい企業を対象としており、工場・設備の導入や事業拡大など、まとまった資金が必要とされる融資案件が多くなっています。そのため、平均融資残高に違いがはっきり表れています。
国民生活事業と中小企業事業は、対象とする事業者の規模や資金ニーズに応じた役割分担がなされています。個人事業主や小規模事業者への資金供給は国民生活事業が担い、より高額で長期的な資金ニーズには中小企業事業が応えるという構造を理解しておきましょう。
支店数
国民生活事業と中小企業事業の違いのひとつは「支店数」です。両者は全国展開しているものの、拠点の数には差があります。
【支店数の比較】
- 国民生活事業・・・152支店
- 中小企業事業・・・96支店
この違いは、それぞれの事業が対象とする企業規模や地域ニーズの違いを反映しています。国民生活事業は、主に個人事業主や小規模事業者を対象としているため、地域密着型の対応が求められます。そのため、地域に根差したサービスを提供できるよう、中小企業事業よりも多くの支店を設置しています。
一方、中小企業事業は比較的規模の大きな企業を対象としており、広域的な対応が可能です。支店数は国民生活事業よりも限られていますが、「マッチング支援」「経営情報の提供」など、専門性の高い職員による幅広い金融支援をおこなっています。
なお、中小企業事業も国民生活事業と同様に電話による相談を受け付けています。最寄りの支店が遠い場合や簡単な相談だけしたい場合など、電話による相談を希望する人は事業資金相談ダイヤル(0120‐154‐505)を利用することも検討してみてください。
中小企業事業に相談するときの判断基準
日本政策金融公庫に融資を申し込む際、国民生活事業か中小企業事業のどちらに相談するべきか迷う人は、いくつかの判断軸を参考にしてみてください。明確な基準はありませんが、中小企業事業の融資実績や制度内容などから申込窓口を選択してみましょう。
【中小企業事業に相談する時の判断基準の例】
- 融資希望額が数千万円以上の場合
- 希望の返済期間が5年以上の場合
- 融資制度に該当する場合
中小企業事業の融資実績は「平均融資残高が1億3,500万円」「返済期間5年超が7割」です。そのため、「数千万円単位での資金調達を希望している場合」や「5年以上の長期返済を希望している場合」は中小企業事業の利用を検討する余地があります。
また、中小企業事業は原則として特定の融資制度を通じて資金を申し込む仕組みになっています。資金調達の目的に応じて融資制度を選択するため、「事業承継に取り組む」「生産性向上を図る」など、中小企業事業が用意する融資制度に該当するかどうかも判断基準のひとつです。
なお、中小企業事業の融資対象となるかどうかも事前に確認しておきましょう。融資対象は中小企業事業の「よくある質問」から確認できますが、とくに「アパートやマンション経営のための資金」は融資対象とならないため、該当する人は国民生活事業の利用を検討してみてください。
まとめ
日本政策金融公庫は3つの事業部に分かれており、そのうちの1つが中小企業事業です。中小企業事業の役割は、民間金融機関だけでは対応が難しい資金ニーズに応えることにあります。長期の設備投資や経営基盤の強化といった課題に対し、国の政策にもとづいた柔軟な資金支援をおこなうことにより、中小企業の持続的な成長をサポートしています。
国民生活事業と中小企業事業の違いとして、「融資制度」「融資先数や平均融資残高」「支店数」などの点が挙げられます。違いを確認することにより、自社に合った制度の理解や選択の助けになるため、日本政策金融公庫から融資を検討している人はそれぞれの項目を確認してみましょう。
日本政策金融公庫に融資を申し込む際、国民生活事業か中小企業事業のどちらに相談するべきか迷う人は、いくつかの判断軸を参考にしてみてください。明確な基準はありませんが、中小企業事業の融資実績や制度内容などから申込窓口を選択してみましょう。
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平成24年8月以降 副業で税理士事務所勤務や広告代理事業、保険代理事業、融資支援事業を経験。
平成27年12月、株式会社SoLabo(ソラボ)を設立し、代表取締役に就任。
お客様の融資支援実績は、累計6,000件以上(2023年2月末現在)。
自身も株式会社SoLaboで創業6年目までに3億円以上の融資を受けることに成功。
【書籍】
2021年10月発売 『独立開業から事業を軌道に乗せるまで 賢い融資の受け方38の秘訣』(幻冬舎)
【運営サイト】
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