まとまった額の従業員の退職金を支払うのが難しい、そんな事業主が利用すべき制度が退職金共済制度です。
共済制度で退職金を積み立てれば、従業員の退職時に大きな一時金を支払うこと必要がなくなります。 また、厚生労働省による助成金を使えば、従業員のために支払う退職金共済制度の掛金の一部が助成金としてキャッシュバックされます。
今回の記事では、そんな退職金の掛金をキャッシュバックしてくれる2つの国の助成金について詳しくお話したいと思います。
1.そもそも共済ってなに?
共済とは「ともに助けあう」という目的でつくられた自治体や企業内でつくられている事業のことです。共済の種類には、生命共済・障害共済・自動車共済・年金共済などがあり、大まかにいえば、共済の内容は保険と同じです。
ただ、共済の場合は保険の掛金を払う相手(保険者)が労働組合や自治体などで、民間の保険会社のように利益重視ではないという点に特徴があります。
有名な共済には生活協同組合の「コープ共済」があります。生協という組合員数がとても多い組織の中で(2,873万人)、市場の保険料より割安の料金で保険に加入することができます。(コープ共済の加盟数は880万人)
【参照:コープ共済公式】
2.退職金の計算方法と中小企業退職金制度のなりたち
退職金共済制度はその共済の退職金バージョンです。退職金は長い期間に勤めた従業員に対して支払われるものですが、支給額は以下のような計算式で求められます。(※退職金制度は会社規定による異なります)
(退職金の計算式)
退職時の基本給×(勤続年数×0.8)×退職事由係数(自己都合=60%など、会社都合=100%)
例えば、ある企業に30年務めたAさんが退職する時の退職金を計算するとして、退職金を計算すると以下のように960万円になりました。
退職時の基本給:40万円×(勤続年数:30年×0.8=24)×退職時の理由別の支給率(会社都合で100%)=960万円
従業員の退職時に960万円もの大金を一度に支払うのは、資金繰りの観点から事業主にはとても厳しいものがあります。そこで、退職金の共済制度を作ろうという声が強まり、昭和34年に中小企業退職金共済法にのっとり「中小企業退職金機構」が生まれました。
3.中小企業退職金共済制度(中退共)の仕組み
中小企業退職金制度(以下、中退共)を使えば、事業主は退職金の積立ができます。保険と同じですので、万が一、会社がつぶれて掛金が払えなくなっても、従業員には積み立てていた退職金+支払われるべき退職金が中小企業退職金機構から支払われます。
中退共の仕組みをご理解いただくために、以下の図をご覧ください。左下が事業主、真ん中が退職金共済事業機関(ここでは中退共)、右側にいるのが従業員です。
まず、事業主と退職金共済事業機関が契約を結びます。事業主は申し込み時に自らが雇用する労働者(被共済者)の名前や住所などの情報を記入し、毎月の掛け金の引き落とし口座も登録します。
契約の完了後、退職金共済事業機関は事業主(契約者)へ共済手帳を送ります。従業員が退職した際には、事業者は退職金共済事業機関へ「被共済者退職届」に記入して返送します。そして、退職者の口座に退職金が振り込まれる仕組みになっています。
(通常の退職金と退職金共済制度って違うの?)
退職金共済制度は退職金制度の代わりに事業主が加入しているものです。そのため、あなたが所属している会社が退職金共済制度に加入しているのであれば、退職時にもらえる退職金は会社から振り込まれるのではなく、金融機関を通じて退職金共済事業機関(中退共)から退職金が支払われます。
会社から退職金をもらい、中退共からも退職金をもらうという2重払いはありません。また、会社によっては退職金制度自体がない会社もあります。入社の際に会社規定を確認しましょう。
ちなみに、新型コロナの影響で事業が厳しい状況になっている方、掛金の納付期限延長の措置が行われています(最大1年間)。詳しくは以下のリンクをご覧ください。
中小企業退職金共済制度における掛金の納付期限延長手続について
中退共の仕組みや概要についてより詳細を知りたい方は、以下のパンフレットもぜひ併せてご覧ください。
4.退職金共済制度を使うメリット・デメリット
退職金共済制度を利用するメリット・デメリットとしては、以下があります。
|
メリット |
デメリット |
事業者側 |
・毎月の掛金だから、一度に大きな額の退職金を支払わなくて済む ・掛金は損金として計上できる(非課税) ・退職金の計算や掛金の管理などは退職金共済機関がやってくれる ・同居の親族のみを雇用する事業所でも加入できる(別途、提出書類あり) ・年払いも可能 ・東京都の「東京都正規雇用転換促進助成金」など、退職金共済制度に加入していないともらえない助成金に申請できる |
・毎月の掛金を減額できない (掛金は5,000円~30,000円の16種類) ・個人事業の場合、事業主は加入できない ・法人の場合、役員は加入できない ・他の退職金制度に加入している場合、中退共と重複して加入はできない ・従業員は原則、全員加入 ・掛金を支払い1年未満の退職では退職金は支払われない ・事業主による解雇の場合は退職金はなかなか支払われない |
退職者側 |
・退職者側の積立負担はない(当たり前) ・事業者の経営が万が一うまくいかなくても、退職金は退職金共済事業機関を通じて支払われる ・加入特典として事業所に与えられるレストランやレジャー割引が利用できる ・別の企業に勤めていても、勤務期間を通算できる(通算制度) |
特になし ※すぐにやめたら退職金もらえないのは退職金共済制度でも通常の退職金制度でも同じ |
退職金共済制度は退職者目線ではデメリットよりもメリットの方が多いと言われています。中退共の加入契約数は令和2年3月現在で371,266か所、被共済者数は3,487,966人が登録されています。
しかし、新型コロナ感染症の影響では掛金を支払い続けることができずに2020年3月には脱退者が目立つ結果となっています。事業者目線では、「従業員全員に加入させなければいけない」という点が事業成績のよくない事業所には厳しいのかもしれません。
(通算制度とは勤務期間をさかのぼりできる制度)
この制度に事業主が新規で加入する場合、1年以上継続して勤務している労働者であれば最高10年までさかのぼって加入することが可能です。年金と同じで、さかのぼりを希望する場合は事業所は追加する期間に応じた掛金を支払わなければいけません。
4.中退共の退職金の助成金とは?
【参照:厚生労働省|国の掛金助成】
①正式名称は長い!
中退共に新規加入または既に加入している事業主が掛金の月額を変更する際に、以下の支給額を助成してくれる助成金があります。とても長いのですが、正式名称は「中小企業退職金共済制度に係る新規加入掛金助成及び掛金月額変更掛金助成」といいます。
ちなみに、中退金でもらえる退職金の計算は世間一般的な退職金の計算方法と少し異なります。しかし、実際に支払われる金額は一般的な企業で支払われるものより低くなることはありません。
退職金=基本退職金(掛金×納付月数×利回り1%)+付加退職金(利回りが好調の時に支払われる)
具体的な退職金額は、以下のURLよりシミュレーションできます。
②気になる助成額は
この助成金でもらえる支給額は、労働者1名につき以下の額です。
- 新規加入の場合
掛金の1/2を4ヶ月目~1年目までの9ヶ月分支給する
- パートタイマー労働者など短時間労働者を新規加入させる場合は(掛金月額4千円以下)、上記に追加して以下の額を支給します。
掛金月額2,000円の場合は300円 3,000円の場合は400円 4,000円の場合は500円
(いくら支給される?計算してみよう)
【参照:中退共|1-2-1.掛金の一部を国が助成してくれるそうですが、どのような制度でしょうか?】
・新規加入の場合
掛金1万円の場合 |
1万円×2/1×9ヶ月=45,000円 |
掛金2万円の場合 |
2万円×2/1×9ヶ月=90,000円 |
掛金3万円の場合 |
3万円×2/1×9ヶ月=135,000円 |
- パートタイマ―が新規加入の場合
パートタイマーなどの短時間労働者は、通常の掛金(5,000円~30,000円)ではなく2,000円~4,000円の3種類の掛金から選べます。
掛金2千円の場合 |
2千円×2/1×9ヶ月+300円=9,300円 |
掛金3千円の場合 |
3千円×2/1×9ヶ月+400円=13,900円 |
掛金4千円の場合 |
4千円×2/1×9ヶ月+500円=18,500円 |
- 月額変更の場合
現在、既に中退共に加入している事業主でも、いまの掛金が18,000円以下で掛金を20,000円以上に増額するのであれば、以下の助成金の対象となります。
具体的に計算してみましょう。
・増額分の3分の1を増額月から1年間(12ヶ月)支給
掛金18,000円から 2万円へ変更の場合 |
2千円×3/1×12ヶ月=8,000円 |
掛金5千円から1万円へ変更の場合 |
5千円×3/1×12ヶ月=20,000円 |
掛金7千円から1万2千円へ変更の場合 |
5千円×3/1×12ヶ月=20,000円 |
③助成金をもらうための必須条件とは?
(1)雇用する従業員数が50~300人以下、資本金が3億~5,000万円以下
常時雇用する従業員の数が業種ごとに以下の人数以下である必要があります。また、事業所の資本金についても以下の規定があります。なお、常時今日の従業員とは①正社員②2ヶ月以上雇用する従業員③無期雇用の従業員のことを指します。
【一般業種】(製造業など) ・常時雇用労働者数:300人以下 ・資本金(出資金):3億円以下 |
【卸売業種】 ・常時雇用労働者数:100人以下 ・資本金(出資金):1億円以下 |
【サービス業種】 ・常時雇用労働者数:100人以下 ・資本金(出資金):5千万円以下 |
【小売業】 ・常時雇用労働者数:100人以下 ・資本金(出資金):5千万円以下 |
ちなみに、上記の従業員数を満たしているため中退共に加入して、途中で従業員人数が増えたときはどうすればいいのでしょうか?答えは「脱退しなければならない」です。しかし、事業所が脱退する際も登録済の従業員への退職金は支払われます。
④助成金をもらうための流れとは?
(1)中退共への加入または月額変更手続きをする
この助成金をもらうためには、まず従業員を中退共に新規加入させる、または既に加入済の従業員の月額掛金変更の手続きをするところからスタートです。
(2)(1)の手続き後2年以内に自治体の役所へ申請する
東京都荒川区の場合は、中退共での手続きをしてから2年以内に役所へ申請書類を提出するというルールになっています。事業所を管轄する自治体により申請期限や助成金額は異なりますので、詳細は申請前に自治体の役所(経営支援課など)へ問合せをしましょう。
(3)申請書類を準備する
助成金のための申請書類を準備しましょう。申請書類は申請する自治体により異なります。東京都荒川区の場合は、以下の7種類の書類が必要です。
①荒川区中小企業退職金共済掛金補助金交付申請書兼実績報告書 ※注釈 捺印は法人代表印又は個人事業主の実印 |
②月別・個人別掛金納付内訳書 |
③荒川区中小企業退職金共済掛金補助金請求書 ※注釈 捺印は法人代表印又は個人事業主の実印 |
④退職金共済手帳の写し |
⑤共済掛金の支払が確認できるもの(通帳、領収書の写し等) |
⑥常時雇用する従業員数が確認できるもの(法人事業概況説明書、青色申告決算書の写し等) |
⑦(法人の場合)申告の完了した直近事業年度分の法人都民税の領収書又は納税証明書の写し、(個人事業主の場合)平成31年度個人住民税の領収書又は納税証明書の写し |
5.中退共に加入する従業員は外国人でもOK?
中退共は国の制度のため、基本的に従業員と事業所の双方にメリットがあるように設計されています。中退共制度に加入させることができる従業員は、以下の通りほとんど全ての従業員です。ただし、従業員本人が反対する場合は対象外です。
- 常時雇用する従業員(正社員、2ヶ月以上雇用する従業員、無期契約の従業員)
- 外国人もOK
外国人労働者が退職時に退職金を受け取る場合は、日本人と同様にマイナンバーを提出する必要があります。
まとめ
中小企業退職金共済制度を使うことで、従業員の退職金を毎月の掛金で準備でき、掛金は損金として計上もできるため事業主にとってもメリットは多いです。
しかし、加入後1年間は退職金は支払われない、従業員全員分加入しなければいけないなどデメリットになりそうな点もいくつかあります。
資金調達マニュアルについてもっと見る(一覧ページへ)>平成24年8月以降 副業で税理士事務所勤務や広告代理事業、保険代理事業、融資支援事業を経験。
平成27年12月、株式会社SoLabo(ソラボ)を設立し、代表取締役に就任。
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自身も株式会社SoLaboで創業6年目までに3億円以上の融資を受けることに成功。
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