日本政策金融公庫からの融資を検討している法人経営者の中には、個人事業主とは審査基準や手続きが異なるのではないかと疑問に思っている人もいるかもしれません。法人成りして初めて融資を検討し、審査のポイントが知りたい人もいるでしょう。
実のところ、審査基準や手続きは個人事業主と法人とで大きく異なることはありません。しかし、必要書類や連帯保証の有無など、法人ならではの審査ポイントがあるため、日本政策金融公庫から融資を受けたい法人経営者の人は当記事を参考にしてみてください。
ポイントは法人ならではの準備や審査観点を押さえること
法人として日本政策金融公庫から融資を受ける場合のポイントは、「法人ならではの準備や審査観点を押さえること」です。個人事業主と異なり、法人格に対して融資をおこなうことになるため、法人ならではの書類や保証が求められます。
【法人ならではの審査ポイント】
- 法人ならではの必要書類がある
- 代表者が連帯保証人となる可能性がある
- 法人としての信頼性を確認される
以上のように、法人ならではの審査ポイントはいくつか挙げられます。法人として日本政策金融公庫から融資を受けたい人はそれぞれのポイントを確認してみましょう。
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法人ならではの必要書類がある
審査ポイントのひとつは「法人ならではの必要書類があること」です。個人事業主よりも法人のほうが提出書類が多くなる傾向にあるため、事前に書類の内容を確認しておきましょう。
【必要書類の例】
項目 | 法人 | 個人事業主 |
---|---|---|
書類名 | ① 最近2期分の確定申告書・決算書 (勘定科目明細書を含みます。) ② 最近の試算表(決算後6ヵ月以上経過している場合または事業を始めたばかりで決算を終えていない方) ③ 見積書(設備資金の場合) ④ 日本公庫電子契約サービス(国民生活事業)利用申込書 ⑤ 送金先口座の預金通帳の写し ⑥ 法人の履歴事項全部証明書または登記簿謄本 ⑦ 企業概要書もしくは創業計画書 ⑧ 本人確認書類 ⑨ 許認可証 |
① 最近2期分の確定申告書 ② 見積書(設備資金の場合) ③ 日本公庫電子契約サービス(国民生活事業)利用申込書 ④ 送金先口座の預金通帳の写し ⑤ 企業概要書もしくは創業計画書 ⑥ 本人確認書類 ⑦ 許認可証 |
※日本政策金融公庫「ご提出書類(インターネット申込用)」を参考に株式会社SoLaboが作成
法人の場合、直近2期分の決算書が必要となります。法人は個人とは独立した法人格を持つため、会計処理も複雑になりやすく、損益や貸借の状況を正確に示す決算書が審査資料として必要です。一方、個人事業主は個人の確定申告書で収支が確認できるため、決算書は求められません。
また、法人の場合は登記簿謄本の提出が必要です。法人は個人とは異なり、会社として独立した組織体であるため、事業者自身だけでなく会社の実態を確認する必要があります。登記簿謄本は法人格の存在や本店所在地、役員構成などを示し、組織としての信用力を確認する重要な資料となります。
もし、決算期から6か月以上経過している場合は試算表の提出も求められます。試算表は、決算期が終わってから現在までの最新の財務状況を示す資料として用いられるため、融資を申し込むタイミングが決算期から半年以上経っている場合は、試算表をあらかじめ準備しておきましょう。
代表者が連帯保証人となる可能性がある
審査ポイントのひとつは「代表者が連帯保証人となる可能性があること」です。法人が借入する場合、会社が債務者となりますが、金融機関は返済の確実性を高めるために代表者に個人保証を求める場合があります。
【法人と個人事業主の融資における責任の違い】
項目 | 法人 | 個人事業主 |
---|---|---|
債務者 | 法人 | 本人 |
連帯保証人 | 原則として法人の代表者 | 原則として不要 |
法人が借入する場合は、法人が債務者となります。個人ではなく会社組織が返済の義務を負うことになりますが、法人の代表者が連帯保証人となることにより、法人が万一返済できない場合は代表者個人に弁済の請求がなされます。
個人事業主の場合は、個人事業主である本人が債務者となります。日本政策金融公庫は親や配偶者などの第三者を連帯保証人に徴求しない傾向があるため、個人事業主が借入する場合は原則として連帯保証人は不要となる点が法人と個人事業主の違いです。
なお、日本政策金融公庫には「経営者保証免除特例制度」があります。制度要件に合致している場合は、法人の代表者を連帯保証人から外すことができるため、法人として公庫から融資を検討している人は制度要件を確認してみてください。
法人としての信頼性を確認される
審査ポイントのひとつは「法人としての信頼性を確認されること」です。法人が借入する場合、代表者個人の信用に加え、法人としての信頼性も審査の対象となります。金融機関は法人の経営体制や資本金などから、その法人と取引しても良いか確認しています。
【法人の信頼性を確認する項目例】
項目 | 具体例 |
---|---|
登記内容 | ・所在地や役員構成に違和感はないか? ・登記されている事業内容が申し出と合致しているか? ・資本金はいくらか? |
社会的な信用力 | ・法人口座は用意できているか? ・取引先や業界団体から信頼されているか? ・許認可が必要な業種の場合は取得できているか? |
法人の登記簿謄本を提出する以上、その登記内容は法人としての「形式的な信頼性」を判断するうえで確認されます。所在地や役員構成に不自然な点があると、事業の安定性や継続性に疑問を持たれる可能性があります。また、登記簿に記載されている事業内容と実際の活動内容に食い違いがある場合も、金融機関に不信感を与える要因となりかねません。
また、許認可の取得や法人口座の開設状況などから、法人の社会的信用力や事業の実態が確認されます。許認可や法人口座は、ある程度の事業基盤がなければ取得できない場合もあるため、日本政策金融公庫はその有無を参考に法人の信頼性を判断します。
法人としての信頼性は、代表者個人の信用とは別に重要な審査項目となります。法人登記や口座の開設などの準備が整っていると、経営体制が成り立っていると判断されやすくなります。そのため、あらかじめ必要な手続きを済ませておくようにしましょう。
法人と個人事業主どちらも審査の本質は変わらない
日本政策金融公庫の審査においては、法人と個人事業主のどちらであっても審査の本質は変わりません。準備する書類や確認される観点に違いはありますが、融資を受けるうえで重視される項目は共通しています。そのため、審査で重要視される項目を確認してみましょう。
【審査で重要視される項目】
- 事業実績
- 資金使途
- 返済能力
審査で重要視される項目として「事業実績」「資金使途」「返済能力」が挙げられます。日本政策金融公庫から融資を受けたい法人経営者の人は、それぞれの詳細を確認してみましょう。
なお、利用できる融資制度や適用される金利が事業形態によって変わることはないため、日本政策金融公庫の融資において法人と個人事業主のどちらかが有利ということはありません。
事業実績
審査で重要視される項目のひとつは「事業実績」です。直近の売上推移や利益の状況、黒字か赤字かといった数字面の評価に加え、事業を継続してきた実績そのものも信頼につながります。
【事業実績の例】
項目 | 具体例 |
---|---|
売上高 | ・売上高はいくらか? ・前年対比は何%か? |
利益 | ・営業利益はいくらか? ・経常利益はいくらか? |
経営の変遷 | ・設立何年目か? ・店舗の移転や拡大はあるか? |
支払振り | ・税金や社会保険料の滞納はないか? ・月々の返済に遅れはないか? |
事業実績として確認される項目のひとつは「利益」です。もし直近の決算が赤字の場合でも、その原因や今後の改善策を明確に説明できれば、将来の収益性や返済能力を評価してもらえるケースがあります。重要なのは数字の一時的な変動ではなく、事業の継続性と改善の見通しです。
事業実績として確認されるもうひとつの項目は「経営の変遷」です。まだ創業期の法人の場合であっても、自己資金の準備状況や具体的な事業計画書を提出し、計画の現実性や収益見込みを示すことができれば、事業の実績が乏しくとも融資を受けられる可能性があります。
事業実績の観点では、決算書の数字や滞納の履歴などの客観的な事実をベースに審査されます。過去の数値の推移や改善策の有無、事業計画の説得力も含めて評価されるため、書類で補足できる部分はしっかり整えて、融資担当者に正しく理解してもらえるように準備しましょう。
資金使途
審査で重要視される項目のひとつは「資金使途」です。日本政策金融公庫は中小企業の活性化を目的として融資をおこなっているため、借入金が事業の健全な成長や運営に使われるのかどうかを確認されます。
【資金使途の例】
項目 | 具体例 |
---|---|
設備資金 | ・新規店舗の出店費用 ・製造機械の購入 |
運転資金 | ・仕入れ代金の支払い ・人件費や広告宣伝費の確保 |
資金使途のひとつは「設備資金」です。店舗出店や機械の導入といった設備を購入する使い道が挙げられます。設備資金を借入したい場合は、その金額の妥当性や将来の売上増加、作業の効率化につながる根拠を審査で問われる傾向にあります。
もうひとつの資金使途は「運転資金」です。仕入代や人件費、広告費など日常的な支出が挙げられます。慢性的な赤字補填のための運転資金だと審査は厳しくなるため、売上計画や資金繰り計画と合わせて説明することが必要です。
不明瞭な資金使途は審査上マイナスとなります。見積書や受注契約書など、融資後の資金の使い道を裏付けられる書類を提出することも検討してみてください。
返済能力
審査で重要視される項目のひとつは「返済能力」です。毎月設定した元金と利息を返済することになるため、法人の経営状況や過去の実績などから、借入金を返済できるかどうかを日本政策金融公庫は確認しています。
【返済能力の確認項目】
項目 | 具体例 |
---|---|
経営状況 | ・直近の売上推移は? ・直近の利益率や損益額は? ・月々のキャッシュフローは? |
借入状況 | ・既存借入の有無は? ・返済状況や延滞履歴の有無は? ・新規借入後の返済負担は? |
今後の見通し | ・売上予測の根拠は? ・返済原資は? ・計画の実現可能性は? |
返済能力を判断する材料として、「経営状況」が挙げられます。直近の売上や利益だけでなく、安定したキャッシュフローを生み出せているかどうかを公庫から確認されます。仮に赤字決算であっても、月ごとの収支で返済可能な余力があれば評価されるケースもあるため、事業の安定性や収益の継続性をアピールすることもポイントです。
また、借入状況や今後の見通しも返済能力の判断材料となります。すでに複数の金融機関から借入がある場合、その返済が適切に行われているかどうかも確認されます。さらに、新規借入後の返済計画や返済原資の妥当性が示されていなければ、返済能力に懸念を持たれる可能性があります。
返済能力を示すためには、実績や計画を裏付ける資料を準備することが大切です。「決算書や試算表」「他行の返済予定表」など、公庫から指示された書類に加え、新規借入したあとの返済計画表や資金繰り計画表を作成することも検討してみてください。
法人成りした場合は個人事業主の実績も確認される
個人事業主から法人化した場合は、法人としての実績だけでなく、個人事業主としての実績も確認されます。法人になって間もない場合は、法人としての決算書が揃っていないこともあるため、事業の継続性や返済能力を判断するために、過去の個人事業主時代の資料を依頼される可能性があります。
具体的には、確定申告書や売上台帳といった資料がチェックされます。これらの資料を通じて、売上規模や利益率といった点が確認されます。たとえ法人成りしてからの実績が乏しくても、個人事業主のときに安定した実績があればプラス評価につながります。
また、法人成りした理由も確認される可能性があります。節税対策や社会的信用の向上など、前向きな理由で法人化したことを説明できれば、金融機関からの理解を得やすくなります。一方で、赤字を隠すために法人化したように見えると、マイナス評価となる場合もあるため注意が必要です。
なお、事業年数は個人事業主のときから起算して数えます。法人成りして日が浅くとも、個人事業主として相応の年数が経過している場合は日本政策金融公庫の創業融資の対象外となる可能性があるため、創業融資を利用したい人は留意しておきましょう。
まとめ
法人として日本政策金融公庫から融資を受ける場合のポイントは、「法人ならではの準備や審査観点を押さえること」です。個人事業主と異なり、法人格に対して融資をおこなうことになるため、法人ならではの書類や保証が求められます。
日本政策金融公庫の審査においては、法人と個人事業主のどちらであっても審査の本質は変わりません。準備する書類や確認される観点に違いはありますが、融資を受けるうえで重視される項目は共通しています。そのため、審査で重要視される項目を確認してみましょう。
なお、個人事業主から法人化した場合は、法人としての実績だけでなく、個人事業主としての実績も確認されます。法人になって間もない場合は、法人としての決算書が揃っていないこともあるため、事業の継続性や返済能力を判断するために、過去の個人事業主時代の資料を依頼される可能性があります。
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平成24年8月以降 副業で税理士事務所勤務や広告代理事業、保険代理事業、融資支援事業を経験。
平成27年12月、株式会社SoLabo(ソラボ)を設立し、代表取締役に就任。
お客様の融資支援実績は、累計6,000件以上(2023年2月末現在)。
自身も株式会社SoLaboで創業6年目までに3億円以上の融資を受けることに成功。
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2021年10月発売 『独立開業から事業を軌道に乗せるまで 賢い融資の受け方38の秘訣』(幻冬舎)
【運営サイト】
資金調達ノート » https://start-note.com/
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