起業後に適した融資制度がある日本政策金融公庫
起業前の創業融資として利用するイメージの強い日本政策金融公庫ですが、起業後でも利用可能な融資制度は存在します。起業後半年間は赤字が続くことも珍しくないと言われているため、借りられるときに融資を受けることは、事業を発展させていくためには必要なことなのです。 今回は、起業後に日本政策金融公庫を利用するメリットから、起業後に適した融資制度のご紹介、また利用する際の注意点やポイントも合わせてご紹介していきます。
1.日本政策金融公庫が行う業務
日本政策金融公庫は、国が出資を行い、民間金融機関の足りない部分を補い安全にすることを目的として設立された政府系金融機関です。日本政策金融公庫のHPには、中小企業者や小規模事業者が行う事業に対して、「日本の経済の活力の源泉、かつ地域経済を支えるもの」という記載がありますが、日本政策金融公庫は、融資や信用保険などの業務を行い、中小企業者の成長や発展を支援しているのです。
起業前の資金調達として利用するイメージが強い日本政策金融公庫ですが、「中小企業者の成長や発展を支援」という記載がある通り、起業後でも日本政策金融公庫を利用することができます。銀行での融資では、実績がなければ融資を受けることが難しい反面、日本政策金融公庫は実績がない企業でも事業主が提出する事業計画書などを参考に可能な限りの支援をしてくれる金融機関なのです。
2.起業後に日本政策金融公庫を利用して資金調達を行うメリット
(1)融資を受けやすい
起業後の資金調達で、銀行等の金融機関へ融資を申し込んだ場合、事業実績がない場合は融資審査に落ちてしまうことが多いことがほとんどですが、日本政策金融公庫は、起業時や創業して間もない企業の支援を積極的に実施しています。
そのため、創業したばかりの企業や実績のない企業でも、提出書類で事業の将来性を見ることができれば審査に通りやすい特徴があります。
(2)低金利での借入が可能
一般的に銀行などの金融機関から融資を受けた際の金利は、金融機関が負うリスクに応じて異なりますが、2%~4%程度だと言われています。
日本政策金融公庫は、低金利での貸付を実施していて、起業後に利用可能な融資制度の1つである【マル経融資(小規模事業者経営改善資金)】を利用した場合の金利は、1.21%と低金利に設定されていて、事業資金が必要な事業者からしたら、負担が軽減される融資制度なのです。
(3)固定金利での融資を実施
日本政策金融公庫は、借入時から返済が終わるまで、金利が変わらない固定金利での融資を実施しています。世の中の経済情勢の関係で金利が上がったとしても、借主の金利が大きく上げられることがないため、メリットとなります。
また、起業して間もない企業にとって、固定金利での借入は返済金額の計算がしやすく、今後の資金繰り計画も作成しやすいという点でもメリットです。
(4)無担保無保証で借入可能な制度がある
日本政策金融公庫で起業後に利用できる融資制度のうち、【新創業融資制度】と【マル経融資(小規模事業者経営改善資金)】は無担保無保証での資金調達が可能です。
銀行などの金融機関へ融資を申し込んだ場合、利用する融資制度にもよりますが、金融機関側が負うリスクの大きさによっては、保証人を要求されるケースが多く、保証人不要で融資を受けることができる日本政策金融公庫の融資制度は、経営者自身の保証も必要ないという特徴があります。
(5)長期返済が可能
日本政策金融公庫の融資を利用した場合の返済期間は5年以上10年以内で設定することが出来ます。(運転資金の返済期間は最長で7年、設備資金の返済期間は最長で20年だが、10年以内の設定を求められることが多い)
返済期間を長く設定することで毎月の返済額を少なくすることができ、会社の資金繰りに与える影響も少なくなります。
(6)返済期間の相談が可能
起業後に日本政策金融公庫からの融資を受けたが、経営状態が悪くなり、想定通りの経営ができない可能性もあり、その状況下での返済は大きなダメージとなります。
日本政策金融公庫では会社の経営悪化に伴う返済スケジュールの緩和(リスケ)にも対応しているため、融資担当者に、返済期間について相談し、毎月の返済額を減らす処置をとることで資金繰りの安定にもつなげることが出来ます。
(7)自己資金要件がない
金融機関から事業資金の融資を受ける場合、準備できる自己資金によって融資金額が決定する場合があります。
起業後に利用できる日本政策金融公庫の【新創業融資制度】では、融資金額の10分の1を超える自己資金が必要ですが、【新規開業資金】【女性、若者/シニア起業家支援資金】【マル経融資(小規模事業者経営改善資金)】は自己資金要件がありません。
自己資金を多く準備することは、起業して間もない会社にとっては簡単なことではないため、自己資金要件がない融資制度があることは、大きなメリットとなります。
(8)事業計画の助言を受けることができる
日本政策金融公庫の融資を申込んだ場合、融資担当者から、事業計画についてのアドバイスを受けることができます。
起業後であっても日本政策金融公庫が全国15か所で開催している創業セミナー等へ参加することができ、経営していくためのノウハウを学ぶことができるので、事業の発展を目指す事業者からしたら嬉しい取り組みです。
(9)銀行からの融資にも影響
政府系の金融機関である日本政策金融公庫からの融資を受け、毎月の返済を遅れることなく続けることで、他の金融機関からの信用度が高くなります。
その結果、今後資金調達が必要となり銀行等の金融機関を利用する際に、融資を受けやすくなります。
(10)追加融資が可能
日本政策金融公庫の融資制度は、返済期日を守っている方などに限りますが、事業資金を追加で調達したい場合でも利用することができます。
日本政策金融公庫で既に別の融資制度を利用し返済中の方、他社でビジネスローンやリボ払いを返済中の方などでも、追加融資として利用できる可能性があります。詳しくは、日本政策金融公庫での追加融資についてまとめた下記記事をご覧ください。
『 日本政策金融公庫で追加融資を受けるための条件!返済途中でも借入はできる? 』
3.日本政策金融公庫が行う起業後に適した融資制度
※基本的には自分で利用する制度は選べず、公庫の担当者が経営者の状況から最適な制度で融資を進めてくれます。 |
新創業融資制度
無担保無保証で利用できる【新創業融資制度】は起業して2年目までの方のみ利用可能な融資制度です。ただし融資希望金額の10分の1以上の自己資金が必要となるため覚えておきましょう。
〈利用条件〉 |
■ 新しく事業を始める、もしくは事業を始めてから2期目の税務申告が終わっていない方 ■ 開始する事業、もしくは事業を開始した際に、下記のいずれかの要件を満たしている方
■ 融資希望金額の10分の1以上の自己資金を有する方 |
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〈融資額の使い道〉 |
設備資金 もしくは 運転資金 |
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〈融資限度額〉 |
3000万円(運転資金の場合は1500万円) |
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〈返済期間〉 |
各融資制度が定める返済期間以内 |
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〈利率〉 |
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(令和2年 7月1日現在)
新規開業資金
担保や保証については、融資担当者との面談にて必要か不要かが決定しますが、【新規開業資金】では、自己資金の条件がありません。新規開業資金の利率は基本的に基準利率ですが、始める事業内容によっては特別利率が適用される場合もあります。
〈利用条件〉 |
■ 下記①~⑩のいずれかの要件を満たす方
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〈融資額の使い道〉 |
設備資金 もしくは 運転資金 |
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〈融資限度額〉 |
7200万円(運転資金の場合は4800万円) |
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〈返済期間〉 |
設備資金の場合は20年以内(据置期間2年以内)/運転資金の場合は7年以内(据置期間2年以内) |
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〈利率〉 |
※融資後、利益率や雇用に関する一定の目標を達成した場合、「創業後目標達成型金利」として利率が0.2%引下げる
■担保を不要とする場合
■担保を提供とする場合
■基本的には〔基準利率〕が適用されるが、下記項目に当てはまる事業を開始する場合、その項目に適した特別利率が適用される
〔特別利率A〕の適用項目 (1)地域おこし協力隊の任期終了を迎えた方で、活動した地域にて新しく事業を開始する方 (2)Uターン等により地方で新しく事業を開始する方 (3)産業競争力強化法に定められた「認定特定創業支援等事業」を受けて新しく事業を開始する方 (4)「地域創業促進支援事業」もしくは潜在的創業者掘り起こし事業の「認定創業スクール」による支援を受けて新しく事業を始める方 (5)「外国人起業活動促進事業」における特定外国人起業家の方で新しく事業を開始する方 (6)「独立行政法人中小企業基盤整備機構」が出資する「投資事業有限責任組合」から出資(転換社債・新株引受権付社債・新株予約権および新株予約権付社債等を含む)を受けた方
〔特別利率B〕の適用項目 (7)地方創生推進交付金を活用した起業支援金の交付決定を受けて新しく事業を開始する方 (8)開始する事業の技術・ノウハウ等に新規性がみられる方
〔特別利率C〕の適用項目 (9)地方創生推進交付金を活用した「起業支援金」及び「移住支援金」の両方の交付決定を受けて新しく事業を開始する方 |
(令和2年 7月1日現在)
女性、若者/シニア起業家支援資金
担保や保証、自己資金条件、融資後の利益率や雇用の等の目標を達成した場合の利率の引き下げ等は【新規開業資金】と同様です。この制度の利用条件にもありますが、35~54歳の男性は利用することが出来ませんのでご注意ください。
〈利用条件〉 |
■ 女性もしくは35歳未満か55歳以上の男性 ■ 新たに事業を始める方もしくは事業開始後おおむね7年以内の方 |
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〈融資額の使い道〉 |
新しく事業を開始するための資金、もしくは事業開始後に必要とする資金 |
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〈融資限度額〉 |
7000万円(運転資金の場合は4800万円) |
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〈返済期間〉 |
設備資金の場合20年以内(据置期間2年以内)/運転資金の場合7年以内(据置期間2年以内) |
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〈利率〉 |
※融資後、利益率や雇用に関する一定の目標を達成した場合、「創業後目標達成型金利」として利率が0.2%引下げる
■担保を不要とする場合
■担保を提供とする場合
■下記項目に当てはまらない場合は〔特別利率A〕
〔特別利率B〕の適用項目 (1)地方創生推進交付金を活用した「起業支援金」の交付決定を受けて新しく事業を開始する方 (2)開始する事業の技術・ノウハウ等に新規性がみられる方
〔特別利率C〕の適用項目 (3)地方創生推進交付金を活用した「起業支援金」かつ「移住支援金」の両方の交付決定を受けて新しく事業を開始する方 |
(令和2年 7月1日現在)
マル経融資(小規模事業者経営改善資金)
【新創業融資制度】同様に、無担保無保証での利用が可能で、自己資金要件がない融資制度です。利用には商工会議所や商工会などからの経営に関する指導を受けていることが必須となります。
〈利用条件〉 |
■ 商工会議所や商工会などからの経営に関する指導を受けている方(商工会議所の会頭、商工会の会長などの推薦が必要) |
〈融資額の使い道〉 |
運転資金 もしくは 設備資金 |
〈融資限度額〉 |
2000万円 |
〈返済期間〉 |
設備資金の場合10年以内(据置期間2年以内)/運転資金の場合7年以内(据置期間2年以内) |
〈利率〉 |
〔特別利率F 1.21〕 |
(令和2年 7月1日現在)
4.日本政策金融公庫を起業後に利用する際の注意点
【新創業融資制度】の利用条件
新創業融資制度は、創業してから2期目までの方のみが利用可能な制度となります。また、融資希望額の10分の1以上の自己資金が必要となることを覚えておきましょう。
審査期間
融資申込後に面談を行い、融資を決定するかどうかの審査結果が分かるまでの期間目安は2週間程度です。融資決定であれば審査結果後に契約書類が送られてきます。契約書類の提出、手続き完了後の3営業日後に融資額が入金される仕組みです。融資申込から実際にお金を受けとるまでの期間目安は1か月~1か月半程度となります。
返済実績
追加融資として日本政策金融公庫を利用する場合は、以前の融資で返済期日がしっかり守られていることが重要です。一度でも延滞してしまったことがある場合は、追加融資を受けにくくなります。返済期日に間に合わないことや毎月の返済額を見直すこと(リスケジュール)を行うことも、追加融資を受けにくくなるため、返済期日は守って利用することを心がけましょう。
5.融資を成功させるためのポイント
事業実績や資金の流れが分かる書類の提出
起業後の融資申込で重要な点は事業実績です。事業で実績がなく、赤字が続いている企業は、返済能力を疑われ融資を受けにくい特徴があります。起業後1年以上を経過している方は、決算書や確定申告書で事業実績を把握することができるため、追加書類の提出を考えましょう。
起業後1年未満の方は、決算書や確定申告書の代わりに、売上や経費など資金の流れが分かる試算書や損益計算書の準備をしておくと良いでしょう。
融資額の使い道と返済プラン
融資が可能かどうかの判断で重要なポイントは、融資後の返済能力があるかどうかです。
初めて日本政策金融公庫を利用する方は、事業内容や経歴、開業に至った経緯や事業に対する想い等を事業計画書をもとに細かく聞かれます。追加融資として2度目の日本政策金融公庫を利用する場合は、事業情報については細かく質問されないものの、追加融資に至った理由や資金の使い道などを聞かれます。
どちらの場合でも重要な点は、融資後の資金を事業のどの部分にどのように使用し、事業でどのように売上を立てるのか、返済計画が明確かどうかです。融資を受けたことで売上を出すことができ、その売上から月々〇万円の返済が可能ということを示すことが大切です。
融資額の使い道が曖昧かつ、返済プランが現実的でなければ融資決定も難しいと思っておきましょう。
追加融資として利用する場合
追加融資として2度目の利用となる場合は、事業が1期目を終えてからが良いでしょう。理由として、1期目を終える前ではまだ安定していないと判断されやすく、審査に不利に働いてしまうためです。
また、日本政策金融公庫の融資を完済してから3年以上を経過すると、支払いデータが消えてしまい、初回の融資申込時と同様の審査が行われるため、追加融資を申し込む場合は3年以内が良いでしょう。
なお、創業時に融資を利用し、決算書で利益が見られれば、融資を行ったことで利益を出せたという証明になるため、利益のある決算書を提示することも融資成功へのポイントとなります。
まとめ
日本政策金融公庫は中小企業の成長や発展を支援している機関のため、起業後の資金調達として利用することも可能です。無担保無保証、かつ低金利ということもあって利用する中小企業者が多いのも特徴です。
起業後に適した融資制度は、起業後2期目までの方、かつ融資希望額の10分の1を超える自己資金が必要となる【新創業融資制度】、自己資金要件はないが、担保や保証は相談次第となる【新規開業資金】【女性、若者/シニア起業家支援資金】、無担保無保証かつ自己資金要件もないが、商工会議所会頭、商工会会長等からの推薦が必要となる【マル経融資(小規模事業者経営改善資金)】の4つです。
起業後に融資を受ける場合には、事業実績や、計画的な返済プランを提示できることが融資を成功させるために重要なことなのです。
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平成24年8月以降 副業で税理士事務所勤務や広告代理事業、保険代理事業、融資支援事業を経験。
平成27年12月、株式会社SoLabo(ソラボ)を設立し、代表取締役に就任。
お客様の融資支援実績は、累計4,500件以上(2021年7月末現在)。
自身も株式会社SoLaboで創業6年目までに3億円以上の融資を受けることに成功。
【書籍】
2021年10月発売 『独立開業から事業を軌道に乗せるまで 賢い融資の受け方38の秘訣』(幻冬舎)
【運営サイト】
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