林業退職金共済制度とは、林業を営む事業者とそこで働く労働者が安心して働くための国による保険制度(共済)です。
何の保険かというと、労働者が退職したあとに受け取れる「退職金」の積立をする保険です。事業者は労働者ひとりにつき1日あたり掛金460円から備えられるため、労働者に働いてもらった分だけを無駄なく支払えます。
また、支払った掛金は全額「損金」として計上できるため、退職金共済制度への加入は法人だと法人税の節約にもつながります。
そこで今回は、林業退職金共済制度がどのような制度なのかのご説明とともに、掛金助成を受けるにはどうすればいいのかについて分かりやすく解説していきたいと思います。
1.まずは日本の林業の現状についておさらいしよう
【参照URL:森林の現状と課題】
①林業は森林大国の日本で重要な事業です
日本は国土の2/3を森林が占める森林大国ですが、1964年に木材輸入が全面自由化されたことをきっかけに、価格の安い輸入木材に対抗できず、国内の林業は衰退の一途をたどってしまいました。
けれども、日本の森林は以下の背景をベースに改善の傾向があります。
- 戦後造林された人工林を中心に森林が本格的な利用期を迎えている
- 2003年に林野庁がはじめた「緑の雇用」事業が効果を上げている
実際問題として、新しい木を植えて育てて成長するまで何十年と時間がかかります。また、林業は山の土砂崩れなど国土の保全にも役立っています。直接林業に携わっていないとなかなかイメージがつきにくいと思いますが、林業は数ある業種の中でもなくてはならない仕事のひとつです。
②意外と知られてない?林業の職種
林業の職種にはどのようなものがあるのでしょうか。具体的には、以下のような職種があります。
中央省庁の林野庁の職員 |
地方自治体の林業事務所の職員 |
林業系学校の先生 |
製材業、木工制作 |
測量士 |
建築士、造園業者 |
公園管理業者 |
森林作業員 |
この他にも林業の職種はいくつかあります。林業に携わるひとびとは、森林だけでなく公園管理や製材業にもかかわっています。
2.林業退職金共済制度とは?
【参照URL:林退共制度とは】
①略して「林退共」。勤労者退職金共済機構が運営
林業の従事者が安心して働けるように、昭和57年、林業退職金共済組合が誕生しました。その組合をきっかけに、国より整備された退職金制度が「林業退職金共済制度」です。運営は独立行政法人「勤労者退職金共済機構」の林業退職金共済事業本部(電話/03-6731-2887)が行っています。
※本部支部所在地はこちらのリンクでわかります
独立行政法人「勤労者退職金共済機構」の林業退職金共済事業本部
林業退職金共済制度は、いわば林業で働く方のための退職金の積立制度のようなものです。林業を営む事業者が林業退職金共済制度に加盟すると、「林業退職金共済事業本部」は事業者に「共済契約証」を、被共済者には「共済手帳」を交付します。
共済契約証は、事業者が金融機関で掛金を支払うときに必要なカードです。
林業労働者に交付されるのが退職金共済手帳です。この緑色の共済手帳には掛金免除欄がついています。
事業者は毎月、雇用する労働者が働いた分だけ金融機関で掛金の支払い(共済証紙の購入)をします。労働者は事業者から働いた分だけ共済証紙を手帳に貼ってもらいます。
②加入条件
続いて、林業退職金共済制度に加入するための条件についてみていきましょう。
事業主 |
林業を営む方なら、専業・兼業を問わず、すべて加入できます。 |
労働者 |
林業の現場で働く林業従事者なら作業種別(植林、下刈、間伐、主伐など)にかかわりなく、また、月給制、日給制、出来高制、にもかかわりなくすべての人が対象となることができます。 |
一人親方の場合は「任意組合」をつくれば対象者となることができます。
ただし、中退法に基づく中小企業退職金共済制度及び建設業・清酒製造業退職金共済制度との従事者の重複加入はできません。
任意組合の規約や申請書については、以下のURLよりご覧いただけます。(一人親方関係、という部分をご覧ください。)
③事業者側のメリットとデメリット
(1)メリット①:事業者の資金繰りが安定する
事業者側は労働者の掛金を毎月必要な分だけ支払うことができるため、従業員が一斉に退職する時期でも一度におおきな資金がなくなることがなく、資金繰りが安定します。また、8時間勤務(1日)につき1枚の共済証紙を購入すればいいので、1ヶ月いくらというタイプの保険積立より経済的です。
(2)メリット②:自治体による掛金助成制度と国による運営費補助がある
掛金の支払い額を軽減するため、自治体では掛金62日分が助成される制度があります。また、本来であれば林退共の運営費として事業主等から徴収すべき費用ですが全て国からの交付金でまかなっています。
また、納められた掛金は運用利息とともに退職金に充当されていますので、事業主が納めた額以上の退職金を労働者が受け取れるシステムが構築されています。※年度ごとに運用利息は上下します
(3)メリット③:掛金は非課税
事業主が払い込む掛金は、法人では損金、個人では必要経費として全額非課税となります。
(法人税法施行令第135条第1項第1号、所得税法施行令第64条第2項により)税金がかからないということは節税効果にもつながり、雇い入れる林業労働者が多ければ多いほどその恩恵は高くなります。)
(4)メリット④:掛金助成がある
この記事のタイトルにもあるように、林業退職金共済制度に新規加入すると、掛金の助成が受けられます。詳細については、以下の見出し「掛金助成について」でご説明します。
④労働者側のメリット・デメリット
(1)メリット①:退職金は直接労働者の口座へ振り込まれる
退職金の請求や手続きは、事業者ではなく林業退職金共済事業本部がやりとりするのではなく、労働者と林業退職金共済事業本部がやりとりします。そのため、事業者側は退職金の手続きをする手間が省け、労働者側も事業所とトラブルがあった場合でも退職金を安心して請求できます。
(2)メリット②:中退共制度との掛金の移動ができる
中退共とは、中小企業向けの国の退職金共済制度です。林業の労働者が退職して中小企業に入社することもありますし、その逆もあります。重複加入はできませんが、林業退職金共済制度と他の国が運営する退職金共済制度との掛金の移動(通算)ができます。
5 制度間の連携者
(1)他の中小企業退職金制度(中退共、建退共など)の被共済者が、林退共制度に該当する労働者になった場合は、制度間で連携が取れており、掛金相当分がそのまま持ち越しできます。
【参照URL:加入から退職金を受け取るまで】
これを「移動通算」制度といい、逆の場合も同様です。
(3)メリット③:ホテルや旅行で林退共の割引が使える
林退共の被共済者は林退共が提携しているホテルなどの割引が利用できる。割引を使うには、「林退共に加入している者ですが」と電話予約し、当日は割引券の提示をします。
【参照URL:サービス一覧|林業退職金共済制度事業本部】
⑤特定業種退職金制度のひとつ
国による退職金共済制度は林業のみでなく、他に①清酒製造業退職金共済制度(清退共)、②建設業退職金共済制度(建退共)もあります。3つ合わせて「特定業種退職金制度」と呼びます。特定業種退職金制度内および中小企業退職金共済制度とは重複して加入はできないのでご注意ください。
当サイトでは①清酒製造業退職金共済制度(清退共)、②建設業退職金共済制度(建退共)についての解説記事もご用意しております。
建設業退職金共済制度の助成金で掛金が支給!一人親方・外国人はOK?
【参照:中小企業退職金共済制度|厚生労働省】
⑥加入年数により退職金額は異なる
林退共から退職金をもらうには、最低24カ月の掛金支払いがないと退職金は受け取れません。また、退職金の額は加入年数に応じて異なります。以下のグラフをご覧ください。
【参照URL:厚生労働省|退職金を受け取るには】
たとえば、林業で5年間勤めた方の退職金は約48万円ですが、40年働いた方の退職金は約436万円と10倍近い金額の差があります。
また、林業労働者として掛金を積み立てられた方が残念ながら死亡された場合は、12ヶ月以上の掛金の積立があれば近親者が代わりに退職金を受け取る手続きが可能です。
3.林退共への加盟手続きと申請書について
事業者も労働者も、この林業退職金共済制度の加入のための手数料は一切かかりません。加入のための申込書は林業退職金共済事業本部のホームページよりダウンロードが可能です。
【参照URL:書式ダウンロード|林業退職金共済制度】 】
①事業者が加盟する場合
まず林業を営む事業者が「勤労者退職金共済機構」の林業退職金共済事業本部または支部に赴き、①共済契約申込書と②共済手帳申込書に記入します。その場で「林業退職金共済者契約証」は交付されます。
共済者手帳も交付されますので、手帳は事業者に戻った際に労働者に渡しましょう。
②労働者が加盟する場合
労働者自体が事業所を運営していない場合、林退共に加盟している事業所に入所してから加盟するという流れになります。
【加盟の流れ】
- ①事業所で契約する際に「林退共」に加盟しているか確認する
- ②加盟している場合、入社と同時に事業者が手帳交付手続きをしてくれる
- ③事業所から共済者手帳が交付される。手帳を読み、毎月掛金の共済証紙を事業主に貼ってもらう
4.掛金について
①掛金は指定金融機関で払いましょう
掛金は共済契約者(事業主)が全額負担します。共済契約者が共済証紙(掛金日額470円)を最寄りの指定金融機関から購入し、共済手帳に貼付することによって納付されます。(共済手帳は、当財団から配布します。)
共済証紙取扱金融機関はこちら↓のURLより検索できます
共済証紙は、1日券470円・10日券4,700円と2種類あります。原則として、1日(8時間)の勤務ごとに1日分(1枚)の証紙を手帳に貼付してもらいます。
1日券 |
10日券 |
470円 |
4,700円 |
【参照URL:林業退職金共済制度の手続】
購入した共済証紙は、掛金として全額非課税で損金扱い(法人の場合)となります。(個人事業主の場合は掛金を経費として計上できます。)
共済手帳には、1冊につき204日分の証紙が貼れ、それを超えた場合は更新手続きを行えば2冊目が交付されます。
5.掛金助成について
①掛金助成の概要
林業退職金共済制度では、一部の自治体において掛金62日分が助成されます。①すべての自治体が対象ではない点と②新規加盟の労働者のみが対象、という2点がポイントです。
実施機関 |
厚生労働省 |
助成金の種類 |
労働関係 【参照:労働条件等関係助成金のご案内|厚生労働省】 |
対象事業主 |
林業を営んでおり、掛金補助を行っている自治体で林業をしている事業主 |
対象地域 |
一部の自治体 掛金補助を行っている自治体はこちらから検索↓ |
助成額 |
現在の掛金日額は470円です。 62日分×470円=29140円がひとり当たりの助成額です。 |
掛金免除のパターン |
①事業所自体が新規加入 ②事業所としては既に加入しているが、新規の従業員を加入させる |
新規加入者(被共済者)については、初回交付手帳により62日分が免除される「掛金免除手帳」が交付されます。掛金の助成のためには別途申請書を提出するのではなく、掛金助成手帳を使うことにより掛金62日分が免除されるというシステムになっています。
共済手帳は1冊につき204日分貼れるようになっているので、手帳には免除分の62日分を差し引くと、142日分の証紙を1冊に貼ることになります。しかし、退職金の計算時には「204日分」として計算されるのです。
②1冊目の手帳が共済証紙でいっぱいになったら?
掛金共済手帳にすべての証紙を貼り終わった場合、事業主は掛金助成欄に60日分の消印を押します。そして、掛金助成共済手帳更新申出書」に必要事項を記入し、貼り終わった「掛金助成手帳」を添えて各都道府県にある清退共支部に提出して、新しい「共済手帳」の交付を受けてください。
6.林退共へ退職金を請求する方法
退職金を請求するときは、まずじぶんが請求できる人であるか、請求できるタイミングであるかを確認しましょう。
請求できる人 |
①林業の従事者として24か月分以上共済証紙が貼られた共済手帳を持っている方 ②本人が亡くなられた場合、12ヶ月分以上の共済証紙が貼られていればご遺族も請求ができます ③東日本大震災でなくなった林業従事者のご遺族も請求できます 対象地域:岩手県、宮城県、福島県、茨城県の全域 |
請求できるタイミング |
林業労働者として働かなくなったときです。(24か月分以上の共済証紙が共済手帳に貼られている必要があります) |
次に、退職金を請求する場所ですが、林業退職金共済制度事業本部または支部となります。
請求する場所 |
林業退職金共済制度事業本部または支部 本部住所:東京都豊島区東池袋1-24-1 |
退職金の請求方法ですが、以下の流れで林業退職金共済制度の被共済者(元・林業労働者)が手続きをします。
- ①「退職金請求書」に必要事項を記入します。
- ②必要な退職証明を受けます。
退職証明とは、「退職証明書」のように退職した時に労働者が所属していた事業所が発行してくれるものです。退職理由により「必要な証明」は以下のように異なります。
請求事由 |
必要な証明 |
1.独立して仕事をはじめた |
最後の事業主又は事業主団体の証明 |
2.無職になって今後どこにも就職しなくなった |
最後の事業主又は事業主団体の証明 |
3.林業関係以外の事業主に雇われた |
新しい事業主の証明 |
4.林業関係の事業所の社員や職員になった |
現在の事業主の証明 |
5.けが又は病気のため仕事ができなくなった |
最後の事業主の証明又は医師の診断書 |
6.満55歳に以上になった |
請求する時の事業主の証明または住民票 |
7.本人が死亡した |
戸籍謄(抄)本及び被共済者と請求人の順位等を証明するもの |
【参照URL:林退共|退職金を受け取るにはどうすればいいの?】
- ③退職金請求時の持ち物は4点
手続きの際は以下の4つの書類を提出します。
- (1)共済手帳
- (2)住民票(コピー不可)
- (3)「退職金所得の受給に関する申告書」兼「退職所得申告書」
- (4)マイナンバーカード(表面と裏面の写し)
マイナンバーカードをお持ちでない方は、マイナンバー通知カード+本人確認書類(免許証、パスポートなど)+住民票の3点です。
※平成28年1月1日以降に退職金を請求する場合は、マイナンバーの提出が必要になりました。
ちなみに(3)の書類ですが以下のような書式です。
こちらの書式は以下のリンクよりダウンロードできます。
また、退職金の振込先ですが平成27年6月15日から、退職金をゆうちょ銀行総合口座へ振り込むことが可能になりました。
まとめ
お読みいただきありがとうございました。これを読むことで、林業退職金共済制度の全体像や加入方法、掛金助成についてどんなアクションをすればいいのかを把握できると思います。
林業退職金共済制度は日本の林業を支える大切な制度です。ぜひ、まだ加入していない方は加入を検討してみてはいかがでしょうか。最初の62日分については掛金が免除されます。
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