大量解雇する労働者を再雇用しよう!労働移動支援助成金(人材育成支援コース)
景気の変動などによって事業の縮小をせざるを得なくなった場合に、離職する労働者の方の再就職を支援することによって受給することができる助成金です。この助成金には全部で5つのコースがありますが、今回は大量離職させる労働者を1年以内に再雇用し職業訓練を実施した場合に支給される、労働移動支援金(人材育成支援コース)についてご説明します。
少し手続きが多いのですが、もらえる支給額は高額ですしメリットもあるので是非検討してみてください。
1.労働移動支援助成金(人材育成支援コース)の目的
「売上が伸びないための事業縮小」や「時代と共に施設が必要なくなった」など、働く本人の都合ではなくやむを得ない企業側の経済理由で離職を余儀なくされる労働者は少なからずいます。
入社した時は会社が潤っていて新しい人もどんどん入ってきたのに、最近では希望退職を募るばかり。それは会社の責任でもありますが、大きく捉えると日本経済の移り変わりが原因である事も多いのです。
こうして離職した労働者が安定した職にすぐに就ければよいのですが、退職後なかなか次の職が見つからないことも多いのが現状です。そのため、厚生労働省が労働者の円滑な就職を支援する1つの策として、労働移動支援助成金(人材育成支援コース)が存在します。30人以上の離職に対する助成金のため、ある程度大規模な解雇が予測される場合に使える助成金と言えます。
以前は名称が「労働移動支援助成金(受入れ人材育成支援奨励金/人材育成支援)」と人材育成支援が2回もあるネーミングでしたが、平成29年4月より「労働移動支援助成金(人材育成支援コース)」とコンパクトになりました。
2.企業にも大きな3つのメリットが
この助成金の概要を一見すると、離職者にとっては元の企業への再就職というメリットがあるように見受けられますが、企業にとっての労働移動支援助成金(人材育成支援コース)のメリットは何でしょうか?
1つ挙げられるとすると、簡便な人材確保です。一度自分のところで働いていた労働者を再度雇用するということは、どのような人物でどのような実績があるかある程度把握できているということです。
また2つ目としては、助成金の支給額です。雇用関係の助成金は複数ありますが、この助成金の支給額は一律何十万円、というものではなく、対象労働者への1年以内の職業訓練に対して支給対象労働者一人あたり1,200時間まで、1年度1事業主あたり最大5,000万円まで支給、という他の助成金に比べ破格な金額となっているのです。職業訓練を社外でしても(Off-JT)、社内でしても(OJT)費用は助成金支給の対象です。
ということは、再雇用する労働者への1年間の研修費用はほぼ無料で賄えるということになりますよね。
また、企業にとって再雇用というのは解雇よりも良いイメージにつながります。これが3つ目です。
3.労働移動支援助成金(人材育成支援コース)の支給要件
労働移動支援助成金(人材育成支援コース)を目指す企業は、離職させる労働者の①再就職援助計画を作成し、②対象の労働者に職業訓練を実施する、という大きく言うと2つの行動が必要です。
しかしもう少し細かく言うと、以下の8つのアクション(措置)が助成金支給のための条件となります。
また、後ほどもお伝えしますが再就職支援計画の作成は勝手に企業の上層部が決めて提出できるものであってはなりません。30人以上の解雇というのは、企業にとってもかなり大きな出来事です。労働組合がある場合は組合へ意見を出し、組合がない場合も労働者の過半数の代表者などに意見を前もって伝えましょう。
4.再就職援助計画はどんな風に書けばいい?
①再就職援助計画作成の規定とは
この助成金をもらうための大きなポイントが、再就職援助計画の作成です。再就職援助計画は、1つの事業所において1か月以内に30人以上の離職者を生じさせる規模の縮小・事業転換を行おうとするときに作成すると規定されています。
そして、労働者を解雇する理由はあくまで「経済的事情により事業規模の縮小」でなくてはいけません。
例えば、雑誌や新聞が売れなくなりWebマガジンやWebニュースにシフトしていったとしましょう。そうすることで、雑誌や新聞の印刷部門の人員削減になった場合、これは経済的事情における事業の転換と言えるでしょう。また、バブルの頃は全国に多数あったクラブが、今は拠点以外売り上げが立たなくなってしまった。こんな場合は売れない拠点を閉鎖し残りを継続するという拠点最適化という事業縮小のケースに当てはまります。
②記載事項と様式
再就職援助計画は全部で5枚の書類で、それぞれ①様式第一号、様式第一号(②別紙1-1、③1-2)、④様式第一号(別紙2)、⑤様式第四号というフォーマット名があります。
様式第一号の記載事項には、以下の内容を記入します。
※書類は厚生労働省のHPよりPDFまたはWord形式にてダウンロードできますので、それぞれ印刷して使いましょう。
- ・事業の現状
- ・再就職支援計画作成に至る経緯
- ・計画対象労働者の氏名・年齢・雇用保険被保険者番号・離職予定日および再就職援助希望の有無
- ・再就職援助のための措置
③記載例
再就職援助計画の書き方については、記載例が厚生労働省のHPに掲載されています。事業の縮小の仕方により記入例が異なります。以下にリンクを貼りますので、参考にしてみてください。
④提出先/提出期限
労働組合等の意見を聞いたうえで作成し、事業所のある住所地の管轄のハローワークに提出します。
提出期限は、最初の離職者が生じる前の1か月前です。
5.対象となる離職者の詳細
経済的事情における解雇者すべてが当てはまります。また、障害者も含まれます。自己都合の離職者・定年退職者は対象外です。また、①実雇用期間が3年以上あり②契約更新の予定で③本人も契約更新の意思があったのに④更新されない有期契約労働者、は対象です。
①受け入れられる労働者には、以下の条件があります
- ア. 雇用されていた事業主に復帰する見込みがないこと
- イ.再就職支援計画書内で対象者として記載されていること
②以下のいずれかの方法で再雇用します
- a.無期契約労働者として雇用
- b.紹介予定派遣を経て無期契約労働者として雇用
- c.再就職支援計画における職業訓練終了前に有期雇用契約をし、引き続き同じ事業主に無期労働者として雇用
6.過去に不正受給をしていないか?事業主側の条件とは
過去3年以下に不正受給をしていないか、対象の障害者は過去に雇用関係にあったものではないか、労働保険料を滞納していないか、暴力や風俗関連の事業をしている事業所ではないのか、などの、助成金をもらえない事業主についての条件も規定されています。
特にやましい事をしていなければたいていの事業主はクリアできると思われますが、1点特筆すべきは以下の点です。
「受給資格認定申請書の提出の日の前日から起算して6か月前の日から支給申請書の提出日までの間に、この事業所において雇用する雇用保険被保険者を、特定受給資格者となる離職理由によって、当該受給資格認定申請書の提出日における雇用保険被保険者数の6%を超えて、かつ4人以上離職させていた場合」
事業が思わしくない時点での助成金ですので、上記の条件のように離職をさせているケースもあるかもしれません。せっかく受給申請をしても通らなくなりますので、今一度、事業所での離職状況を入念にチェックしてから助成金申請をしましょう。
助成金や補助金は取得までに時間がかかる?
助成金や補助金は、すぐに取得できるものはほとんどありません。
中でも、1年から1年半経過後に取得できるものが多いです。
助成金申請が実行される前に、資金繰りが悪くなってしまう会社が多い傾向があります。
そこで、多くの経営者が助成金とは別に、
金融機関や日本政策金融公庫からの借入もご検討することを推奨しています。
中でも、政府が100%出資している日本政策金融公庫については、
下記サイトで詳しく説明されていますので、情報収集しておくと万が一に備えられるでしょう。
まとめ
企業・事業所の大量解雇はないにこしたことはありませんが、時代や経済の成り行き上どうしても避けられない場合もあります。移動支援助成金を上手に利用し、企業にも離職者にも嬉しい環境を形づくっていきましょう。
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平成24年8月以降 副業で税理士事務所勤務や広告代理事業、保険代理事業、融資支援事業を経験。
平成27年12月、株式会社SoLabo(ソラボ)を設立し、代表取締役に就任。
お客様の融資支援実績は、累計4,500件以上(2021年7月末現在)。
自身も株式会社SoLaboで創業6年目までに3億円以上の融資を受けることに成功。
【書籍】
2021年10月発売 『独立開業から事業を軌道に乗せるまで 賢い融資の受け方38の秘訣』(幻冬舎)
【運営サイト】
資金調達ノート » https://start-note.com/
創業融資ガイド » https://jfc-guide.com/
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