起業資金の調達にはどのような方法がある?
起業後はすぐに黒字になるとは限りません。実際に多くの会社が起業後半年間は経営が不安定とも言われています。起業に必要な資金に加え、起業後3~6ヶ月分の運転資金も考えた資金調達が必要です。
今回は起業に必要な資金には何があるのか、また資金調達方法の種類とオススメの資金調達方法は何かについてご紹介します。
1.起業に必要な資金には何がある?
起業といっても、法人で起業するのか、個人事業主として起業するのかによって必要となる資金は変わります。まずは、自身が開始する事業形態で、どのような資金が必要となるのか、について理解しておきましょう。
■ 個人事業主・法人として起業の場合・・・ ・ 名刺の作成と購入費 ・ 印鑑の作成と購入費 ・ 広告(チラシやWeb)の作成と購入費 ・ 電話機購入費 ・ 事業に必要な備品(文房具やPC)購入費 ・ その他(起業に関わる打合せの交通費 など) |
■ 店舗・オフィスが必要な起業の場合・・・ → 設備資金として ・ 店舗契約費(保証金、礼金、前払い家賃、仲介手数料 など) ・ 店舗工事費(内装、外装 など) ・ 事業に必要な備品購入費(厨房機器、食器、調理機器 など) → 運転資金として ・ 家賃 ・ 光熱費 ・ 人件費 ・ 事業に必要な仕入れ費用 |
■ 法人として会社設立の起業の場合・・・ → 会社登録として ・ 登記免許税 ・ 定款認証税 ・ 設立代行手数料(会社の設立を代行で頼む場合) ・ 会社印鑑手数料 |
■ 事業に必要な住所のみを利用する(バーチャルオフィス)起業の場合・・・ → 運転資金として ・ 月額利用料 ・ 専用のロッカー利用料 ・ 郵便の受取や転送サービス利用料 ・ 電話代行や秘書サービスに係る利用料 |
起業形態や店舗の有無、店舗家賃などによっても必要資金は変わってきます。もしも既存の仕事から同業種での独立をし、自宅での起業の場合は、備品も揃っているとなれば起業に必要な資金は少なく済みます。
また、事業に必要な備品は中古品で揃えることや、レンタルやリースをすることによって起業資金を下げることもできます。実際に、45Kgの製氷機を新品で買うと23~30万円、中古で買うと8~20万円、5年間のリース契約だと23~25万円のように、備品をどのような形で揃えるのかも、起業資金削減のポイントです。
※運転資金として3~6ヶ月分の資金調達も考える
目安となる起業資金が分かったからと言って、起業資金分のみの資金調達だけでは、倒産の確立が高くなってしまいます。
中小企業庁が毎年発表している中小企業白書の調べでは、起業してから5年以内に会社が倒産してしまう確率は80%と言われています。倒産の要因としては、経営悪化や資金問題です。起業時に資金調達は行ったものの、その後資金が足らなくなり、結果、倒産してしまうというケースが多いのです。
起業後すぐに経営が軌道に乗り黒字が続くという会社は、起業前にものすごく注目を浴びている事業か、経営者が世界的に有名な人、もしくは起業後すぐにテレビや広告などで取り上げられ人気が出た、などです。ほとんどの会社は赤字経営からのスタートなのです。
そのため起業後の半年間は経営が不安定となることを予想して、3~6ヶ月分の運転資金も起業資金と合わせて資金調達しておくことが重要です。
〈運転資金として考えられる物の例〉 ・ 物件や事務所の維持費(家賃) ・ 人件費 ・ 水道光熱費 ・ 事業に必要な仕入費 ・ 消耗品購入費 ・ 借入金の返済費 ・ その他経費(広告費、レンタル費、交通費、通信費、接待費 など) |
2.起業時の資金調達方法の種類
① 自己資金や共同経営者との資本金を充てる
会社員時代にコツコツと貯めたお金は立派な自己資金です。銀行に預けている資金の一部、または全額を起業時の事業資金にしましょう。起業後の経営安定までを考えると、月々の返済などがないため、気持ちの面では負担が軽減します。
また、事業を1人で行うのではなく、複数人で会社を始める場合は、共同出資という形で資本金を集めることができます。1人で自己資金を貯めるよりも人数が多ければ多い方が1人1人の出資する金額も少なく済むため、メリットと言えます。
しかし、同じ出資率で出資していた場合は、何かの意思決定をする際に意見が分かれ、なかなか決まらずトラブルの原因ともなる可能性があります。トラブル回避のためにも共同出資の場合は “出資率51%以上を持つ人とそれ以下の人” のように区別を付けた出資を行いましょう。
【メリット】 ・ 返済不要のため気持ちの面で負担が軽減 ・ 共同出資の場合は1人1人の出資金額が少なくて済む |
【デメリット】 ・ 計画を立てて貯金しておく必要がある ・ 共同出資で同じ金額の出資はトラブルが起こりやすい |
② カードローンなどで借り入れる
アコムやアイフル、そしてモビットやレイクなど、CMや交通広告で見かけるカードローンは審査が早く、金融機関での借入に比べて審査が甘いというメリットがあります。また無担保で借りることができ、カードローン会社が発行するカードを使用してコンビニのATMなどで最大800万円程度の借入や返済が自由にできるというのも特徴の1つです。
しかし、審査によって決められた限度額までは自由に借入ができるため、気づいた時には予想以上の借入を行ってしまっているということもあります。金融機関が行う融資に比べて金利が最大で14%前後と高いため、多くの金額を借りることはオススメできません。金融機関の審査に通らず、いざという時の運転資金として少額の利用に留める方が良いでしょう。
また、既に金融機関などへの契約に基づいた借入が100万円以上ある場合や、5年以内にブラックリストに載ったことがある方は、希望金額の借入は難しいと思っておくようにしましょう。
【メリット】 ・ 審査が早く金融機関に比べると甘い ・ 無担保で借りることができる ・ コンビニATMで自由に借入、返済が可能 |
【デメリット】 ・ 金利が比較的高い ・ 金利が高いことで返済に悩まされる可能性がある ・ 気づいた時には予想以上の借入を行ってしまっている ・ 既に借入やブラックリストへの掲載があると多額は借りられない |
③ 金融機関からの融資を受ける
銀行や信用組合、そして日本政策金融公庫などの金融機関から融資という形で資金調達を行う方法です。これらの金融機関では現在、おおよそ1~3%程の低金利で1,000万円前後の資金を借りることができます。
金融機関での融資は、事業の将来への計画性を見るためにも事業計画書の作成と提出が必須となっています。この事業計画書に沿って融資担当者は融資可能かどうかの判断、審査を行います。融資の申込から実際に資金調達できるまでに最低でも1ヶ月はかかると思っておくと良いでしょう。
金融機関は低金利の融資のため審査は厳しく、ビジネスモデルがしっかりしていない事業や赤字を出している事業には原則、お金を貸しません。そのため、金融機関からの資金調達ができるということは、1つのビジネステストに合格したようなものでもあり、社会的にも今後の事業で関わる取引先からの信用も高まります。
起業のための資金調達を金融機関からの融資で考えている方は、日本政策金融公庫での融資制度の利用が最もオススメです。
銀行や信用組合の金融機関では、実績のない企業が融資審査に通るのは難しいとされています。ですが日本政策金融公庫は、これから起業を行いたくても融資が受けられず困っているビジネスを底上げするために作られた公的機関のため、初めて融資を利用する方たち向けの金融機関と言っても良いほどの起業に適した融資制度が多く用意されています。
【メリット】 ・ 低金利で資金を借りることができる ・ 融資可能な限度額が多い ・ 起業向けの融資制度が多い ・ 取引先や社会からの信用度が高まる |
【デメリット】 ・ 審査が厳しい ・ 申込から実際の資金調達までに時間がかかる |
④ 補助金や助成金を利用する
地域の活性化や、公共の利益が見込める事業に対して、国や各自治体が、原則、返済の必要がない資金を給付する制度があります。そしてその制度の中で給付される資金こそが、補助金と助成金です。
補助金は給付される予算と給付件数が決まっていて、応募の中からの抽選や応募の順(早い者勝ち)などで給付されるかが決定します。助成金は申込要件が決まっていて、その要件を満たしていることで給付される確率は高くなります。
“自己資金はコツコツ貯めなければならない。融資や借入は返済しなければならない。でも補助金や助成金なら返済不要で、給付の条件をしっかりクリアすれば高い確率で給付される!” このようなイメージから補助金や助成金を狙う事業者は多いものです。
しかし、補助金や助成金は人気が高いため、制度によっては受付開始から終了まで1ヶ月しかない制度や、申請から実際に資金が給付されるまで1年間ほどの期間があること、起業資金として支払った費用の一部もしくは2/3の金額がキャッシュバックされる形で着金など、起業時の資金調達としてはあまり期待できません。
【メリット】 ・ 原則、返済の必要がない ・ 要件を満たせば高い確率で給付を受けられる制度もある |
【デメリット】 ・ 実際に資金を調達できるまでに時間がかかる制度もある ・ 起業資金を全額調達できるわけではない |
⑤ クラウドファンディングで資金支援を募る
インターネットを通じて自身の夢や行いたい事業や企画を発信し、その内容(プロジェクト)に賛同した人達から資金支援をしてもらうことで資金を調達する方法がクラウドファンディングです。購入型クラウドファンディングや寄付型クラウドファンディング、貸付型クラウドファンディングなど、利用方法は大きく分けて3つあります。
クラウドファウンディングを利用することで、事業や企画を多くの方に知ってもらうきっかけにもなり、支援してくれた方たちが顧客ともなりうる可能性があります。また、支援してもらった資金の返済の必要もありません。
ただし、支援金によって資金調達が成功した場合には、資金の代わりに事業に関わる商品やサービスでお返しをすること(購入型クラウドファウンディング)や、事業が軌道に乗り利益が発生した際に分配金などの方法で支援者に支払う(貸付型クラウドファンディング)場合があります。
また、支援金を募ることで必ず資金調達が成功するとも限りません。希望する調達額に達しなかった場合には、プロジェクトの失敗としてこれまでに集まった支援金も支援者に返還され、また一からのスタートとなります。
資金を調達できるまでの時間が読めないという点において、起業時の資金調達としてはデメリットとなってしまいます。
【メリット】 ・ 多くの人に事業を知ってもらうきっかけとなる ・ 支援者が顧客となりうる可能性がある ・ 支援金を返済する必要がない |
【デメリット】 ・ 支援金の代わりに成功した場合のお返しを設定する必要がある ・ 失敗した場合は一からのスタートとなる ・ 資金調達までの時間が読めない |
⑥ エンジェル投資家からの出資を受ける
起業したての会社やこれから起業していく会社、事業者に対して出資を行う個人投資家がいます。この個人投資家のことをエンジェル投資家と言います。エンジェル投資家自身が将来有望、かつ応援したいと思った事業者に対して出資を行うことで資金支援をし、事業者は資金を調達できる仕組みです。
自己資金では起業資金が足りず、資金面での不安や不足を救ってくれるエンジェル投資家の存在は、事業者にとって起業への前向きなスタートを後押ししてくれる神様のような存在でもあります。
元起業家や経営者としての経験がある方が特徴のエンジェル投資家ですが、出資する金額は投資家により異なり、最低でも500万円、最高では2,000万円もの出資を行う方もいます。また、出資した会社が成長し、自身にも出資した利益が出るように、出資後に経営のアドバイスを行う投資家がほとんどです。
エンジェル投資家からの出資を受けるには、自身からSNSやマッチングサイト、起業者交流会やピッチコンテストなどで接触することから始める必要があり、出資条件が合わなければ出資を受けることはできません。
また、出資を受けられたとしても、経営に関してのアドバイスや意見を言われる可能性が高いため、想い通りの経営が困難なことや、意見の衝突などをする可能性も無くはありません。
【メリット】 ・ 確定した返済金や返済日や利息がない ・ 経営に対してのアドバイスをしてもらえる ・ 場合によっては大きな金額の資金調達が可能 |
【デメリット】 ・ 条件に合う投資家が現れなければ出資を受けられない ・ 経営アドバイスはあるが自分が思う経営を行うことは難しい ・ 意見の衝突により投資解消などで急な資金不足ともなりうる |
⑦ ベンチャーキャピタルから出資を受ける
エンジェル投資家からの出資と似ている資金調達方法がベンチャーキャピタルからの出資です。大きく異なる点は個人投資家ではなく投資専門の投資会社ということです。
出資を自身の生活や趣味の一部として行う方が多いエンジェル投資家ですが、ベンチャーキャピタルは出資が主となっている会社という点でも違いがあります。そのため事業計画書の提出を必須としているベンチャーキャピタルが多くあります。
事業計画書を必要とし、事業の将来性を見て出資を行うベンチャーキャピタルからの出資を受けることは、他の投資家や金融機関からの信用も高まり、起業後に資金が必要となった際に資金調達がしやすくなる可能性もあります。
出資が主であるベンチャーキャピタルは、投資した会社が上場し、株式を売却した際に発生する利益で運営が成り立っています。そのためどうにかしてでも投資先の会社を成長させようと、エンジェル投資家よりも、経営アドバイスや支援を積極的に行う特徴があります。
ベンチャーキャピタルからの出資を受ける際は、ベンチャーキャピタルのHPにアクセスをし、問合せをしてみることや、定期的に事業者が参加しやすい「面談会」や「説明会」を設け、事業者の話を聞くベンチャーキャピタルもあるため、まずはベンチャーキャピタルをサイトで検索し、色々な会社のHPを見てみると良いでしょう。
また、エンジェル投資家同様に、ピッチコンテストなどで注目を浴びることや紹介などから自身の事業のことを知ってもらうことで出資を受ける一歩を踏み出します。
【メリット】 ・ 確定した返済金や返済日や利息がない ・ 事業成長のための経営指導やアドバイスを受けられる ・ 出資を受けることで起業後の資金調達がしやすくなる可能性が高まる ・ 話を聞いてもらえる機会が多い |
【デメリット】 ・ エンジェル投資家からの出資よりも自身が思う経営を行えない ・ 出資を受けるための事業計画書の作成が必要となる ・ ベンチャーキャピタルの目に留まらない可能性もある |
3.起業時の資金調達方法でオススメなものは?
上記まででご紹介した資金調達方法をオススメ順に並べると、
【オススメ度】 ★★★ |
③ 金融機関からの融資を受ける ① 自己資金や共同経営者との資本金を充てる |
【オススメ度】 ★★ |
④ 補助金や助成金を利用する ⑤ クラウドファンディングで資金支援を募る ⑥ エンジェル投資家からの出資を受ける ⑦ ベンチャーキャピタルから出資を受ける |
【オススメ度】 ★ |
② カードローンなどで借り入れる |
自身が開始する事業や、経営の仕方によって変わってきますが、あくまで自社が考えるオススメ順は上記の通りです。
ご紹介した中でも低金利で融資を行っている金融機関からの融資が一番オススメです。もちろん自己資金が十分に確保できているのであれば、返済の必要がないため、自己資金で起業を行うことも悪くはありません。ですが、起業後の経営を考えたときに、自己資金を全て起業資金に充ててしまうとその後の生活面で頭を抱えることになるかもしれません。
また、自己資金がある程度確保できているのならば、金利が低い融資での十分な資金調達が成功する確率が高く、余裕をもって起業することができます。自己資金ゼロでの起業は、融資審査に通る確率が低く、審査が甘く自由に借入が可能な金利の高いカードローンに手を出すことになってしまうため、自己資金は計画的に貯めておきましょう。
補助金と助成金、クラウドファンディング、エンジェル投資家やベンチャーキャピタルの出資は返済の必要が基本的にないため、気持ち面での負担はある程度軽減できます。ですが、資金調達できるまでの時間が読めないことは、経営者としてなかなか起業への行動が移せないため、起業時の資金調達としてはあまりオススメできません。
資金を貸す=信用度を見る、これに尽きます。低金利で事業資金を長期返済で借りたいのであれば、まずは借りられるだけの自己資金(最低100万円)を用意しましょう。共同出資や両親からの援助などが見込めない場合は、現実的な手段として日本政策金融公庫での融資がオススメです。
まとめ
今回は起業に必要な資金の種類や資金調達方法についてご紹介しました。
日本政策金融公庫での融資は、やみくもに資金を貸すのではなく、しっかり返せそうな事業者、事業に対して資金を貸すというスタンスです。そのため、日本政策金融公庫での融資を攻略できれば、経営者としての第一歩が順調に踏み出せたということになります。
行う事業によって自分に合った資金調達方法を見つけ、無理のない資金調達を第一に考え、起業を目指しましょう。
資金調達マニュアルについてもっと見る(一覧ページへ)>
平成22年04月 資格の学校TAC入社、財務諸表論講座講師を5年間務める
平成24年04月 税理士事務所で勤務
平成24年08月 個人で融資サポート業務をスタート
平成27年12月 株式会社SoLabo設立
現在までの融資実績は1600件以上
【書籍】
『独立開業から事業を軌道に乗せるまで 賢い融資の受け方35の秘訣』(幻冬舎)
【運営サイト】
資金調達ノート » https://start-note.com/
創業融資ガイド » https://jfc-guide.com/
inQup » https://inqup.com/