近年、テレワークという言葉を見聞きすることが増えてきました。
テレワークとは、パソコンやシステムを使い、仕事場まで通勤することなく自宅などの場所で仕事をする新しい働き方です。 似たような言葉で「在宅ワーク」という言葉もありますが、テレワークではオンライン会議などITの力をフル活用し、より柔軟に働ける仕組みとなっています。 少子高齢化で労働人口は減っているいま、テレワークは私たちにとって注目の働き方と言えます。
今回の記事では、テレワークの導入を検討している事業主の方に向けて、テレワークでもらえる助成金(時間外労働等改善助成金のテレワークコース)の解説をしていきます。
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1.なぜテレワークで助成金がもらえるの?
①テレワークで日本の長時間労働を減らし、労働人口を増やしたいから
テレワークでもらえる助成金について考える前に、まずは簡単に「なぜテレワークで助成金がもらえるの?」という疑問について考えていきたいと思います。
そもそも助成金とは、必ず助成金を出す側(例、経済産業省)の目的があります。その目的を確実に達成できるという見込みがあるために、私たちは返済不要のお金を受け取ることができるのです。そのため、助成金がもらえる背景をきちんと理解している方が、助成金を確実に受け取れる成功率は上がります。
テレワークの助成金では、国内での「長時間労働の削減」「有効労働人口数の確保」という日本政府の2つの目的があり、国家予算が充当されています。
①長時間労働の削減 |
通勤時間をなくして自宅を勤務場所とすることにより、労働者の自由時間の確保につなげる |
②有効労働人口数の確保 |
子育てや介護などの家族の事情で一般的な通勤がしづらい人に、臨機応変な労働を促す |
日本の長時間労働は深刻な問題となっています。既に平成30年6月29日に「有給休暇の義務化」が国会で可決されていますが、この施策と共に、テレワークも日本の労働者の拘束時間が減る試みとして日本政府が期待しています。
テレワークは子育て・出産を理由に一時的に仕事を辞めた女性にとっても柔軟に働けるというメリットがあります。テレワークの推進は、長時間労働を減らすことでの生産性のアップと労働人口の増加という「将来の日本経済」を左右する重要な課題です。
②テレワークをめぐる国内外の動き
日本政府は2010年~2015年の間にテレワークの推奨を集中して行ってきましたが、海外の先進国24か国の実施率(20%以上)と比較すると、日本国内ではテレワーク実施率が全体の16%程度といまだ低い率で推移しています。
【引用:総務省:テレワーク情報サイト|テレワークの海外普及動向】
最近のキャッシュレス化でもそうですが、2000年以降に日本は先進国と比較しIT化やたばこの禁煙化など環境整備の点で遅れを取っている状態です。テレワークの助成金についても、アメリカやドイツなどのテレワーク実施率と比較し日本が遅れていることが背景の一つになっています。
2.2018年「職場意識改善助成金」→2019年「時間外労働等改善助成金」にリニューアルした助成金である
当サイトの助成金の記事ではよくお伝えしているのですが、助成金の名称は毎年のように変わるものがあります。(あまりに助成金の名称が変わるので、筆者は「今は消えた&今もある助成金」という記事を作成しちゃったほどです!)
中小・小規模事業者向けで今は消えた&今もある助成金・補助金一覧表
この時間外労働等改善助成金は2019年に新設された助成金ですが、それまでは「職場意識改善助成金」という名称でした。それが、時間外労働等改善助成金という名称になったのはなぜか?
それは、いまが「時間外労働NG!」という時代に突入したからです。2020年4月から、すべての企業での時間外労働時間の上限が決められ、超える場合は事業所に対し罰則(6か月以内の懲役または30万円以下の罰金)が科せられる恐れがあります。
- 年720時間以内
- 複数月平均80時間以内(休日労働を含む)
- 月100時間未満(休日労働を含む)
職場の意識を改善しようね~!という、ユル~いものではいつまでたっても効果がなかったため、ついに時間外労働に対し罰金が発生することになったのです。
3.時間外労働等改善助成金には全部で5つのコースがある
あなたが今ご覧頂いている記事は時間外労働等改善助成金のテレワークコースですが、この助成金にはその他4つのコースがあります。※2019年度の交付申請は既に終了しました。既に申請した方は、2020年3月6日までに取組を実施してください。
各コースの内容ですが、いずれも時間外労働時間を削減するということが全体的なテーマとなっています。時間外労働の削減の手段をどのように実施していくかがコース間で少し異なっています。今回の記事では、この中のテレワークコースの内容について触れていきましょう。
コース名 |
内容 |
時間外労働上限設定コース
|
時間外労働の削減のために労務管理担当者の設置・研修や労務管理の外部コンサルティングやソフトウェアの導入をし、申請するすべての事業所において時間外労働数を月45時間以下年間360時間以下などの目標数値を達成することでもらえる助成金。 |
勤務管インターバル導入コース
|
勤務終了後から次の勤務までの間に一定時間以上の休息時間を設けることで、従業員の生活時間や睡眠時間を確保する事業主がもらえる助成金。申請するすべての事業所において休息時間が9~11時間以上の勤務間インターバルを導入すること。 |
職場意識改善コース
|
ワークライフバランスの実現のため、年次有給休暇取得率の促進または労働者の月間平均所定労働時間数を5時間以上削減させる事業主がもらえる助成金。 |
団体推進コース
|
労働者の労働条件の改善のために、時間外労働の削減や賃金引上げに向けた取り組みを実施する事業主団体に対して支給される助成金。 |
テレワークコース → 今回のテーマ! |
従業員に対する時間外労働の制限や仕事と生活の調和の推進のため、在宅またはサテライトオフィスで就業するテレワークに取り組み中小事業主に対し、その実施にかかった費用の一部を支給する助成金。 |
4.テレワークコースの助成金をもらうための4つの条件とは?
時間外労働等改善助成金(テレワークコース)を受給するには、まず以下の条件に当てはまるか確認してください。
- 1.労働者災害保証保険の適用事業主であること
- 2.下のいずれかに該当する事業主であること
業種 |
資本または出資額 |
常時雇用の労働者数 |
小売業(飲食店含む) |
5,000万円以下 |
50人以下 |
サービス業 |
5,000万円以下 |
100人以下 |
卸売業 |
1億円以下 |
100人以下 |
その他の業種 |
3億円以下 |
300人以下 |
- 3.テレワークを新規で導入する事業主であること(お試しで導入している事業主もOK)
または、テレワークを継続して活用する事業主であること(過去に受給炭でも、対象労働者を2倍にすれば2回目の受給まではOK)
- 4.時間外労働時間の制限や労働時間設定の改善を目的とし、在宅・サテライトオフィスでのテレワーク実施に意欲的である事業主
1つ1つ見ていきましょう。まず、厚生労働省の助成金のマスト条件である1.については問題ないでしょう。労災に入っていない事業所=助成金がもらえない事業所です!労働者一人でも雇っている場合は、労災保険の加入はマストです。
【参照:厚生労働省|人を雇うときのルール
2.については、「大企業はダメよ」と言っているようなものです。3.についても、あまり気にしなくて大丈夫です。新規で導入する事業主が原則ですが、過去にテレワーク助成金をもらっていても2回目まではOKです。
テレワークの助成金をもらうためには申請書を提出するのですが、以下の赤丸の部分で助成金の申請が「新規」か「継続」なのかを選択します。
【引用: 時間外労働等改善助成金交付要綱 (テレワークコース)】
但し、その際の対象労働者数を2倍にするという条件があります。例えば、1度目のテレワーク助成金で対象労働者数が10人だった場合、2回目に受給する時は20人以上でないと申請できません。
4.についても、あまり気にしないで大丈夫です。
5.テレワーク助成金で支給対象となる6つの取組
この助成金では、以下6つの取組のうち1つ以上を実施する必要があります。単に「テレワークだから、iPad買っちゃった♪」なんてタブレットやスマホを新しく買っただけでは、この助成金の対象にはなりませんのでご注意を。
取組の数は当然、1つより2つ、2つより3つ、3つより4つの方が審査上で有利になります。
①テレワーク用通信機器の導入・運用 |
②保守サポートの導入 |
③クラウドサービスの導入 |
④就業規則・労使協定等の作成・変更 |
⑤労務管理担当者や労働者に対する研修、周知・啓発 |
⑥外部専門家(社会保険労務士など)によるコンサルティング |
①テレワーク用通信機器の導入・運用って具体的にどんなもの?
「テレワークを導入するぞ!」といざ張り切ってみても、実際にはどのように動けばいいのかよくわからないと思います。
テレワークを導入するには、まず社内の現状やお困りごとを把握し、そこにテレワークを導入することでどのように改善していくのか、という計画を作成する必要があります。
具体的には、テレワークですぐにできる業務とできない業務をわけるという作業を行います。また、今はできないけどテレワークの通信機器を導入すればできる作業も考えていきます。
【テレワークで今すぐできる作業】
入力作業、データの修正・加工、資料の作成、企画などの思考する業務
【テレワークでできない作業】
物理的な操作を必要とするオペレーション業務(倉庫で荷物をピックアップする、など)
【テレワーク導入後にできると予想される作業】
紙媒体をPDF化して共有する業務(ex.営業日報のクラウド閲覧)、会議や打ち合わせ((ex.オンライン会議)
以上を踏まえた上で、実際にテレワーク用通信機器の導入を検討していきます。例えば、テレワーク用通信機器には以下のようなものがあります。
- 【PCアクセス】→在宅やサテライトオフィスでも社内PCと同じ環境のPCを実現できる
・仮想デスクトップシステム ・リモートデスクトップシステム ・WEBDAVを活用したノートPCとiPadの接続
- 【業務支援】 →在宅やサテライトオフィスでも社内と同様の環境(スケジュール管理やグループウェア)を共有できる
・マイクロソフトoffice365 ・クラウドSaaS・オンラインストレージ(Google Drive)
- 【コミュニケーション】→在宅やサテライトオフィスでも社内や在宅の人と打ち合わせができる
・テレビ会議システム ・WEB会議システム ・IP電話
②保守サポートの導入とは
テレワークの導入をする際やしたあとは機器の設定や周知などやるべきことがたくさんあります。社内にIT管理者が常駐しているのであれば別ですが、そうでない場合は大塚商会などのITベンダーに保守を依頼することで必要な作業をアウトソーシングすることができます。
③クラウドサービスの導入
クラウドについては既に導入済の事業所も多いのではないでしょうか。これまではGoogleドライブの無料版などでお茶を濁していた事業所も、本格的なビジネス向けクラウドサービスを導入するのであれば、テレワーク助成金の対象の取組としてみられます。
④36協定について
3つ目にある「労使協定」とは別名36協定(さぶろくきょうてい)とも言いますが、36協定は労働基準法第36条で規定されているもので「従業員に時間外労働をさせる事業所は、労使間で時間外労働についての協定を結んで労働監督署に提出してくださいね~」という決まりがあります。
しかし、実際に36協定を結んでいる事業所は国内では59%にとどまっているそうです。約4割は法律違反で残業をさせている可能性があるのでしょうか?新たに36協定を作成することでも、この助成金の支給要件を1つクリアすることになります。
6.成果目標の設定と評価機関について
この助成金には「評価期間」という考え方があり、評価期間は6か月間です。申請時に成果目標の実施期間を記入する欄がありますので、例えば4月1日から6か月(4/1~9/30)という書き方をします。
この評価期間の間に以下3つの「成果目標」を達成することを目指していきます。
1.評価期間に1回以上、対象労働者全員に、在宅又はサテライトオフィスにおいて就業するテレワークを実施させる。
2.評価期間において、対象労働者が在宅又はサテライトオフィスにおいてテレワークを実施した日数の週間平均を、1日以上とする。
3.年次有給休暇の取得促進について、労働者の年次有給休暇の年間平均取得日数を前年と比較して4日以上増加させる。
又は
所定外労働の削減について、労働者の月間平均所定外労働時間数を前年と比較して5時間以上削減させる。
助成金をもらうには、成果目標の達成状況に関する集計表(エクセル)も提出しなければいけません。助成金をもらうには、地味な作業をコツコツとする必要があります。
【参照:厚生労働省|時間外労働等改善助成金(テレワークコース)】
7.支給額は達成でも未達成でももらえる
この助成金の対象経費となるものは、以下の通りです。
謝金、旅費、借損料、会議費、雑役務費、印刷製本費、 備品費、機械装置等購入費、 委託費
※ 契約形態が、リース契約、ライセンス契約、サービス利用契約等 で「評価期間」を超える契約の場合は、「評価期間」 に係る経費のみが対象 |
そして、助成金にしては珍しいのですが、成果目標を達成してもしなくても以下の金額が支給されます。もちろん目標達成をした方が金額は上がります。
成果目標の達成状況 |
達成 |
未達成 |
補助率 |
3 / 4 |
1 / 2 |
1 人当たりの |
20万円 |
10万円 |
1企業当たりの |
150万円 |
100万円 |
8.【その他】東京で利用できるテレワーク系助成金
テレワークの助成金は厚生労働省の実施するもの以外にもたくさんあります。例えば、東京都の場合は以下のテレワーク系助成金(補助金)があります。
- ①(東京しごと財団)はじめてテレワーク(テレワーク導入促進整備補助金)
- ②(東京都)働き方改革宣言奨励金
- ③(東京しごと財団)テレワーク活用・働く女性応援助成金
筆者は以前大手通信系コールセンターで勤務していましたが、事業所の一部は北海道の札幌市にありました。コールセンターのようにお客様の目に見えない事業であれば、別に東京でなくても北海道でも沖縄でもいいのです。
大手企業のコールセンターが地方にあるのは、経費削減だけでなくテレワークを背景とした理由もあるのかもしれません。
9.テレワークを導入している有名企業には日産や資生堂も~!
テレワークの導入はAppleやAmazonなどのIT企業では言うまでもなく昔から実施中です。日本国内の企業の中では、どちらかというと大企業が率先して導入しているイメージがあります。
例えば、日産や東急リバブルや資生堂などの大手企業が週2~4日以内など日数限定で既に導入をしています。
また、ノマドワーカーという言葉が流行りましたが、シェアオフィスなどを使う個人事業主やスタートアップ企業ももちろんテレワークは日常的に使っています。
テレワークを未導入なのは、大手でもIT系ベンチャーでもない、間にある多くの普通の中小企業なのかもしれません。
まとめ
テレワークでもらえる厚生労働省の助成金「時間外労働等改善助成金(テレワークコース)」について解説しました。
2020年の実施はまだ未定ですが、2019年では5月~12月が募集期間だったので次回もその期間あたりに募集がかけられる可能性があります。
資金調達マニュアルについてもっと見る(一覧ページへ)>

平成24年8月以降 副業で税理士事務所勤務や広告代理事業、保険代理事業、融資支援事業を経験。
平成27年12月、株式会社SoLabo(ソラボ)を設立し、代表取締役に就任。
お客様の融資支援実績は、累計4,500件以上(2021年7月末現在)。
自身も株式会社SoLaboで創業6年目までに3億円以上の融資を受けることに成功。
【書籍】
2021年10月発売 『独立開業から事業を軌道に乗せるまで 賢い融資の受け方38の秘訣』(幻冬舎)
【運営サイト】
資金調達ノート » https://start-note.com/
創業融資ガイド » https://jfc-guide.com/
経営支援ガイド » https://inqup.com/