日本政策金融公庫からの融資を検討している人の中には、担保を提供するべきかどうか悩んでる人もいるかもしれません。無担保で借りられるイメージがある一方で、どのようなケースで担保が求められるのか気になる人もいるでしょう。
当記事では、日本政策金融公庫の「担保つき融資」について解説します。担保を提供することによるメリットとデメリットも解説するため、融資を受ける際の判断材料として参考にしてみてください。
日本政策金融公庫の担保付き融資の概要
日本政策金融公庫の担保付き融資とは、不動産を中心とした担保を提供した上で受ける融資のことです。固定資産を担保として金融機関に提供することにより、金融機関の回収リスクを軽減させ、融資を受けやすくする目的で利用される融資形態です。
担保付き融資において一般的に用いられる担保は不動産です。具体的には、申込者が所有する自宅や事業用建物、工場、土地などが対象となります。金融機関は担保となる不動産に抵当権を設定し、万が一債務者の返済が困難になった場合の回収手段として位置づけます。
不動産が担保として認められるかどうかは、不動産の価値によって決定されます。築年数、立地条件、建物の状態、周辺環境などを総合的に評価し、十分な担保価値があると判断された場合に融資の担保として活用できます。
なお、日本政策金融公庫の融資実績によると、令和5年度の「不動産担保による融資実行件数」は全体の約2.5%でした。無担保融資の割合が97%程度を占めているため、日本政策金融公庫は無担保での借入が主流な金融機関であることは念頭に置いておきましょう。
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担保付き融資が利用されるケース
担保付き融資は、無担保融資では対応が難しい状況で検討される傾向があります。担保の提供により金融機関のリスクが軽減されるため、資金調達額や信用力に懸念がある場合に、申込人の希望があれば担保つき融資を検討することがあります。
【担保付き融資を検討する例】
項目 | 具体例 |
---|---|
高額の資金調達をおこなう場合 | ・大型の設備投資をする ・季節変動の大きい事大口の運転資金が必要 ・1,000万円以上の創業資金 |
信用面に不安がある場合 | ・直近の決算が赤字 ・自己資金が少ない ・事業実績が浅い |
たとえば、高額な資金調達を行う場合は担保つき融資を検討する余地があります。新たな製造ラインの導入や事業拡大に伴う不動産取得など、数千万円単位の投資が必要な場合には、担保を提供することにより、希望額を調達できる可能性があります。
また、信用面に不安がある場合も担保付き融資を検討する余地があります。創業から間もない企業や赤字決算が続いている事業者など、財務状況に懸念があるケースでは、担保を提供することにより、信用力を補完できる可能性があります。
担保付き融資は、資金調達額や信用状況に応じて選択肢となる融資形態です。無担保融資では難しい場面でも、担保を活用することで融資の可能性を広げられるケースがあるため、事業の状況や資金使途に応じて活用を検討してみましょう。
担保付き融資のメリット
担保付き融資には、無担保融資と比較した場合にいくつかのメリットがあります。担保の提供を迷っている人は、メリットとデメリットを踏まえたうえで検討してみましょう。
【担保付き融資のメリット】
- 金利の優遇が受けられる
- 審査通過の可能性が高くなる
担保を設定することにより金融機関側のリスクが軽減されるため、金利や審査面においてのメリットが挙げられます。担保付き融資を検討している人はそれぞれのメリットを確認してみましょう。
金利の優遇が受けられる
担保付き融資のメリットのひとつは「金利の優遇が受けられること」です。日本政策金融公庫は、担保の有無によって適用される金利が異なるため、記事執筆時点(2025年8月)での金利を比較してみましょう。
【金利の比較】
項目 | 担保あり | 担保なし(2期申告あり) |
---|---|---|
基準利率 | 1.80%~3.90% | 2.80%~4.30% |
特別利率A | 1.40%~3.50% | 2.40%~3.90% |
特別利率B | 1.15%~3.25% | 2.15%~3.65% |
※日本政策金融公庫「主要利率一覧表」をもとに株式会社SoLaboが作成
上記の比較表によると、担保の有無によって金利が約1.0%程度低くなることがわかります。基準利率が適用された場合、担保なしでは2.80%〜4.30%の金利となりますが、担保ありでは1.80%〜3.90%まで下がります。この金利差は借入金額が大きいほど、また返済期間が長いほど総返済額への影響が大きくなります。
たとえば、3,000万円を10年間借入れした場合、金利が1.0%下がることで月々の返済額は約1万円軽減され、総返済額では約120万円の差が生まれます。5,000万円の借入れであれば総返済額の差は約200万円まで拡大するため、大口融資ほど担保設定による金利メリットが大きくなる傾向にあります。
なお、適用される金利は担保の価値によって変わる可能性があります。担保評価額が高いほど、より優遇された金利が適用される可能性があるため、実際に適用される金利が知りたい人は公庫の担当者に確認することも検討してみてください。
審査通過の可能性が高くなる
担保付き融資のもうひとつのメリットは「審査通過の可能性が高くなること」です。担保を提供することにより、金融機関の回収リスクが軽減されるため、無担保融資の場合と比較して審査判断に有利になる可能性があります。
たとえば、自己資金が少ない人が創業資金を借入したい場合、事業の準備状況や返済能力を厳しく審査されます。しかし担保付き融資であれば、担保価値によって信用力不足をカバーできるため、創業融資でも審査に通りやすくなる傾向があります。
また、直近の決算が赤字の既存事業者の場合も同様です。無担保融資では財務状況の悪化により審査通過が困難になりがちですが、十分な担保価値があれば融資を受けられる可能性が高まります。
事業者の信用力を補完できる点が担保付き融資のメリットといえます。ただし、担保があっても返済能力は重要な審査項目であるため、担保と返済能力の両面から総合的に審査判断されることを念頭に置いておきましょう。
担保付き融資のデメリット
担保付き融資には、無担保融資と比較した場合にいくつかのデメリットがあります。担保の提供を迷っている人は、メリットとデメリットを踏まえたうえで検討してみましょう。
【担保付き融資のデメリット】
- 融資までの時間が長くなる
- 手続き費用が発生する
担保を設定することにより手続きに時間や費用が発生するため、融資までの工程においてデメリットが挙げられます。担保付き融資を検討している人はそれぞれのデメリットを確認してみましょう。
融資までの時間が長くなる
担保付き融資のデメリットのひとつは「融資までの時間が長くなること」です。担保付き融資では、書類と面談による審査に加え、担保となる不動産等の調査や評価が必要になるため、融資実行までの期間が延びる傾向があります。
【融資にかかる時間の目安】
手続きの流れ | 担保付き融資の場合 | 無担保融資の場合 |
---|---|---|
事前相談や書類準備 | 1~2週間程度 | 1週間程度 |
審査(担保調査含む) | 4~6週間程度 | 2~3週間程度 |
契約手続き(登記含む) | 2~3週間程度 | 1週間程度 |
合計期間 | 2~3ヶ月程度 | 1~2ヶ月程度 |
担保付き融資の場合、審査期間の目安は4〜6週間程度です。担保評価額の算出や現地確認などの実務が加わるため、無担保融資と比べて審査が長期化する傾向があります。急ぎの資金ニーズには対応が難しい場合があるため、申請タイミングには注意が必要です。
また、契約手続きにも時間を要します。無担保融資であれば金銭消費貸借契約のみで完了しますが、担保付き融資の場合は複数の契約書類や法務局での登記手続きが必要になるため、契約完了までに2〜3週間程度かかる傾向にあります。
無担保融資と比較すると、担保付き融資の場合は融資実行までの時間が1〜2ヶ月程度長くなる傾向にあります。融資希望日が決まっている場合は、事前相談の段階でスケジュール確認することも検討してみてください。
手続き費用が発生する
担保付き融資のもうひとつのデメリットは「手続き費用が発生すること」です。担保付き融資では、契約時に抵当権設定登記をおこなう関係上、融資とは別に一定の費用が発生します。
【登記手続きに関する費用の目安例】
項目 | 費用の目安 | 概要 |
---|---|---|
登録免許税 | 融資額の0.4%程度 | 登記申請書に貼る収入印紙代 |
司法書士報酬 | 3万円~10万円程度 | 司法書士に依頼した場合に発生する |
書類取得手数料 | 1,000円~2,000円程度 | 印鑑証明書や登記事項証明書の発行手数料など |
抵当権設定登記に関する費用のひとつは「登録免許税」です。登記申請の手数料にあたる税金として、融資額の0.4%程度の収入印紙を購入することになります。ほかには、印鑑証明書や登記事項証明書など、登記に必要な書類を集めるために手数料が発生します。
また、登記にかかる手続きを司法書士に委任する場合は、司法書士への報酬が発生します。報酬額は依頼内容や地域によって異なりますが、3万円〜10万円程度が相場です。とくに、不動産の筆数が多かったり、複雑な登記内容だったりする場合は費用が高くなる傾向があります。
司法書士に委任せず自身で登記申請することも可能です。ただし、申請書類の作成や必要書類の収集など、法務局での手続きには専門知識が求められるため、費用対効果や時間的負担を考慮しつつ、委任の有無を検討してみてください。
返済不能となった場合は資産を失うおそれがある
担保付き融資では、返済が滞った場合に担保提供した資産を失う可能性があります。日本政策金融公庫は担保として不動産に抵当権を設定するケースが一般的であるため、もし返済が継続できなくなった場合、担保不動産が競売等により処分されるおそれがあります。
たとえば、自宅や事業用物件を担保に入れている場合、万が一返済が困難になると事業の継続だけでなく生活基盤にも影響を及ぼす可能性があります。とくに、事業と生活の拠点を兼ねた物件を担保にしている場合、住む場所を手放すおそれがあります。
また、担保が処分されても債務の全額が弁済されるとは限りません。競売での売却価格が融資残高に満たなかった場合、残債は引き続き返済義務が残ります。そのため、資産を失ったうえに債務だけが残るというリスクも考慮しておく必要があります。
担保付き融資を利用する際は、万一の際のリスクも考慮して判断することが重要です。返済計画に無理がないかを慎重に確認し、資産を手放すリスクも認識した上で資金調達の手段として活用するかどうかを選択しましょう。
担保付き融資に関するQ&A
日本政策金融公庫の担保付き融資に関する内容をQ&A形式にまとめました。日本政策金融公庫の担保付き融資について疑問がある人は参考にしてみてください。
【日本政策金融公庫の担保付き融資に関するQ&A】
- 住宅ローンがある場合も担保設定できるか?
- 申込者以外の資産を担保設定できるか?
担保付き融資に関する疑問を解消することにより、より安心して融資審査に申込める可能性があります。日本政策金融公庫の担保付き融資に関する疑問がある人は確認してみてください。
住宅ローンがある場合も担保設定できるか?
住宅ローンが残っている不動産であっても、状況次第では日本政策金融公庫の担保として設定できます。日本政策金融公庫がその不動産に担保余力があると判断した場合、担保設定が認められる可能性があります。
たとえば、不動産の評価額が3,000万円で、住宅ローンの残債が1,500万円の場合、差額の1,500万円が担保余力とみなされます。この担保余力が融資額と照らし合わせて十分と判断されれば、日本政策金融公庫の担保として認められる可能性があります。
一方で、住宅ローンが残っている不動産に公庫が抵当権を設定する場合、公庫の抵当権は「第二順位」になることが多くなります。第二順位の担保は金融機関にとって回収リスクが高いため、担保としての評価が厳しくなり、希望通りの融資が受けられないケースもあります。
なお、日本政策金融公庫は担保の評価を独自の基準で行っています。必ずしも市場価格通りに評価されるとは限らないため、担保余力の有無や担保設定の可否が気になる場合は、自己評価だけではなく公庫の担当者や専門家に事前相談することも検討してみてください。
申込者以外の資産を担保設定できるか?
申込者本人が所有していない資産であっても、日本政策金融公庫の担保として設定できる可能性があります。主に、親族や配偶者が所有する不動産を担保として利用したい場合は、所有者の同意のもと担保提供してもらうケースがあります。
たとえば、親が所有している不動産を担保にしたい場合、所有者である親本人の「担保提供に関する同意」が必要となります。実務上は、同意書の提出や印鑑証明書などの書類を用意し、担保提供者が抵当権設定に応じる意思があることを証明します。
また、担保提供者には、抵当権設定に関する書類への署名や押印など、実際の手続きに協力してもらう必要があります。とくに高齢の親などが担保提供者となる場合、公庫が意思確認のため面談をおこなうこともあります。
担保提供者が第三者である場合、金融機関によっては担保提供の意思確認が慎重に行われる傾向にあります。手続きをスムーズに進めるために、事前に公庫の担当者へ相談し、必要書類や手続きの流れを確認しておくことも検討してみてください。
まとめ
日本政策金融公庫の担保付き融資とは、不動産を中心とした担保を提供した上で受ける融資のことです。固定資産を担保として金融機関に提供することにより、金融機関の回収リスクを軽減させ、融資を受けやすくする目的で利用される融資形態です。
担保付き融資には、無担保融資と比較した場合にいくつかのメリットとデメリットがあります。担保の提供を迷っている人は、メリットとデメリットを踏まえたうえで検討してみましょう。
なお、担保付き融資では、返済が滞った場合に担保提供した資産を失う可能性があります。もし返済が継続できなくなった場合、担保不動産が競売等により処分されるおそれがあるため、資産を手放すリスクも認識した上で資金調達の手段として活用するかどうかを選択しましょう。
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平成24年8月以降 副業で税理士事務所勤務や広告代理事業、保険代理事業、融資支援事業を経験。
平成27年12月、株式会社SoLabo(ソラボ)を設立し、代表取締役に就任。
お客様の融資支援実績は、累計6,000件以上(2023年2月末現在)。
自身も株式会社SoLaboで創業6年目までに3億円以上の融資を受けることに成功。
【書籍】
2021年10月発売 『独立開業から事業を軌道に乗せるまで 賢い融資の受け方38の秘訣』(幻冬舎)
【運営サイト】
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