「海外への輸出」「現地法人の設立」など、海外展開を考えている人の中には、日本政策金融公庫の海外展開・事業再編資金の制度が気になっている人もいるでしょう。自社の取り組みに適用できるのかどうか知りたい人もいるかもしれません。
当記事では、日本政策金融公庫の海外展開・事業再編資金を解説します。対象要件や活用事例も紹介するため、日本政策金融公庫の海外展開・事業再編資金を知りたい人は参考にしてみてください。
海外展開・事業再編資金の制度概要
日本政策金融公庫の海外展開・事業再編資金とは、経済情勢の変化に伴い、海外展開を図る事業者を支援する融資制度です。制度の概要は以下の通りです。
【海外展開・事業再編資金の概要】
項目 | 内容 |
融資限度額 | 7,200万円(うち運転資金4,800万円) |
資金使途 | 当該事業を行うために必要な設備資金および運転資金 (海外企業に対する転貸資金を含む) |
返済期間 | 設備資金20年以内(うち据置2年以内) 運転資金7年以内(うち据置2年以内) ※海外企業への転貸資金であり、やむを得ない事情がある場合に限り、返済期間20年以内(うち据置5年以内)が適用される |
利率 |
基準利率(2.7%程度) ≪特別利率A(2.30%程度)になる場合≫ ≪特別利率B(2.05%程度)になる場合≫ ≪特別利率C(1.80%程度)になる場合≫ ※2025年7月現在の金利をもとに記載 |
※日本政策金融公庫「海外展開・事業再編資金」をもとに株式会社SoLaboが作成
海外展開事業に必要な運転資金や設備資金のほか、現地法人への転貸資金も資金使途として認められます。たとえば、日本の本社が公庫から借りた資金を、海外の子会社に貸し付けて現地工場の設備費用に充てるといった活用が可能です。
海外展開・事業再編資金は基準利率が適用されますが、条件に該当する場合は特別利率が適用されます。EPAやFTAの連携がなされている国で事業をおこなう場合は、特別利率が適用されるため、外務省のHPから提携先を確認してみてください。
なお、当サイトを運営する株式会社SoLabo(ソラボ)では、事業資金に関する融資サポートを実施しています。8,000件以上の融資サポートの実績から無料診断できるため、日本政策金融公庫の海外展開・事業再編資金を受けられるか気になる人は無料診断を試してみてください。
海外展開・事業再編資金は対象要件がある
海外展開・事業再編資金を利用するためには、対象要件を満たす必要があります。対象要件は以下の通りです。
【海外展開・事業再編資金の対象要件】
項目 | 内容 |
前提条件 | 経済の構造的変化等に適応するために海外展開することが経営上必要であり、かつ、次の1~3の全てに該当する方 |
①事業の延長性 | 開始または拡大しようとする海外展開事業が、当該中小企業の本邦内における事業の延長と認められる程度の規模を有するものであること |
②本拠拠点の存続性 | 本邦内において、事業活動拠点(本社)が存続すること |
③経営革新性 | 経営革新の一環として、海外市場での取引を進めようとするもので、次の(1)~(4)のいずれかに該当すること (1)取引先の海外進出に伴い、海外展開すること (2)原材料の供給事情により、海外進出すること (3)労働力不足により、海外進出すること (4)国内市場の縮小により、海外市場の開拓・確保に依らないと成長が見込めないため海外展開すること |
※日本政策金融公庫「海外展開・事業再編資金」を参考に株式会社SoLaboが作成
海外展開・事業再編資金は、前提として「経済情勢の変化に適応するために海外展開が必要な事業者」を対象としています。その前提を踏まえた上で、3つの要件にすべて該当している事業者が対象となるため、海外展開・事業再編資金を利用したい人はそれぞれの要件の内容を確認してみましょう。
事業の延長性
海外展開・事業再編資金の対象要件のひとつは「海外展開事業が国内における事業の延長と認められること」です。この要件では、海外展開がこれまでの事業活動と連続性を持っているかどうかが判断基準になるため、別業種への新規進出などは対象外となる可能性があります。
事業の延長性における具体例
事業の延長性が認められるケース | 認められない可能性があるケース |
国内で製造している製品を、海外工場でも生産する | 飲食業を営む会社が、海外で全く別のIT事業を始める |
日本で販売している商品を、海外の現地法人でも販売する | 海外法人が独立して別のサービスを展開する計画 |
国内の取引先が海外進出するため、対応として支店を設ける | 海外での新規市場開拓を目的とした未知の分野への進出 |
たとえば、国内で食品製造業を営んでいる事業者が、同じ製品を海外工場で生産する場合には事業の延長性が認められる可能性があります。一方、国内で全く実績のない事業を海外で始める場合は、制度の対象外となるおそれがあります。
また、国内で販売している商品をそのまま海外の現地法人でも展開するようなケースでは、事業の延長性があると判断される可能性があります。一方、海外法人が独立して別のサービスを提供するような計画では、事業の一貫性が見えにくく、対象外となるおそれがあります。
事業の延長性の要件では、海外展開の内容が既存事業とどのように関係しているかを明確に示す必要があります。自社の海外展開計画が制度の趣旨に合致しているかどうか判断が難しい場合は、日本政策金融公庫の窓口に相談することも検討してみてください。
本拠拠点の存続性
海外展開・事業再編資金の要件のひとつは「事業活動拠点が国内に存続すること」です。この要件では、日本国内の経済活動を維持しつつ海外展開を行うかどうかが判断基準となるため、拠点や業務をすべて海外に移す場合は対象外となる可能性があります。
本拠拠点の存続性の具体例
本拠拠点の存続が認められるケース | 認められない可能性があるケース |
本社機能や製造拠点を国内に残し、海外に支店を新設する | すべての事業機能を海外に移転し、国内の事業を廃止する |
国内の管理部門を残したまま、製造・販売の一部を海外展開する | 日本法人を清算し、海外法人のみで事業継続を予定している |
海外進出後も日本国内で雇用を維持・継続する | 海外拠点に全機能を集中させ、国内拠点は形式的な存在のみ |
たとえば、本社を日本に置いたまま東南アジアに製造拠点を設けるような場合は、国内拠点が存続していると判断される可能性があります。一方、日本法人を解散し、今後は海外法人のみで事業を継続するようなケースでは、制度の趣旨に合致しないおそれがあります。
また、国内拠点において管理部門や経営機能、一定の雇用を維持していることが要件充足のポイントになると考えられます。海外への業務シフトが中心であり、国内の経営資源を完全に手放す場合は対象外となる可能性があります。
本拠拠点の存続性の要件では、登記上の所在地だけでなく事業実態として国内に存続するかどうかを問われる可能性があります。海外展開・事業再編資金を活用したい人は、海外進出にあたって国内拠点のあり方を整理し、その配置や機能を担当者に説明することも検討してみてください。
経営革新性
海外展開・事業再編資金の要件のひとつは「経営革新の一環として海外展開すること」です。具体的には、海外展開が自社の経営上の課題に対応するものであり、次の4つのうちいずれか1つ以上に当てはまる必要があるため、詳細をそれぞれ確認してみましょう。
経営革新性の具体例
経営革新の4要件 | 該当するケース | 該当しない可能性があるケース |
① 取引先の海外進出に伴う展開 | 国内大手取引先がベトナムに生産拠点を設けたため、現地で納品体制を整える | 取引先の海外進出に関係なく、独自の判断で海外に販路を設ける |
② 原材料の供給事情による進出 | 調達先が海外移転し、現地調達を行うため海外工場を設立 | 調達先が国内にあり、特段の供給変化がない状態での進出 |
③ 労働力不足への対応 | 地方で人材確保が難しく、海外での製造体制構築が不可欠 | 特定の地域における一時的な人材不足を理由とした短期的進出 |
④ 国内市場の縮小への対応 | 少子高齢化により国内販売が伸びず、海外市場開拓に着手 | 国内市場が堅調で、拡大目的だけで海外販路を設ける |
たとえば、主力取引先が海外へ生産拠点を移転し、それに合わせて自社も現地供給体制を整えるような場合は、①に該当し経営革新性が認められる可能性があります。一方で、国内での課題解決とは無関係に、単に海外市場が魅力的だからと進出する場合は要件に当てはまらないおそれがあります。
また、原材料の調達環境や人材確保の困難、国内市場の縮小といった要因が明確であれば、②〜④のいずれかに該当する可能性があります。判断に迷う場合は、それぞれの背景と海外展開との関係性を整理したうえで、融資担当者に具体的な理由を説明するとよいでしょう。
経営革新性の要件では、海外展開の背景や必要性が経営課題と結びついているかどうかが問われる可能性があります。制度の趣旨を満たすためには、「なぜ今、海外なのか」を自社の経営状況とあわせて説明することを検討してみてください。
海外展開・事業再編資金の活用事例
海外展開・事業再編資金は、輸出や生産委託などさまざまな形での海外展開に活用されています。業種や展開形態は多岐にわたりますが、いずれも「国内の拠点を維持しつつ、経営課題を海外展開で克服する」という共通点があるため、海外展開・事業再編資金を検討している人は活用事例を参考にしてみてください。
海外展開・事業再編資金の活用事例
海外展開の形態と業種 | 概要 |
形態:海外への輸出 業種:鮮魚の卸売業 |
地元水産物のブランディングを強化し、タイ・香港・シンガポールなどへ輸出を展開。トライアル輸出やJETROの支援制度を活用しながら、現地の市場ニーズに合った商品の開発・提案を実施。HACCP認証取得にも取り組み、持続的な輸出体制の構築を進めている。 |
形態:生産委託 業種:ペット用品の企画販売業 |
自社ブランドのペット服を展開し、中国の生産委託先と連携しながら品質を向上。国内で培ったブランド力を活かし、韓国企業からのアプローチを受けて現地ショップを開設。公庫からの融資やJETROのアドバイスも活用し、機能性商品や現地ニーズに応じた商品提案を進めている。 |
形態:直接投資 業種:洋菓子店 |
自社のコンセプトをパリで展開するため、現地に店舗を出店。文化や施工の違いから多くの苦労を経験するも、現地の日本人スタッフを採用し、現地ニーズに即した商品提供を実現。現在は口コミやメディアを通じて評判が広がり、新たな出店の打診も受けている。 |
※日本政策金融公庫「海外展開事例」をもとに株式会社SoLaboが作成
海外展開・事業再編資金は、企業の成長戦略にあわせて多様な使い方が可能です。輸出・生産委託・現地出店など、展開の形態によって活用方法は異なりますが、いずれの場合も資金調達をきっかけに、販路の確保や商品開発の強化につながる傾向があります。
実際に、地元資源を活かして海外輸出を行う水産業や、中国の委託先と協働して品質を高めたうえで韓国へ進出したペット用品企業、フランスに自社店舗を出店しブランディングを進める洋菓子店など、具体的な成功事例も生まれています。
いずれの事例でも共通しているのは、自社の強みを軸にしつつ、外部支援を活用して展開を進めている点です。日本政策金融公庫のサイト「海外展開ゼロイチ+」では、さまざまな海外展開事例を紹介しているため、海外展開を検討している人は参考にしてみてください。
海外展開・事業再編資金の融資実績
海外展開・事業再編資金の融資実績は増加傾向にあります。グローバル化や国内市場の成熟といった背景もあり、日本政策金融公庫が中小企業の海外市場への進出を支援する動きは今後も継続されると考えられます。
海外展開・事業再編資金の融資実績
令和3年度 | 令和4年度 | 令和5年度 | |
中国 | 136先(27%) | 181先(29%) | 273先(28%) |
ASEAN | 211先(42%) | 234先(37%) | 330先(34%) |
その他 | 156先(31%) | 216先(34%) | 359先(37%) |
合計 | 503先 | 631先 | 962先 |
※日本政策金融公庫「2024年ディスクロージャー誌」をもとに株式会社SoLaboが作成
令和3年度と令和5年度を比較すると、全体の支援先数はおよそ2倍に増加しています。海外進出先は中国とASEANで全体の6割を占めていることから、アジア圏を中心に日本企業の進出が増加していることが実績から読み取れます。
海外展開は市場拡大の大きなチャンスであり、公庫の支援制度を活用することでリスクを抑えながら挑戦することが可能です。「生産委託」「輸出」「現地法人の設立」など、幅広い目的に対応しているため、海外市場への進出を検討している人は積極的に制度を活用してみてください。
海外展開を考えている人は他の支援との併用も検討してみる
海外展開を考えている人は、日本政策金融公庫の融資以外の支援と併用することも検討してみましょう。政策として中小企業の海外進出を支援する動きが高まっているため、日本政策金融公庫の融資も含めてさまざまな支援を受けられる可能性があります。
海外展開を検討している人向けの支援策
- ものづくり補助金(グローバル枠)
- JETROの支援プログラム
海外展開を検討している人向けの支援策として「ものづくり補助金(グローバル枠)」「JETROの支援プログラム」が挙げられます。融資ではない支援になるため、それぞれの支援内容を確認した上で利用を検討してみましょう。
ものづくり補助金(グローバル枠)
ものづくり補助金(グローバル枠)は、海外事業を通じて国内の生産性向上を図る中小企業の設備投資等を支援する制度です。輸出拡大やインバウンド対応など、国外との接点を持つ事業が対象になるため、海外展開を検討している人は確認してみましょう。
ものづくり補助金(グローバル枠)の概要
項目 | 内容 |
補助上限額 | 最大3,000万円(下限100万円) |
補助率 | 中小企業:1/2 小規模企業・小規模事業者:2/3 |
対象事業 | ・海外への直接投資に関する事業 ・海外市場開拓(輸出)に関する事業 ・インバウンド対応に関する事業 ・海外企業との共同で行う事業 |
補助対象経費 | 機械装置・システム構築費(必須)、技術導入費、専門家経費、運搬費、クラウドサービス利用費、原材料費、外注費、知的財産権等関連経費 (グローバル枠のうち、海外市場開拓(輸出)に関する事業のみ)海外旅費、通訳・翻訳費、広告宣伝・販売促進費 |
※ものづくり補助金の公募要領(20次締切分)を参考に株式会社SoLaboが作成
たとえば、輸出を目的にした製品開発やブランディング、新しい販路開拓などは、補助対象経費の範囲内に収まる可能性があります。また、海外現地法人と連携した製造体制の構築や、インバウンド向けサービスの提供体制整備も対象として想定されています。
補助率は小規模事業者であれば最大3分の2となるため、公庫融資と併用することで初期負担を大きく軽減できる可能性があります。補助対象経費には海外旅費や通訳費なども含まれる場合があり、ものづくり補助金の一般枠よりも対象経費の幅が広い傾向にあります。
なお、ものづくり補助金の利用には設備投資が必須となります。「機械装置・システム構築費」を経費に含めなくてはならないため、調査やブランディング中心の資金使途では活用できない可能性がある点を留意しておきましょう。
JETROの新規輸出1万者支援プログラム
JETROが実施する「新規輸出1万者支援プログラム」は、輸出経験が乏しい中小企業を対象に、輸出の第一歩を支援する包括的な支援策です。販路開拓や実務支援に加え、企業ごとの課題に応じた個別対応も受けられるため、輸出による海外展開を検討している人は確認してみましょう。
項目 | 内容 |
対象企業 | 輸出未経験または経験が少ない中堅・中小企業 |
支援内容 | ・JETRO専門家によるハンズオン支援 ・海外バイヤーとのマッチング支援 ・越境EC出展相談 ・商談会や展示会の案内・同行支援 ・パッケージ・ラベル・物流等に関するアドバイス |
支援の流れ | ①登録 → ②カウンセリング → ③販路開拓・実務支援 |
実施主体 | JETRO(日本貿易振興機構) |
新規輸出1万者支援プログラムでは、個別カウンセリングからバイヤーとの契約締結まで伴走支援しています。JETROの専門家が現地の事情を踏まえてアドバイスを行うため、輸出経験がない事業者であっても具体的な課題に即した支援が受けられます。
具体的な支援内容としては、海外バイヤーとのマッチング支援や、越境ECへの出展相談、商談会や展示会への同行支援などが挙げられます。さらに、現地での流通や物流、ラベル表示の規制といった実務面についてもアドバイスをもらえるため、輸出の準備段階から販売までを一貫して支援してもらえる点が特徴です。
JETROでは他にもさまざまな支援サービスをおこなっています。日本政策金融公庫のような資金面の支援ではありませんが、海外展開に特化したサポートを実施しているため、実務面での支援を希望している人は検討してみてください。
まとめ
日本政策金融公庫の海外展開・事業再編資金とは、経済情勢の変化に伴い、海外展開を図る事業者を支援する融資制度です。海外に関連するすべての事業が対象となるわけではなく、対象要件が定められているため、自社の取り組みが制度適用されるかどうか確認してみましょう。
海外展開・事業再編資金は、輸出や生産委託などさまざまな形での海外展開に活用されています。業種や展開形態は多岐にわたりますが、いずれも「国内の拠点を維持しつつ、経営課題を海外展開で克服する」という共通点があるため、海外展開・事業再編資金を検討している人は活用事例を参考にしてみてください。
海外展開を考えている人は、日本政策金融公庫の融資以外の支援も検討してみましょう。政策として中小企業の海外進出を支援する動きが高まっているため、日本政策金融公庫の融資も含めてさまざまな支援を受けられる可能性があります。
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